欧州の光デバイス研究プロジェクトとのコラボは決して国益に反しない
先々週ワイヤレスジャパン2010が東京ビッグサイトで開催された。基調講演でNTTドコモの山田隆持社長、KDDIの小野寺正社長、ソフトバンクの松本徹三副社長がそれぞれ講演された内容は、データ通信のトラフィック増大にいかに対処するかという差し迫ったソリューションの提示だった。
7月14日のインダストリー記事で内容を伝えたため、ここでは触れないが、米AT&TがiPhoneやiPadなどの普及によってデータトラフィック量が急増し、定額制を廃止したことはまさにこの問題があるためだった。
先週はフランスのグルノーブル発のニュースが飛び込んでききた。欧州連合EUが「欧州シリコンフォトニクスクラスター」という組織を作り、欧州各国にある10のプロジェクトを束ねようとするものだ。シリコンフォトニクスといえば、まるでシリコンを光らせるかのような印象を受けるが、そのようなことにはあまり力を注がない。むしろ、シリコンのCMOSLSIと光デバイスをいかに集積するか、モノリシックでもSiPでもどちらでも構わない上に、チップ-チップ間、チップ-ボード間、ボード-ボード間なんでもいいが、要はTbps(テラビット/秒=1000Gbps)という高速の信号処理を行うシステムを作るためのデバイスの研究である。
実はこの研究も、データ通信トラフィックを改善するための技術である。日本では今や光配線や光デバイスとシリコンCMOS集積回路との一体化の研究はあまり盛んではないが、このテーマは今になって緊急課題となってきた。いつものになるか分からないが研究しておく、といったのんびりテーマではない。データトラフィックの増加にいかに対応するか、は焦眉の急だ。もちろん、波長多重などを含めた光デバイスだけが解ではない。フェムトセル、マルチキャリヤ、OFDM、コグニティブ無線などもトラフィック増大に対応する技術ではあるが、あらゆる面からトラフィック増大に備える技術を開発することが緊急課題になってきている。
国内でも半導体MIRAIプロジェクトの一環として光配線プロジェクトをやっていたが、このテーマは今年の3月で終わってしまった。むしろ実用化はこれからであり、これから実用化に向けた研究を欧州連合がフランス、ドイツ、ベルギー、ギリシャ、スペインなど各国の研究プロジェクトを束にしてやろうという時に日本ではもうお終いになっている。これで良いのだろうか。
これからが実用化に向けた本番だというのに、もうやめてしまうのか。むしろ、これまでMIRAIプロジェクトでやってきた成果を持ってEUのプロジェクトに参加させてもらってはどうだろうか。さもなければ、Tbpsの光技術でこれから日本が置いてきぼりをくいはしないか。これからの研究開発は海外とのコラボという視点がとても重要である。研究そのものだけではない。海外研究者とのディスカッションを通じて日本のプレゼンスを上げていく。しかも標準化すべき入出力技術やプロトコルに関する情報はいち早く入手できる。海外企業と歩調を合わせながら、すなわち海外市場の動きに合わせながら適切な製品やサービスを供給していくことができ、ガラパゴスから脱却できる。
日本政府という国家からの資金を投入して海外とコラボするのかという反論は当然出てこよう。しかし、何が国益か、何が国民にとっての幸せか、という視点で事実を見直してみよう。世界のメーカーと同時に成長でき、そこに働くものの幸せが得られるように雇用が確保できるなら、これこそ国民の幸せであり、そのことによって税金を納めることができ、国家が維持されることになろう。政府が税金を国家プロジェクトに投入してそのリターンを求めるのなら、そのリターンは、国民の雇用確保、国民の収入の安定化ではないだろうか。これまで政府は国家プロジェクトの出口を求めてきたが、リターンは得られたのだろうか。企業収益の回復につながったのだろうか。国民は幸せになったのだろうか。もう一度基本から考え直すべきではないか。