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ABBAのグローバル戦略を見て、わが半導体業界について考える

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先月、AT&Tの取材の際に20年ぶりにニューヨークに立ち寄ってブロードウェイを歩いたらABBA(アバ)の音楽を全面的に散りばめたミュージカル「マンマ・ミア」の看板を見かけた。公演はまだ続いていた。これは10年以上に渡る大ヒットになった。2年前には映画にもなり、米国に出張した時に取材先や編集者同士で話題になった。ABBAは世界のポップグループとして再び注目を浴びるようになった。

ブロードウェイ


元々、ABBAは1970年代後半から80年代前半にかけて活躍したスウェーデンの男2名、女2名のポップスグループである。ファーストネームのアグネタ、ビョルン、ベニー、アンニフリッドのイニシャルA、B、B、Aを合わせたのがグループ名になっている。

ABBAというスウェーデンのポップバンドは、最初からグローバル戦略をとり、世界進出を果たした。スウェーデン語で歌を歌っていては世界で活躍できない、との思いから、ヨーロッパ歌謡選手権(ユーロビジョン)をはじめとして欧州、米国などの市場では英語で歌を歌うことを決めた。さらに、歌詞にスペイン系の名前Fernando(フェルナンド)、Chiquitita(チキティータ)をタイトルにしたり、フランス語Voulez-vous(ブーレブー)といった言葉もタイトルにした。Chiquititaはスペイン語でも歌った。ABBAは世界中から愛された。当時のプロモーションには目を惹くような派手な衣装やヌードを連想する構図をレコードジャケットに使うなど、さまざまな仕掛けを織り込んだ。世界の注目を惹くためだ。歌もさることながらジャケットも話題を呼んだ。

80年代半ばに解散、2組の夫婦(金髪のアグネタとビョルン、そしてベニーとアンニフリッドの2組)はそれぞれの道を歩きながら、音楽を作り続けていた男二人ビョルンとベニーが90年代後半にミュージカル「マンマ・ミア」を仕掛け、再び世界で注目を集めるようになった。しかも舞台はスウェーデンではなくニューヨークのブロードウェイに変わった。日本でも劇団四季が上演した。日本での公演は終わったが、本場のニューヨークではまだ続いていた。

ABBAは最初から世界を相手にし、グローバル戦略を立てた。欧州を見ていると、言葉や民俗文化などの違いを認めながら、一緒に協力するというグローバル化のマインドがある。イギリスは日本と同じ島国である。しかし、大陸との行き来が多い。外資を呼んだり海外へ出ていったり、欧州大陸の国々と協力し合うことはイギリスでは当たり前になっている。北欧も大陸との交流が盛んだ。

日本は島国だからという言い訳はもうやめよう。わが半導体業界はどうやってグローバル化を図るかを企業ごとに考えよう。ただ、世界で通用する半導体産業に変身させるためには、企業の努力だけでは不十分。政府の協力も必要だろう。産業経済活動に政府が協力できるのはただ1点。世界の企業と同じ税金、税率、税の仕組み、会計方法などインフラを整えることである。補助金を配ることは、補助金を当てにする体質、すなわち市場経済の競争力を失う体質につながり、却って弱体化を招く。

日本では税金は、製造業でも金融業でも一律最大40%の法人税を課しているが、「製造業は設備投資が欠かせないため従業員の人件費を抑えることで何とか利益を出しているが、金融業はそれほど大きな設備投資は要らないのだから、製造業の法人税と金融業の法人税は違ってしかるべきだ」と、ある金融アナリストは言う。「だからいつまでたっても金融業の方が給料は高い。法人税をせめて30%に下げることで製造業のエンジニアの給料を高くすれば、キーパーソンを確保できる」(同氏)。

将来に向けたハイテク産業への税制優遇措置も世界共通なのに、わが日本にはない。世界の製造業が日本を通過してしまうのは、日本に工場を作るメリットが何もないからだ。かつてインテルが本気で日本に工場を設立しようと考えたことがある。しかし、結局そうしなかったのは税制上のメリットがなかったからだといわれている。国内メーカーさえ、国内にとどまる理由はあるか。メリットがなければ空洞化は避けられない。

加えて、「派遣切り防止が法制化されると製造業はますます日本が嫌になり海外に工場を移転するようになる」と同アナリストは言う。残業や好不況のバッファとなり、昔から伝統的に行われてきた季節工という仕事が認められなくなると、空洞化を加速するかもしれない。

世界のコンペティタと競争している以上、同じ土俵を作らなければ競争にならない。これこそ、政府が果たすべき役割ではないだろうか。日本だけが不利な条件で世界と戦えというのでは、「戦力は増強しないから大和魂で頑張れ」と言いながら大事な部隊を硫黄島などで死に追いやった大本営と同じではないか。民主党政権には世界と戦うための土俵作り、インフラ作りをぜひともお願いしたい。

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