市場の重なる波乱要因:地政学・相互関税、AI圧倒、各国・地域自立化
半導体市場の今後に向けて、波乱要因が重なる状況を受け止めている。米中摩擦はじめ引き続く地政学的インパクトに加えて、米国の中国に対する輸出規制が依然尾を引いている。関税の応酬も、米中間で「合意成立」とされているが、米国と各国の交渉が続けられており、半導体の関税についてはいまだ明確に見通せない現時点である。AI(人工知能)分野が圧倒的に引っ張る現下の半導体市場も、今後どう推移するか、見定めが難しいところである。そして、各国・地域それぞれの中での半導体市場の自立化が進められているが、米国では後工程、中国では米国規制の影響など、立ちはだかる遅れ&懸案があらわれて、それぞれに克服に向けた対応が求められている。
≪幾多の障壁&課題≫
まずは、地政学・相互関税関連の動きから。
GlobalFoundriesのトランプ政権の支持に向けた米国における投資である。
◇GlobalFoundries Pledges $16 Billion U.S. Investment with Trump’s Help ―GlobalFoundries pledges a significant chip investment with backing from Trump, Apple and SpaceX. (6月5日付け EE Times)
→1)グローバルファウンドリーズは、アップルやスペースXなどのテクノロジー大手やドナルド・トランプ米大統領の支持を得て、米国の半導体製造に$16 billionを投資することを約束した。
2)グローバルファウンドリーズは、AppleとSpaceXの支援を受け、AI、データセンター、および低消費電力技術の強化を目指し、米国における半導体製造への$16 billionの投資を約束した。この動きはトランプ政権の政策目標と合致し、米国内の半導体製造業の再構築につながる。
3)グローバルファウンドリーズは、Apple、SpaceX、そしてトランプ大統領の支援を受け、米国の半導体製造に$16 billionを投資する計画だ。この動きは、AI需要、サプライチェーンの回復力、そして地政学的戦略を背景に、国内の半導体生産能力を強化することを目指している。
米中摩擦に絡む以下の内容である。米国と中国の話し合いについては、さらにどう落ち着くか、見定める必要がある。
◇China Weaponizes Rare Earths, Hitting Factories (6月6日付け EE Times)
→1)中国は希土類資源の優位性を経済的影響力として活用し、世界の製造業に混乱をもたらしている。
2)採掘から先進的な磁石生産に至るまで、希土類資源に対する中国の強大な支配は、世界のサプライチェーンを混乱させている。新たな輸出規制、価格上昇、そしてライセンス要件の厳格化は、既に中国の加工に依存している欧米の自動車メーカーや防衛関連企業を深刻な打撃に追い込んでいる。
◇Apple cannot leave China, with or without tariffs (6月8日付け Taipei Times)
→Patrick McGee氏の著書は、アップルが数十年にわたって中国に依存してきたことで、いかにして製造業の大国が築かれ、中国のイノベーションが促進され、一方で米国はトランプ大統領による国内生産への圧力にもかかわらず、そのエコシステムを再現することができなかったかを明らかにしている。
◇台湾の輸出、トランプ政権でも米国シフト 対中国24年ぶり30%割れ (6月10日付け 日経 電子版 11:00)
→台湾で輸出の米国シフトが目立ってきた。最大の出荷先である中国大陸向けの比率は1〜5月に28.1%となり、同期間では24年ぶりに30%を下回った。米国向けは26.8%に迫った。経済の中国依存が薄れたものの、貿易赤字を問題視するトランプ米政権の関税政策に振り回されるリスクは高まる。
◇Trump: China Will Ship Rare Earths in ‘Done’ Trade Deal―US, China announce deal on tariffs, rare earths (6月11日付け Bloomberg)
→1)ドナルド・トランプ米大統領は、中国との貿易枠組みが完成したと述べた。北京はレアアースと磁石を供給し、米国は中国人留学生の米国大学への入学を認める。ブルームバーグのStephen Engle記者がトランプ大統領の最近の発言を分析する。
2)ドナルド・トランプ米大統領は、中国との貿易協定を発表した。この協定には、北京がレアアースと磁石を供給し、米国は中国人留学生の米国大学への入学を認める内容が含まれている。この協定により、米国は中国製品に55%の関税を課す一方、中国は米国からの輸入品に10%の関税を課すことになる。この協定は、トランプ大統領と習近平国家主席の承認が必要となる。
◇China, US reach a ‘done deal’, Trump says, pending sign-off by President Xi Jinping―‘Full magnets, and any necessary rare earths, will be supplied, up front, by China,’ American leader adds, following trade talks in London (6月11日付け South China Morning Post (Hong Kong))
→ドナルド・トランプ大統領は水曜11日、中国と米国は「合意成立」に達したと述べ、合意違反の相互非難によって再燃した貿易摩擦の緩和に向けた突破口となる可能性を示唆した。
「習近平国家主席と私の最終承認を条件に、中国との合意は成立した」と、両国の交渉団がロンドンで2日間の協議を終えた際、トランプ大統領はソーシャルメディアに投稿した。「磁石一式と必要な希土類は、中国側が前払いで供給する。同様に、米国は中国側に、米国の大学を利用する中国人学生(これは私にとって常に好ましいことだ!)を含む、合意済みのものを提供する」とトランプ大統領は記した。
◇Bessent floats extending tariff pause for countries in ‘good faith’ trade talks―Bessent: Tariff pause could extend for "good-faith" partners (6月11日付け CNBC)
→1)*ドナルド・トランプ大統領による90日間の関税一時停止措置が終了に近づく中、スコット・ベッセント財務長官は期限延長に新たな前向きな姿勢を示している。
*ベッセント長官は、米国の「重要な貿易相手国」18カ国のうち、「誠意を持って交渉している」国については、トランプ政権は「誠意を持って交渉を継続するために期限を先延ばしする可能性がある」と述べた。
*ベッセント長官の発言は、トランプ大統領が米国と中国との貿易合意に達したと発表したものの、合意の枠組みに関する詳細は明らかにしなかったことを受けたものだ。
2)スコット・ベッセント財務長官は、誠意を持って積極的に交渉している国については、トランプ政権が7月8日の期限を延長する「可能性が非常に高い」ことを示唆した。4月の関税一時停止に端を発した、主要貿易相手国約18カ国を対象としたこの一時停止措置は、合意案の成立を推進するための戦略の一環だ。
AI需要で好調な韓国・SK Hynixも、今後に向けて警告を発している。
◇SK hynix CEO warns of looming tariff volatility despite AI chip boom―SK Hynix CEO: Tariff uncertainty may affect the second half (6月11日付け The Investor (South Korea))
→SKハイニックスのKwak Noh-jung CEOは、SKハイニックスの第1四半期売上高の70%以上が米国からのものであることを踏まえ、特に半導体を標的とした米国の相互関税戦略による関税引き上げの潜在的リスクを強調した。SKハイニックスは過去最高の売上高を記録し、AIプロセッサ向けの高帯域幅メモリ(HBM)と世界のDRAM市場を牽引したにもかかわらず、この警告は出された。
◇SK Hynix warns of rockier 2H25, leans on multi-sourcing strategy (6月12日付け DigiTimes)
→SKハイニックスのKwak Noh-jung社長兼CEOは、関税関連の不確実性の高まりにより、2025年後半に市場のボラティリティが高まる可能性があると警告した。同氏は、Icheon本社で行われた同社の四半期ごとの「THE Communication Event Together」でこれらの見解を述べた。
繰り返しになるが、米国と中国の関税については依然今後の推移に注目である。
◇米中、輸出規制の緩和見通し 米は半導体で譲歩 (6月12日付け 日経)
→米中両政府は9〜10日、貿易問題に関する閣僚級協議をロンドンで開いた。中国はレアアースの輸出規制、米国は半導体の輸出規制をそれぞれ緩和する見通しとなった。
◇米財務長官、相互関税の猶予延長を示唆 「誠意ある交渉なら」 (6月12日付け 日経 電子版 08:33)
→ベッセント米財務長官は11日、90日間としていた相互関税の猶予期間について一部を延長する考えを示した。「誠意を持って交渉していること」などを条件とした。7月9日の期限を過ぎても、各国・地域に割り当てた上乗せ分が発動されない場合もありそうだ。米連邦議会下院の歳入委員会で議員からの質疑に答えた。
次に、AIが圧倒する現下の半導体市場模様に関連する内容を以下に示す。
◇SK hynix overtakes Samsung in global DRAM market for 1st time in Q1: report (6月5日付け Yonhap News Agency)
→SKハイニックスは、HBM需要の急増に牽引され、1992年以来初めて世界DRAM市場シェアでサムスンを上回った。売上高は減少したものの、SKハイニックスは第1四半期に36.9%の市場シェアを獲得し、サムスンの34.4%を上回った。
◇SK hynix tops 2024 operating profit among 1,000 listed firms (6月9日付け Yonhap News Agency)
→SKハイニックスは、2024年の韓国の利益ランキングでトップに立ち、営業利益$15.78Bでサムスン電子を初めて上回った。売上高ははるかに少ないにもかかわらず、利益率は38.3%で、サムスンの5.9%を上回った。
◇Global Foundry Market Navigates Milder Dip in 2025 ―Policy and subsidies provide unconventional support. (6月9日付け EE Times)
→世界のファウンドリー市場は、米国の関税引き上げによる先行予約と中国の消費者向け補助金の恩恵を受け、2025年第1四半期にわずか5.4%の縮小にとどまった。TSMCはサムスンよりも不況をうまく乗り切り、SMICなどの中国市場に依存するファウンドリーは売上高を伸ばした。
◇TSMC still top foundry, with 67.6% market share (6月10日付け Taipei Times)
→1)季節的な弱さ:上位10社のファウンドリーの売上高合計は5.4%減少したが、特急注文と中国の補助金が需要の減速を部分的に相殺した。
2)TSMCは2025年第1四半期に世界のファウンドリー市場における主導権を強め、売上高の減少にもかかわらずシェアを67.6%に拡大した。AIとHPCの需要がスマートフォンの低迷を相殺した一方、Samsungは補助金と輸出の落ち込みによりシェアが低下した。
上記のSK Hynixも然り、全体を大きく引っ張るNvidiaについて、次の通りである。
◇世界の半導体大手3年ぶり最高益、エヌビディアの利益比率4割に 1〜3月 (6月12日付け 日経 電子版 05:00)
→世界の半導体10社の純利益が1〜3月期として3年ぶりに過去最高を更新した。2025年は計$46.3 billion(約6兆7200億円)と前年同期から41%増えた。けん引は3年前のスマートフォン向けからAI向けに変わり、米エヌビディアの全体に占める利益比率は約40%(22年は4%)になった。全体の市場予想では4〜6月も増益見通しだ。
台湾からの視点で、アップルからAIへの移行があらわされている。
◇台湾ITの業績変動要因 アップルからAIへ 5月 19社16.7%増収、サーバー堅調 (6月12日付け 日経)
→世界のIT大手に半導体やデジタル製品を供給する台湾メーカー主要19社の5月の売上高合計は前年同月比で16.7%増だった。AI向けのサーバーや半導体の需要が堅調だった。台湾IT大手の業績を左右する要因が米アップルからAIへと移りつつある。
そして、各国・地域の自立化関連である。
中国・HuaweiのCEO、任氏の言い表しかたである。
◇Huawei chips are one generation behind US but firm is finding workarounds, CEO says―Huawei CEO: Chip tech is a generation behind US peers (6月9日付け MSN/Reuters)
→Huawei Technologiesのチップは米国の同業他社のチップより1世代古いが、同社はクラスターコンピューティングを通じて性能を向上させており、年間$25 billionを研究に投資していると、CEOのRen Zhengfei氏は述べている。任氏は複合チップに可能性を見出しており、米国の輸出規制によってハイエンドチップへのアクセスが妨げられていることを指摘している。
◇Tech war: Huawei founder Ren says state-of-the-art chip performance can be achieved―Ren Zhengfei says his firm is just one of many Chinese chipmakers, adding that the US has ‘exaggerated Huawei’s achievements’ (6月10日付け South China Morning Post)
→ファーウェイ創業者の任正非氏は、自社のAscendチップが米国の技術に一世代遅れていることを認めたものの、クラスタリングとスタッキング技術によってその差を縮めることができると主張した。同氏は中国のAIの強みを強調し、基礎研究への投資を促し、そして米国の制裁を軽視した。
TSMCの世界的な基地展開の現時点である。
◇TSMC slows down global plans due to soft demand, but accelerates Arizona fab plans by six months for A16 / N2 production―Reports: TSMC accelerates Ariz. fabs, slows Japan, Europe projects ―TSMC's $165 billion U.S. investment gets speed boost (6月10日付け Tom's Hardware)
→最近の地政学的動向と需要の変化により、TSMCは投資戦略の見直しを迫られている。トランプ政権による製造拠点の国内化圧力の高まりを受け、同社は米国で建設予定のファブの建設スケジュールを最大6か月前倒しした。一方、世界の他の地域では、TSMCの日本国内ファブの稼働率が低迷し、建設中の2番目のファブも遅延に直面している。Digitimesの報道によると、ドイツの自動車産業の縮小は、TSMCの欧州へのさらなる投資を鈍化させる可能性がある。
米国国内での先端実装能力の不足があらわされている。
◇[News] TSMC Speeds Up Arizona Expansion, yet U.S. Packaging Plant Sites Reportedly Remain Up in the Air (6月10日付け TrendForce)
→TSMCは、ファブと研究開発を含む$100 billion規模の米国事業拡大を加速させているが、米国内に先進的なパッケージング能力が不足している。主要拠点は未定のままであり、AppleとNVIDIAからの需要増加にもかかわらず、完全な現地生産開始は遅れている。
◇熊本「TSMC門前倉庫」、工期遅れ相次ぐ 投資意欲続くも人手不足―新生シリコンアイランド (6月11日付け 日経 電子版 05:00)
→半導体製造に必要な原材料や産業用ガス、化学薬品を扱う物流拠点を新設する動きが熊本県内で続く。TSMCの国内第1工場(同県菊陽町)で量産が始まり、関連産業集積も進んでいるためだ。ただ建設業界の人手・資材不足は深刻。着工などが遅れ、稼働がずれ込むケースが相次いでいる。
それぞれさまざまな波乱要因を孕んだ半導体市場の推移に、一層目が離せないところである。
激動の世界の概況について、以下日々の政治経済の動きの記事からの抽出であり、発信日で示している。
□6月8日(日)
米中の今回の接触であるが、このロンドンでのやりとりはすでに上に示している。
◇US and Chinese officials meet in London for pivotal trade talks―US, China to hold key trade talks in London (Reuters)
→米中当局は、重要品目の輸出規制を含むまでにエスカレートした貿易紛争に対処するため、ロンドンで会談する予定だ。会談は、先月ジュネーブで暫定合意に至り、一時的に緊張が緩和されたことを再確認することを目的としている。
□6月10日(火)
上げ下げが交互する推移、AI需要期待で上げたものの中東情勢緊迫化から大きく下げて締めた今週の米国株式市場である。
◇NYダウ、小幅反落し1ドル安 利益確定売りが重荷に (日経 電子版 06:15)
→9日の米株式市場でダウ工業株30種平均は小幅に反落し、前週末比1ドル11セント安の4万2761ドル76セントで終えた。このところの株高で高値警戒感が意識され、取引終盤に小幅な下落に転じた。半面、貿易問題を巡る米中の協議が進展するとの期待から主力株に買いが入り、ダウ平均は高く推移する場面が多かった。
世界銀行も、不安定性から経済成長率予測下方修正である。
◇World Bank cuts global growth forecast as trade tensions heighten uncertainty―World Bank lowers global, US growth forecasts (Reuters)
→世界銀行は、2025年の米国の経済成長率予測を昨年の予測から1.4%に下方修正した。減速の要因として、最近導入された関税と貿易摩擦の激化を挙げている。また、世界経済の成長率見通しも2.3%に引き下げ、さらなる関税引き上げによって経済成長の勢いが少なくとも2008年以来の最低水準に落ち込む可能性があると警告した。
□6月11日(水)
◇NYダウ小幅反発、105ドル高 米中協議の様子見続く (日経 電子版 06:56)
→10日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、前日比105ドル11セント(0.24%)高の4万2866ドル87セントと3月上旬以来の高値で終えた。半導体やハイテク株の一角が買われ、投資家心理を支えた。一方、米中の閣僚級協議の結果を見極めたい雰囲気も強かった。主要株価指数が高値圏で推移するなか、利益確定売りも出やすく、ダウ平均は下げる場面もあった。
米国の消費者物価指数(CPI)、インフレ警戒を和らげている。
◇U.S. inflation rises 0.1% in May from prior month, less than expected―US inflation sees modest rise in May (CNBC)
→1)*CPIは前月比0.1%上昇し、年間インフレ率は2.4%となった。
*食品とエネルギーを除いたコアCPIはそれぞれ0.1%、2.8%となり、予想の0.3%、2.9%との比較である。
*エネルギー価格の低迷が上昇の一部を相殺し、関税関連の上昇が予想されるその他の主要品目、特に自動車価格と衣料品価格は実際には低下した。
2)5月のCPIはヘッドライン、コアともに4月比0.1%の上昇にとどまり、エコノミストの予想を下回った。コアインフレ率は前年比2.8%と、2021年初頭以来の低水準にとどまり、航空運賃、自動車および衣料品の下落が寄与した。
□6月12日(木)
◇NYダウ小幅反落、1ドル安 インフレ警戒は和らぐ (日経 電子版 06:07)
→11日の米株式市場でダウ工業株30種平均は小幅反落し、前日比1ドル10セント安の4万2865ドル77セントで終えた。このところ上昇していたハイテク株の一角に利益確定売りが出た。半面、朝発表の5月の米CPIが市場予想を下回った。インフレ再燃に対する過度な警戒が薄れ、ダウ平均は上昇する場面があった。
□6月13日(金)
◇NYダウ反発101ドル高 AI需要期待、オラクル株一時15%高 (日経 電子版 06:00)
→12日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、前日比101ドル85セント(0.23%)高の4万2967ドル62セントで終えた。ダウ平均の構成銘柄ではないが11日夕にオラクルが発表した決算や見通しがAI需要の強さを示し、ハイテク株や半導体株の一角に買いが入った。一方、米関税政策を巡る不透明感からダウ平均の上値は重かった。
□6月14日(土)
◇NYダウ769ドル下落 原油上昇、金先物は最高値迫る (日経 電子版 05:27)
→イスラエルによるイラン攻撃を受けて13日の米株式相場は急落し、ダウ工業株30種平均は前日比769ドル(1.8%)安の4万2197ドルとなった。原油先物は10%強上昇する場面があった。中東情勢の緊迫化でリスク回避の姿勢を強めた投資家は安全資産の金(ゴールド)に資金を移し、金先物は急伸して4月に付けた史上最高値に迫った。
≪市場実態PickUp≫
【アップルの開発者会議】
毎年開催のアップルのWorldwide Developers Conference(WWDC)であるが、AI開発の遅れが目立つ注目止まりとなっている。
◇Apple under pressure after AI stumble (6月9日付け Taipei Times)
→AI機能の遅延と開発者間の緊張により、AppleはWWDCで信頼回復のプレッシャーに直面する。ライバルが躍進する中、AppleはGenAIで追いつき、制約の多いエコシステムを見直せることを証明しなければならない。
◇Apple開発者会議、OSデザインを刷新 AI開発では後れ鮮明 (6月10日付け 日経 電子版 06:09)
→米アップルは9日、同日に開幕した年次開発者会議でスマートフォン「iPhone」などに搭載するOSのデザインや名称を刷新すると発表した。デザイン面で新機軸を強調したが、肝心の生成AI分野では画期的な技術革新を打ち出せず、開発競争での出遅れが鮮明になった。
9日、毎年1回開く恒例の開発者会議「WWDC」を開幕した。今年は13日まで開く。
◇アップル、AI遅れ鮮明 開発者会議、挽回策示せず iPhoneの画面刷新 (6月11日付け 日経)
→米アップルは9日、同日に開幕した年次開発者会議でスマートフォン「iPhone」の画面デザインを刷新すると発表した。OSも刷新したものの、肝心のAI分野では画期的な技術革新を打ち出せなかった。スマホの雄、アップルがAI開発競争での出遅れが目立ってきた。
アップルは9〜13日、年1度の開発者会議「WWDC」を開催する。初日は米カリフォルニア州の本社で、経営幹部の講演映像を流した。
【Nvidia関連】
パリでのイベントはじめ、英国、フランス、そしてドイツと、精力的にAIおよび量子コンピューティングの展開を図るNvidiaの動きについて、以下の通りである。
◇Nvidia promises 'massive increase in data' from AI―Nvidia exec: AI will produce massive data traffic (6月5日付け Light Reading)
→1)複数の報告によると、無線ネットワークを含む通信ネットワークにおけるデータトラフィックの伸びは減速傾向にある。しかし、AIの台頭はこの傾向に歯止めをかけ、あるいは逆転させる可能性もある。
2)NVIDIAのSVP of telecom、Ronnie Vasishta氏は、自動運転車やスマートグラスといったAIサービスによるデータトラフィックの急増を予測し、通信ネットワークはより強靭でセキュアなものにする必要があると主張した。同社の通信部門トップであるヴァシシュタ氏は、下院エネルギー・商務委員会の公聴会でこの問題について見解を述べた。
◇'In the last 10 years, AI has advanced 1 million times' - Nvidia CEO Jensen Huang hails 'incredible' speed of industry change―Nvidia CEO: AI hardware's speed has increased 1M times―But there's a catch. (6月10日付け Tom's Hardware)
→NvidiaのCEO、Jensen Huang氏は、London Tech Weekで英国のKeir Starmer首相と会談した際、AIの進歩のスピードを強調し、過去10年間でAIは100万倍に増加したと述べた。フアン氏の発言は、AIハードウェア、特にエヌビディアのグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPUs)を指していると思われる。GPUsは、Blackwell B200プロセッサが2016年のPascal P100プロセッサの2万倍を遂げているなど、性能向上が見られている。
◇Nvidia, HPE to build new supercomputer in Germany (6月10日付け Reuters)
→NvidiaとHPEが、Vera Rubinチップを使ったスーパーコンピュータで提携
◇Nvidia is building the 'world's first' industrial AI cloud-German facility to leverage 10,000 GPUs, DGX B200, and RTX Pro servers―The company wants to power Europe's AI goals. (6月11日付け Tom's Hardware)
→NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏は、GTCパリにおいて、同社が世界初の産業用AIクラウドをヨーロッパに構築していることを発表した。ヨーロッパ地域の製造業者は、設計、エンジニアリング、計画、シミュレーション、ロボティクスなど、様々な用途でNVIDIAのクラウドを活用することが期待されている。NVIDIAによると、BMW、マセラティ、メルセデス・ベンツ、およびSchaefflerといった企業は、Ansys、Cadence、およびSiemensのアプリケーションを利用しており、これらはすべてNVIDIAのハードウェアで動作可能である。
◇Nvidia CEO says quantum computing is reaching an ‘inflection point’ (6月11日付け CNBC)
→1)*「量子コンピューティングは転換点を迎えている」と、NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏は、同社の開発者会議GTCパリの基調講演で述べた。
*「今後数年間で、いくつかの興味深い問題を解決できる分野に量子コンピュータを適用できる可能性は、我々の手の届くところにある」とフアン氏は付け加えた。
*これらの発言は、NVIDIA CEOの量子コンピューティングに対するより強気な見方を示している。
2)NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏はGTCパリで量子コンピューティングへの楽観的な見方を表明し、近い将来に実用化されると予測した。ヨーロッパの量子スタートアップ企業を取り上げ、NVIDIAのCuda Qを宣伝し、今こそハイブリッドコンピューティングの進歩にとって「エキサイティングな時代」だと述べた。
◇NVIDIA building industrial AI cloud to support European manufacturing―CEO: Nvidia to build industrial AI cloud in Germany (6月12日付け New Electronics (UK))
→1)NVIDIAは、欧州の製造業を支援する世界初の産業用AIクラウドを構築している。
2)NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏によると、NVIDIAはドイツに初の産業用AIクラウドを構築する計画で、NVIDIA DGX B200システムとRTX PROサーバーに搭載された1万基のGPUsを活用し、
シーメンス、Ansysおよびケイデンス・デザイン・システムズのアプリケーションをサポートする予定である。この施設は、BMW、MaseratiおよびMercedes-Benzなどの企業向けに、AIを活用した製造とデジタルツインの強化を目指している。
◇Nvidia CEO sees tenfold increase in Europe’s AI computing power (6月12日付け Taipei Times)
→NvidiaのCEO、ジェンスン・フアン氏は、欧州のAIコンピューティング能力が10倍に増加すると予測し、20以上のAIファクトリーと、インフラの拡張、アクセラレーターの配備、そして現地語AIモデルの推進を目的としたMistralなどとの提携を発表した。
◇エヌビディア、AI半導体 欧州向け拡大 仏新興と提携 (6月12日付け 日経)
→米半導体大手エヌビディアは11日、欧州でAI半導体の供給を拡大すると表明した。フランスの新興企業ミストラルAIと提携し、データセンター向けに半導体を供給する。政府や企業がAIの国産化をめざすなか、開発に必要な半導体を売り込む。
エヌビディアのジェンスン・ファンCEOがパリで開催中の技術イベント「ビバテクノロジー」の基調講演で表明した。産業向けのAI活用について「欧州はAIファクトリーの重要性に目覚めた」と需要の急速な拡大を指摘した。
◇Nvidia bets on European AI push with new plant, partnerships amid shrinking China revenue (6月12日付け South China Morning Post)
→1)Nvidiaは、欧州に20のAI工場を建設することを約束しており、その中には1万基のGPUsを搭載する予定のドイツ工場も含まれている。
2)NVIDIAは、20のAI工場の建設計画、ドイツのクラウドハブ、そしてMistral AIとの大型契約など、欧州での取り組みを強化している。これは、米国の先進的半導体に対する輸出規制強化による中国での売上減少を相殺することを目指している。
【Huawei関連】
AI半導体の中国向け出荷を大きく絞る米国政府、その一方で中国国産5-nm半導体搭載のパソコン発売、とHuaweiをめぐる内容が以下の通りである。
◇[News] Huawei Advances, but U.S. Reportedly States China’s Advanced Chip Output Limited to 200K (6月5日付け TrendForce)
→米国はNVIDIAのチップの中国への輸出を厳しく制限しており、Lutnick商務長官は、Huaweiの進歩と国内市場シェアの拡大にもかかわらず、中国は需要をはるかに下回る20万個の先進的チップしか生産できないと主張している、とTrendForceが報じている。
◇ファーウェイ、「5ナノ半導体」PC発売 通販サイトに予約15万人 (6月7日付け 日経)
→中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は6日、ノート型パソコン「MateBook Fold」を発売した。半導体には回路線幅が5ナノメートル世代の国産品が初搭載されたといわれており、販売動向が注目される。
MateBook Foldは直営の通販サイト「華為商城」で5日夜までに15万人の予約が入った。パソコンを開くと全面が有機EL画面になる。「コストは非常に高い」(幹部)といい、販売価格は2万3999元(約48万円)からだ。
中国国営中央テレビなどによると5ナノ半導体「麒麟X90」を搭載する。
◇Huawei ‘has got China covered’ if the U.S. doesn’t participate, Nvidia CEO tells CNBC (6月12日付け CNBC)
→エヌビディアのCEO、ジェンスン・フアン氏は、米国によるAIチップへの規制が続けば、ファーウェイが中国の巨大なAI市場を独占する可能性があると警告した。フアン氏は、中国のエコシステムに地位を譲ることを避けるため、米国の技術に関する世界的な協力を強く求めた。
◇Huawei’s AI semiconductor output limited to 200,000 in 2025, US commerce official says―Commerce official: Huawei expected to only ship 200K AI chips this year (6月13日付け South China Morning Post (Hong Kong))
→*アナリストの推計によると、この数字はNVIDIAが2024年の最後の9か月間に生産した中国向けH20チップの100万個以上には及ばない。
*トランプ政権の米国輸出管理を監督する高官によると、ファーウェイ・テクノロジーズは今年、先進的なAI半導体を20万個ほど出荷すると予想されており、これらのチップの「ほとんど、あるいはすべて」が中国国内の企業に供給されると見込まれている。
【IBM関連】
繊細な問題の克服に向けたIBMの量子コンピュータの取り組みである。
◇IBM aims to build the world’s first large-scale, error-corrected quantum computer by 2028―The company says it has cracked the code for error correction and is building a modular machine in New York state. (6月10日付け MIT Technology Review)
→IBMは、モジュール式のエラー訂正量子コンピュータ「Starling」を2029年までに発売する予定で、GoogleやAWSといったライバルを凌駕する性能を目指している。Starlingは、リアルタイムのエラーデコード、200個の論理量子ビット、そして前例のない計算信頼性を約束している。
◇IBM Says It’s Cracked Quantum Error Correction ―A new chip design and architecture has IBM aiming for fault tolerance by 2029 (6月10日付け IEEE Spectrum)
→IBM は、エラー訂正の量子ビット要件を削減するために qLDPC(quantum low-density parity check)コードを使用する新しい量子アーキテクチャを発表し、2029年までに200論理量子ビットのフォールト トレラント量子コンピューター、Starling を構築することを目指しており、拡張性と実用性において大きな飛躍を示している。
◇IBM Aims for Quantum Computer in 2029, Lays Out Road Map for Larger Systems―IBM targets 2029 for fault-tolerant quantum computer (6月10日付け U.S. News & World Report/Reuters)
→IBMは2029年までに実用的な量子コンピュータを開発する予定で、約200個の論理量子ビットを備えた「Starling」システムを構築している。このプロジェクトの成功は、量子エラー訂正とリアルタイムのエラー識別・訂正の進歩にかかっている。
◇IBM Has a Roadmap to a ‘Fault-Tolerant’ Quantum Computer by 2029 (6月10日付け The Wall Street Journal)
→該高性能コンピュータは繊細でエラーが発生しやすい。IBMは今回、これらの問題を克服し、世界初の量子コンピュータを構築する方法について詳細を明らかにした。
【VLSIシンポジウム】
第45回VLSIシンポジウム(6月8日〜12日:京都)からの以下注目である。
◇半導体の有力国際学会VLSI、中国の発表数5年で10倍 研究力急伸 (6月11日付け 日経 電子版 05:00)
→半導体の基礎研究で中国の存在感が増している。12日まで京都市内で開催中の国際学会「VLSIシンポジウム」で、中国からの発表件数は5年前の10倍の50件に急増した。北米(米国とカナダ)や韓国に迫る勢いで、先端半導体の研究開発力を着実に増している。
◇Imec presents 150 GSa/s DAC that can achieve 300 Gb/s data transmission―Imec's DAC achieves 300 Gbps data transmission (6月11日付け New Electronics (UK))
→1)2025 Symposium on VLSI Technology and Circuitsにおいて、imecは高速デジタル・アナログ変換(DAC)における画期的な進歩を発表した。
2)imecは、5ナノメートルFinFET相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術を用いて、7ビット、150GS/sのDACを開発した。このDACは、PAM-4変調方式で最大300Gbpsのデータレートを実現している。このDACは、データセンターリンクの高速化への需要に対応し、レーンあたり400Gbpsを目指している。また、imecはユニットセルの総数を削減することで、速度を維持しながら電力効率を向上させた。
◇SK hynix Highlights DRAM Technology Roadmap at IEEE VLSI 2025 (6月11日付け EE Times India)
→SK hynix Inc.は、6月8日から12日まで京都で開催されるIEEE VLSI (Institute of Electrical and Electronics Engineers Very Large Scale Integration) 2025シンポジウムで、今後30年間の新しいDRAM技術ロードマップと持続可能なイノベーションの方向性を発表する。
【DRAM市場関連】
DDR4の価格急騰の見え方、などこれも波乱含みの現下のDRAM市場である。
◇[Insights] Memory Spot Price Update: DDR4 and DDR5 Chips Hit Price Parity in Early June amid Soaring Hikes (6月11日付け TrendForce)
→DDR4とDDR5のDRAMチップは6月初旬に価格が同等となり、一部のDDR4はDDR5を上回った。DDR4の供給は逼迫しているものの、価格上昇は緩和される可能性がある。一方、NANDフラッシュメモリの価格は、安定した需要を背景に緩やかな下落を続けている。
◇DDR4 crunch sends prices soaring 50%―DDR4 prices surge 50% amid reduced production (6月11日付け DigiTimes)
→メモリメーカーは旧プロセスの生産能力を削減しており、DDR4の価格が急騰している。
◇DRAM大口10%高 米韓大手の生産終了観測、中国の自国品優遇が背景 (6月12日付け 日経)
→DRAMの価格上昇が続いている。指標品の5月の大口取引価格は2カ月連続となる前月比10%高で決着した。メモリーの世界大手による、指標品を含む品種の生産終了や縮小観測が強まり、品不足が続いていることが主因だ。需要家の一部では、短期的な価格上昇を見越して在庫を積み上げる動きが出ているようだ。