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世界半導体はトランプ関税で減速懸念も〜台湾の生産額は前年比19%増、中国のSiCは急浮上〜

全くもって馬鹿げた米国トランプ大統領の関税問題が半導体業界にとっては懸念材料になると言われはじめた。なにしろ、世界のすべての国・地域に例外なく関税をかけてやるとの公約を実行しようとしているのであり、これこそクレイジーとしか言いようがない。我が国においても国家半導体戦略カンパニーともいうべきラピダスに逆風が吹き始めており、2027年以降のラピダスの最先端半導体の米国輸出について、徹底的な関税をかけられてしまえば、かなりの打撃になるのである。

ちなみに、筆者が予想する2025年の世界半導体市場は前年比15%増の100兆円台乗せとなる見込みである。設備投資はほぼ横ばいの17兆円と見ている。半導体のメインアプリであるスマホもパソコンも自動車も不調という中にあって、AI一人勝ちともいうべき展開になっている。AIの一本足打法だけでどこまでいけるのかという不安もあるが、データセンターに加えて、AIチップは今後年間12億台のスマホ、また年間2億5000万台のパソコンに搭載されるのだ。さらに自動走行運転を含めた多くの通信機能をもつコネクテッドカーの登場によって、AIチップはさらに伸びていくだろう。

ところがである。でたらめともいうべきトランプの関税政策が半導体デバイス、半導体製造装置、半導体材料などにも及んでくれば世界半導体は失速しかねないのだ。誠に厳しい見方をする評論家やアナリストは、2025年の半導体市場の成長率は5〜10%がせいぜいだろうと言い出すケースが増えている。

ところがどっこい。台湾ITRIの見方によれば、2025年の台湾半導体業界の生産額は前年比19%増の31.5兆円が予想されるというのだ。IC製造は23%増の20.3兆円、このうちファンドリは24%増の19.3兆円になるとしている。IC設計は14%増の7兆円、IC封止は9%増の2.2兆円、IC検査は6%増の1兆円になるとしているのである。2月の台湾半導体業界の生産額の予想値は、16.2%増であったからして、なんと3%近くの上方修正をしたことになる。これほど台湾が強気に出てくるのは、やはりAIチップの急成長が確実と見ているからである。

それはともかく、中国半導体の存在感についても、もはや無視することはできない状況となっている。ファーウェイが広東省深センに造成している大規模半導体施設、つまりはクラスタが衛星写真で確認されたのだ。先端半導体工場は3カ所構築しており、1カ所はファーウェイが運営、2カ所は半導体製造装置メーカーのSiCarrierとメモリチップのSwaySureが運営しているのだ。すでに、SwaySureはHBM積層パッケージング技術を研究開発中と言われており、世界を驚かせている。

また一方で、SiCパワー半導体についても中国ウェーハメーカーは販売を伸ばしており、前年比82%増となっている。300mmウェーハについても中国の内製化は急ピッチで進んでいる。日本や欧州のパワー半導体メーカーは、もはや中国の実力を無視することはできないだろう。

世界半導体市況にトーンダウンのかげりが見えている中であって、台湾と中国の動きには決して目を離すことはできない状況になってきているのである。

産業タイムズ社 取締役会長 泉谷 渉
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