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医療機器開発、日韓共同プロジェクト始まる〜両国、輸入超過解消へ

IT/半導体と医療のクロスオーバーが話題になっている。まるでジェットコースターのような受発注の波に振り回される電子デバイス業界と違い、医療機器は毎年緩やかに成長を遂げていく堅調な市場として非常に魅力的に映るのだろう。

「スマホの世界を制し、半導体メモリーと液晶のチャンピオンでもあるサムスンは、ここにきて医療機器をかなり強化している。なにしろ、世界で開催される医療機器の展示会においてサムスンは常に最大ブースを出展している。」こう語るのは、国内の大手医療機器メーカーの幹部である。

さて、日本の医療機器市場は2003年までは2兆円弱をうろうろしていたが、2004年からは緩やかな右肩上がりで推移し、2011年は約2.4兆円まで拡大した。これは1997年実績比で23%増となる。近年は国内生産額も緩やかに伸びてはいるが、それを上回る伸びを示しているのが輸入額。2011年ベースでみると、国内向けの生産額1.3兆円(輸出分を除く)に対し、輸入額は約1.1兆円にのぼっており、国内需要の実に44%を輸入に頼っている計算になる。

2011年の国内生産額1.8兆円(輸出分を含む)でもっとも大きな金額を占めているのが処置用機器だ。約4400億円の規模があるが、これは処置用機器に分類されているカテーテルでテルモなどの日本メーカーが大きなシェアを持っていることに由来する。一方で、2011年には2350億円を輸入しており、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど海外メーカーの製品も数多く国内市場で流通している。

処置用機器に続き、年間1000億円以上を生産しているのが、画像診断システム(2680億円)、生体機能補助・代行機器(2660億円)、生体現象計測・監視システム(2280億円)、医用検体検査機器(1450億円)、歯科材料(1180億円)の5分野だ。

さて、ここにきて日本と韓国の政治的な関係はすこしくギクシャクしているが、有望市場の医療機器開発を日韓合同で行うというプロジェクトが先ごろスタートしている。この計画は、韓国江原地区から多くの完成品を出荷している医療機器の技術と、オリンパスの拠点である福島工場の医療機器部品・技術を融合して新しい医療機器を開発し、双方の国内市場に加え復調著しいアジア諸国への販路開拓をめざすものだ。

韓国の医療機器産業は、生産額2525億円、輸出1336億円、輸入2016億円の大幅な入超で、企業数は1958社。地域別では、京畿南部が32.9%、江原が15.1%を占める。地域別輸出比率はそれぞれ33.9%、22.5%。主な生産品は、超音波診断装置11.3%、歯科用インプラントと歯科合金14.3%、眼鏡レンズ/ソフトコンタクトレンズ8.2%など。

さて、日韓共同医療機器開発計画を進めるためには、両国の製品・技術をデータベース化しリンクすることが必要だ。その上で、パートナー企業の選定やマッチングを促進し、国際競争力のある製品の創出、完成品の日本市場進出のための認証取得、韓国の病院などへの市場開拓に取り組む。

そのプロセスとして、両国市場の各報告書の分析、技術動向の分析や関連する研究所への訪問、専門家の諮問、企業基礎資料の調査(HSコード別、産業分類別、技術分類別に完成品および部品企業調査、確信技術や特許の調査)を経て、マッチングデータベースの構築を行う。データベースには各国50社以上が登録し、その中から国際競争力が確保可能なモデル事業を一つ以上見出して、プロジェクトをスタートする考えだ。

こうした共同プロジェクトにより国際競争力のある製品が誕生すれば、企業の要求に応じたオーダーメード型ネットワーキングで製品開発期間の短縮化が可能になる。韓国企業にとっては世界医療市場2位の日本への輸出拠点の確立、日本企業にとっては医療機器モジュール、部品の韓国市場拡大が図れることになるのだ。さらに、中国医療機器企業との技術格差を広げられ、グローバルな大手医療機器メーカーの市場への参入が狙えると期待している。

このプロジェクトが発表されたのは、2012年11月に福島県郡山市で開催された「メディカルクリエーションふくしま2012」の席上であるが、出席していた日本の関係者のひとりはこうつぶやいていたのだ。「東日本大震災で大きな被害を受けた福島県と韓国との間で始まったこの医療機器プロジェクトは、非常に意義のあるものになるだろう。日本の痛みを共有してくれる韓国の温かい気持ちに感謝したい。そしてまた、ITの成熟化が明らかになっている現在、次の成長産業の筆頭格は医療機器であり、ここに日韓連合軍が共闘して戦うというのも面白い現象だ」。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷渉
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