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機械からエレクトロニクスへ(第1回)−シリコンは金属よりも強い

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最近、ジェットコースターやロープウエイの事故が目につく。自動車のタイヤのボルトネジが外れる事故、古くは日航機御巣鷹山墜落事故、エレベータが開いたまま上昇した事故、高速道路のコンクリートの橋が崩れ落ちた事故、さまざまな機械による事故が気になっている。この13日にはクレーンの土台が半分から折れて落下した事故があった。出光興産では配管の腐食が原因で石油の漏れがあったと14日に報道された。鉄や鋼鉄などこれまで硬さや丈夫さでは負けないと思われていた金属材料の摩耗や、金属疲労、さびによる腐食などが原因の事故が意外と増えているような気がする。金属は万能ではない。

機械関係者は、金属のもろさを実はよく知っている。自動車は車検を義務付けることで金属が摩耗する前に摩耗し始めた部品を取り換えたり、修理したりすることで商品寿命を長くしようとしている。しかし、これでも実は金属疲労や目に見えない金属摩耗、内部のクラックなどの潜在的な故障要因を抱えたままになっている。自動車メーカーにとって自動車の安全性は絶対的なものである。だからこそ、金属を多用した機械部品を気遣う。いっそのこと、金属による機械部品をできるだけ取り除き、電子的に動かす方がよほど信頼性は上がり、軽量化=低燃費化ができるだろうと自動車エンジニアは考えている。カーエレクトロニクス化への傾斜の原点はここにある(カーエレに関しては次回に考察する)。

半導体デバイスは60年前、真空管よりも信頼性が低かった。本来は固体増幅器として、真空管よりも信頼性が高いはずなのにもかかわらず。だから開発当初から信頼性向上は絶対命題であった。このため誕生から今まで、アレニウスプロットだの、ワイブル分布だの、何FITだの、半導体デバイスと信頼性は切っても切れない関係にあった。たとえばp型半導体の中にn型の不純物を薄く拡散したデバイスは、時間と共にn型半導体がp型半導体中に拡散していってp型と混じってしまい、デバイス寿命は尽きてしまうのではないかという懸念は50年前からあった。

しかし、半導体シリコン自身の信頼性が崩れるという話は一度も聞いたことがない。シリコンデバイスの信頼性は半導体部分ではなく、配線金属部分や、酸化膜中のイオンなどと決まっていた。エレクトロマイグレーション、ストレスマイグレーション、TDDB(過電圧と高温下で時間と共に酸化膜がじわじわ破壊していく現象)、アルミ腐食、ウィスカーなども半導体バルクの故障ではない。もちろん、電圧サージなどの一瞬の過電圧で接合が破壊するとか、ラッチアップやホットスポットによる電流集中などでショートしてしまうことはある。しかし、通常の動作条件で長時間使っていて半導体バルクが破壊するという現象はまずない。

シリコンは実は機械的な信頼性が極めて高い。1984年にMEMS技術の最初の製品になったシリコン圧力センサーの動向を探るため、産業用制御機器メーカーを複数社取材した。このとき機械式のベロース(蛇腹)やロードセルなど、シリコンではない金属材料を使っていたエンジニアに、なぜシリコンを中空にくり抜く圧力センサーを作るのかをうかがうと、金属材料よりも機械的に信頼性が高いからだという答えが返ってきた。シリコンは機械的な金属疲労がなく、カンチレバーや中空構造でのたわみに強いのだという。

このMEMS技術を使うシリコン圧力センサーは、体重計や血圧計、電子秤で10数年の実績があり、カンチレバーにした加速度センサーなどはエアバッグに搭載されてやはり10数年経つ。最近の応用では任天堂のWiiやアップル社のiPhone、ハードディスク装置にも搭載されている。シリコンの支柱を形成する米テキサスインスツルメンツ社のDMD(デジタルミラーデバイス)ディスプレイも10年以上の実績がある。まだ摩耗やクリープなどの故障が見つかったという話は聞いたことがない。もし実例があったらぜひ教えていただきたい。

ただし、半導体はすべてシリコンのように強いわけではない。ガリウム砒素のようなIII-V化合物半導体やII-VI化合物半導体は機械的に弱い。人工的に例えばガリウムとヒ素を1対1で混ぜ合わせて作る化合物半導体は、転位という結晶のズレ(欠陥)が生じ、レーザー発光強度が落ちるという問題がかつてあった。人工的に作った結晶は転位密度がシリコンと比べて比較にならないほど大きく、欠陥だらけである。そのデバイスを動作させても欠陥が成長していかなければ実用上は問題ないため、使用に耐えているのが現状だ。すべての化合物半導体には常にこの危険性が伴っている。

人工的な半導体材料と比べるとシリコンは神様が人類にくれた贈り物のようにも思える。実用上は電気的に素晴らしい特性を提供してくれるし、機械的にも金属よりも信頼性が高い。MEMSが最近注目されている一つの理由は機械的な信頼性が高いことである。

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