Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 技術分析 » 技術分析(製造・検査装置)

拡張性を常に意識、テクノロジーを未来へ発展させるNIの成長戦略

半導体企業やその関連企業はすべてテクノロジー企業である。テクノロジー企業を成長させるためには製品や技術に発展性あるいは拡張性を持たせることが必要だろう。拡張性があれば既存の回路やシステムは、再利用し低コストで次の世代のテクノロジーにつなげることができる。半導体メーカーではないが、測定器メーカーから出発したNational Instruments社は、拡張性あるテクノロジーを開発し続け成長している(図1)。

図1  ITバブル、リーマンショックを除き成長を続けるNI 出典:National Instruments

図1  ITバブル、リーマンショックを除き成長を続けるNI 出典:National Instruments


オシロスコープやスペクトラムアナライザ等の測定器はかつて専用機だった。計測部分の検出器やサンプラーなどからアンプを経て、測定データはA-D変換されデジタル的に処理される。統計的データ処理やディスプレイ表示の部分もある。そこで、デジタルデータ処理やディスプレイはパソコンで代用できるだろうと考えれば、測定部分だけをハードウエアボードに組み、そのハードウエアボードにプロセッサやマイコンなどのプログラム半導体を載せ、制御するためのソフトウエアを設ければ、汎用の測定器ができる。これをNI社は当初、Virtual Instrument(仮想計測器)と呼んだ。ソフトウエアとハードウエアボードを替えると、オシロにもシンクロにも、スペアナ、カーブトレーサにもなる。

NI社は、アップルのパソコン「マッキントッシュ」をモデルにしてGUIを利用する回路設計ツール「LabVIEW」を開発した。LabVIEWは電子回路だけではなく、機械部品をつないで装置を作るための機械設計ツールとしても使える。モノづくりの汎用的な設計ツールである。このためLabVIEWのユーザーは、電子回路エンジニア、機械設計エンジニアなど幅広い。しかも、シミュレーションモデルも搭載されているためテスト機能、計測機能もある。NIのマーケティング担当バイスプレジデントのEric Starkloff氏は、「(子供のおもちゃである)レゴブロックを使ったさまざまなモノづくりから、民間宇宙ロケットのSpaceXやCERNの巨大加速器の設計・テストまでLabVIEWが使われている(図2)」と語る。


図2 設計・テストツールであるLabVIEWはレゴからSpaceXの設計にまで使われている 出典:National Instruments

図2 設計・テストツールであるLabVIEWはレゴからSpaceXの設計にまで使われている 出典:National Instruments


1986年に最初のLabVIEW1.0を開発して以来、1990年にLabVIEWコンパイラ、2011年はLabVIEW FPGA IP BuilderやLabVIEW DSP Design Module等を発表し、今年はLabVIEW 2012をリリースした。同社の創業者の一人でありCEOでもある、ドクターTこと、James Truchard氏は、最初の基調講演で、やはり創業者の一人でビジネス&テクノロジー・フェローであるJeff Kodosky氏をLabVIEWの父として紹介した。Jeffは「マッキントッシュのGUIは直観的にわかりやすく、測定器もプログラムコードからできるだけ高いレベルの抽象度を求めてLabVIEWを開発した」と述べている。

LabVIEW 2012では、新しいテンプレートとサンプルプロジェクトという機能を設けた。テンプレートには、ユーザーが作る新しいシステムの品質確認と拡張性を考慮した設計を最初から織り込んでいる。最もよく利用する設計パターンを表示すると共に、いろいろな応用に向けたビルディングブロックとしても機能する。テンプレートに含まれる機能はステートマシン、メッセージハンドラー、フレームワークなど。サンプルプロジェクトは、いくつかのテンプレートを実際の応用に使えるような例を表示する。例えば、デスクトップ計測器、組み込み制御監視システム、RFシステム、マルチプロセッサシステムなどがある。これらのサンプルプロジェクトはGUIを備え、誤差の扱いやマルチタスクの実行などが可能である。一言でいえば使い勝手がさらに良くなったということだろう。

拡張性のあるハードウエア筐体には、PCベースの汎用測定器であるPXI(PCI eXtension for Instrument)と、小型化し再構成可能なCompactRIO、そして応用に特化しながらも拡張性のあるセミ専用ボード、がある。汎用の測定器としてモノづくりの試作現場や大学などでLabVIEWと共に設計・テスト(計測)に生かすことができる。

PXIボードは、汎用測定器のシャーシーに差しこむ構造になっており、その大きさは統一されている(図3)。オシロ用のボード、スペアナ用のボード、RF計測用のボードなどに加え、さらにコンピュータボードも揃えている。目的に応じて、PXIボードを差し替えることでさまざまな測定器に変身する。もちろん、複合的な測定器としてボードを追加してもよい。PXIシステムはLabVIEWを使って設計やテストが可能だ。


図3 PXIシャーシー(筐体)と差し込むモジュールボード

図3 PXIシャーシー(筐体)と差し込むモジュールボード


ワイヤレス応用に向けて今回発表されたVST(参考資料1)は、このPXIモジュールの一種である。特定の用途に特定の周波数スペクトルをマスクし、カスタマイズできるという。通信規格がまだ標準化されないような変調復調方式のテストを行う場合、変復調方式のアルゴリズムをFPGAで構成することができるため、他社に先駆けて新しい通信方式を試すことができる。ファブレス半導体メーカーのクアルコムはいち早くこのVSTを採用、新しいWi-Fi方式であるIEEE 802.11acのモデムの試作・検証に使っている。規格が世界で40種類もあるLTEのモデムチップの試作・検証にも打ってつけといえる。

CompactRIOもやはり、統一された小型のシャーシー(図4)を持つが、FPGAが組み込まれており、再構成可能な測定器であり、データ収録システムでもあり、組み込み制御装置でもある。基本構成として、I/OモジュールとFPGAシャーシー、組み込みコントローラのボードがある。再構成可能であるため、いろいろな組み込み制御機器や監視システムとしても使える。CompactRIOもまたLabVIEWで設計・テストできる。


図4 CompactRIOシャーシー(筐体)とモジュールボード

図4 CompactRIOシャーシー(筐体)とモジュールボード


ある程度応用を限定した専用ボードとして今回発表したものは、パワー半導体IGBT用のボードである(図5)。この専用ボードは、プロセッサとFPGAを搭載したNIのシングルボードRIOにGPIC(General Purpose Inverter Controller)を組み合わせた、IGBTドライバボードとなっている。ソーラーシステムからのDC電力をACに変換したり、風力発電機からのAC電力をIGBTを使ってインバータ制御したりするもの。


図5 IGBTパワー半導体(右側写真の放熱フィンに取り付け)を駆動するGPICボード

図5 IGBTパワー半導体(右側写真の放熱フィンに取り付け)を駆動するGPICボード


ソーラーからのDC電源を交流に替えるためのインバータにはIGBTをスイッチングさせて3相交流や単相交流を発生させる例が図6である。このボードは、最大出力500kWのインバータを駆動できる。加えて、FPGAを使ってゲートドライバをカスタマイズすることができる。大電力スイッチング用のIGBTだと4kHz程度しかスイッチングできないが、このGPICボードはスイッチングできる最大周波数として100kHzを用意している。将来、SiC MOSFETの駆動にも使えるようにするためだ。


図6 GPICボードの応用例はソーラーやバッテリからAC電力を生成したりモータを駆動したりする回路 出典:National Instruments

図6 GPICボードの応用例はソーラーやバッテリからAC電力を生成したりモータを駆動したりする回路 出典:National Instruments


参考資料
1. NIがワイヤレス分野に本格参入、ハンドヘルドの802.11ac測定器を開発 (2012/08/09)

(2012/08/27)
ご意見・ご感想