グローバルイノベータを目指せ
IBMのサービス部門であるIBM Global Business Serviceが日本のエレクトロニクス企業について調査したレポートを米国の友人からもらい、読んだ。パブリックに公開されているこのレポート「Winning the Global Challenge」は、日本のエレクトロニクス企業について分析し、その弱点と今後どう解決していくかというソリューションを提供している。
日本がとるべき道を紹介しているが、世界で今成功している企業はグローバル化によって国外売上を伸ばしていることをヒントに、グローバルイノベータを目指すべきだろうと、結んでいる。グローバル化への積極進出が成長の鍵となることは、最近さまざまなレポートや人たちも提案している。ただし、このレポートではなぜ日本の大手電機がこうなってしまったのかについてはあまり言及していない。少し考察してみる。
かつての日本は、海外から原料を輸入しそれを製品に加工、輸出して付加価値を上げるという加工貿易が支えていた。しかし、いつの間にかというよりも日米半導体摩擦および円高が進行し、さらに内需拡大政策に後押しされた結果、内需志向になってしまい、加工貿易という本来あるべき姿を見失ってきていると思う。
半導体全盛のころをよく分析してみると、DRAMを米国企業へ輸出していただけといっても過言ではないくらい、日本の半導体は輸出に大きく依存していた。米国の半導体企業はDRAM製品で日本に負けたため、独自の道を模索した。日本が得意ではない分野で復活した。インテルはDRAMをやめ、マイクロプロセッサにリソースを集中させた。LSIロジックはゲートアレイに専念した。テキサスインスツルメンツは95年ごろにDRAMをやめDSPとアナログに集中した。
アナログデバイセズやナショナルセミコンダクターはアナログ分野に集中し、リニアテクノロジーやマキシム・インテグレーテッド・プロダクツは新たにアナログに特化して起業化された。当時、これからはアナログからデジタルへ、と言われた時代だった。日本はデジタルだけに専念した結果、今日のアナログ技術不足を招いた。もちろん、アナログ分野では国内市場は圧倒的に米国企業に支配されている。
日本の大手を見ると、90年後半から得意としてきたDRAMをやめ、ASICやシステムLSIという分野に変更した。まさに輸出志向から内需志向へと切り替えてきたことに相当する。しかし、メモリー以外では大きな利益を生むことが難しかった。応用によってはゲーム用のロジックや、LCDドライバで利益を生むなど、単発的に成功した製品はあった。しかし、システムLSIで利益を生んだという話はあまり聞いたことがない。にもかかわらず、システムLSIに集中していたメーカーが多かった。
このシステムLSIという概念は曲者だ。ユーザーの声を聞きながら、ユーザーの求めるものを限られたユーザーだけに作る。これではほかのユーザーには売れない。半導体ビジネスは、ウェーハというシリコンの円板を一度に大量に処理することで利益の出るビジネスである。システムLSIを開発するのなら海外でも売れる商品を開発しなければならなかった。
しかし、国内に向いてしまった。大量に数の出るシステムLSIは何か。ASSP(アプリケーション・スペシフィック・スタンダードプロダクト)である。ASSPを設計するためにはシステムやそれに使うべきソフトウエアをLSIに組み込む必要がある。国内だけではなく海外のシステムも取り入れなければ大量の数にはならない。携帯電話向け半導体のように国内市場だけでは数量は見込めないことがはっきりしてきた。
結局、昔のDRAMの栄光を取り戻そうとするのならグローバルに出ていける特徴的な製品を設計、販売するということになる。これがグローバルイノベータになれ、というメッセージである。