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プログラマブルな設計・検証のハード/ソフト・ツールで全ての成長分野に照準

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Phil Hester氏、米National Instruments社、研究開発担当上級バイスプレジデント


National Instruments社は、ソフトウエアとハードウエアでフレキシブルな測定器を製造してきたメーカーである。加えて組み込み系の設計ツールとして定評のあるLabVIEWを提供するメーカーとしても実績を上げてきた。その研究開発部門のトップにNIが関心を持つテーマについて聞いた。

米National Instruments社 R&D担当上級VPのPhil Hester氏

米National Instruments社 R&D担当上級VPのPhil Hester氏


Q1(セミコンポータル編集長): 今NIの研究開発部門で進めているテーマは何でしょうか。
A1(National Instruments社上級VP Phil Hester氏): NIの製品ラインはハードウエアとソフトウエア共に非常に多岐に渡りますが、期待している市場の一つは、NIWeek2012の基調講演でもお話しがありました教育です。NIには次世代のモノづくり社会を支援するような製品がたくさんあります。次世代のエンジニアや研究者を生み出すお手伝いをすると共に、学生にNIのハードウエア・ソフトウエア製品に親しんでもらいたいと考えています。
 当社が手掛けている製品は大きく分けて二つあります。測定器(Test & measurement)分野と組み込みシステム(Embedded systems)分野です。両分野を合わせると実に1万社のパートナーがいます。測定器分野では、パートナーはソフトウエアを使って自分で測定器を構成します。いろいろなパートナーに使ってもらうためにフレキシビリティと測定能力を持たせることが必要で、当社はさまざまな範囲の製品ラインを揃えていきます。組み込みシステムでの大きな課題の一つは、ソフトウエアコンテンツです。ハードウエアコストが下がってきて、より複雑なソフトウエアを走らせることができるようになってきたからです。

Q2: ユーザーからの要求の多い分野は何ですか。
A2: ユーザーの設計段階と製造段階における情報を検証するためさまざまな要求があります。図1のV字の左側は研究開発段階、右側のテストは生産段階を表しています。開発段階と生産段階の両方の要求に対して、NIはハードウエアとソフトウエアの両方の製品を提供してきましたし、これからも提供し続けます。製造分野からの要求はますます強くなってきています。最近リリースしたVST(ベクトル信号トランシーバ)(参考資料1)を使えば、デザインエンジニアは設計開発のスピードとプログラマビリティを上げることができます。VSTは、複雑な半導体チップを早く測定するのに最適なツールです。


図1 モノづくりの設計と検証段階をV字で同期をとる 出典:National Instruments

図1 モノづくりの設計と検証段階をV字で同期をとる 出典:National Instruments


Q3: VSTはベースバンドチップの設計などに有効ですね。
A3: はい。メリットは二つあります。一つはFPGAハードウエア回路を使って非常に早くテストできることです。生産レベルではより少ないテスターでチップを評価できます。もう一つはもっと重要なことですが、LabVIEWを使ってソフトウエアでシステム構成を変えられるということです。例えば新しい通信規格が出てきてもそれを即座に確認できます。つまりハードウエアを変えることなくソフトウエアを変えるだけで新しいテストができるのです。このVSTは近い将来、汎用でいろいろな規格を測定できるツールとなるでしょう。

Q4: 半導体デバイスの応用製品の数量が増えてくるようになると、今度は専用のツールが必要になってくると思います。NIWeek2012でインバータ専用ボードを発表しましたが(参考資料2)、専用モジュールについてはどのように考えていますか。
A4: パワーインバータモジュールは専用といえども広い応用範囲に使える製品です。組み込み制御システムではモータやインバータの効率をもっと上げることができます。このモジュールボードは、特にエネルギー分野、パワー分野に特化した製品ですが、プログラムできるので、さまざまなインバータやさまざまなモータを最適化するのに使えます。低コストで量産品をプログラムできる製品です。

Q5: 教育分野での製品にはどのようなものがありますか。
A5: 汎用製品としてmyDAQがあります(図2)。これはデジタル収集システムで、LabVIEWを使って応用ごとに最適化できます。数年前に発表したものですが、入門向けの製品です。このmyDAQに特定用途向けのアダプタボードを付けてクルマ用やパワーグリッドのシミュレータ、ロボットコントローラなどを作ることができます。
また通信技術向けの学生や入門者に対してはソフトウエア無線(SDR: software defined radio)を勉強するための製品もあります。通信モデムをプログラムで変えることができます。


図2 教育向けのmyDAQ製品

図2 教育向けのmyDAQ製品


Q6: これからどのような分野が成長すると見ていますか。
A6: NIは成長分野に合わせていけるため、製品のポートフォリオを広げることで成長してきていますし、これからも成長し続けます。
一般的な傾向としてムーアの法則が続く限り、バンド幅はより広くなり、精度はより高くなります。より高性能な製品を開発するため、通信にもエネルギー分野にもロボット制御にも使えます。基調講演でもありましたが、当社の製品は非常に広い範囲に渡り、超ハイエンドの分野ではスーパーコライダー(フランスCERNでヒッグス粒子発見に使われた超大型ハドロン衝突加速器)やスペースX(民間宇宙旅客機)などの設計にも使われています。
アナログ入力からADC、デジタル信号処理、DAC、アナログ出力という電子システムのシグナルチェーンを見ますと、アナログ回路が最も重要な決め手となる部分です。当社は特にアナログ入出力部に注力し、低コストで高速と高精度に対応していきます。高速/高周波の分野において、当社はAWR社とPhase Matrix社を買収しました。AWRは設計シミュレーションツールのメーカーで、Phase Matrixは周波数カウンタやシンセサイザなどのハードウエアのメーカーです。この二つの会社は共に現在の高速性能を超えた技術を持っています。速度と精度は高まる方向ですが、2社の買収によって一足先に高速・高周波技術を獲得しておくことができます。

Q7: こういった高周波アナログのエンジニアは日本ではとても少ないのです。米国ではいかがですか。
A7: 一般的には米国も同様で、世界的に高周波アナログエンジニアは不足していると思います。当社はアナログエンジニアを増やすために二つのことを行っています。一つはNI内部で研修したり、スキルのあるエンジニアを雇ったりします。もう一つは、三つの大学との共同プログラムを持つことです。例えばソフトウエア無線は世界の大学と一緒に開発し、学生の教育に役立てています。


参考資料
1. NIがワイヤレス分野に本格参入、ハンドヘルドの802.11ac測定器を開発 (2012/08/09)
2. 拡張性を常に意識、テクノロジーを未来へ発展させるNIの成長戦略 (2012/08/27)

(2012/09/06)

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