IoTのデータ解析にAIで実績、ルネサスがチップとソフトを販売
AIを利用してIoTシステムのデータを解析する事例や製品が登場する。ルネサスは300mmウェーハラインの那珂工場での実績に基づく製品を提供し、ユーザーである明電舎は半導体装置からの異常を判断するAIエッジコントローラを発売、東京エレクトロンデバイスがIoTのセキュリティをAIで判断する。AIは量子コンピュータとの親和性が良い。
ルネサスエレクトロニクスがディープラーニングを利用して、半導体製造装置の異常を判断するシステムを稼働させている、と11月22日の日経産業新聞が報じた。「生産工程で不良品につながる機械異常の予兆をAIが判断する仕組みで、不良品の発生回数が1/10以下に抑えられたという。生産工程の失敗による廃棄損を減らしたことにより6ヵ月間で5億円のコスト削減効果につながった」と報じている。那珂工場では、半導体製造装置内の特殊なガス濃度の測定や、産業機械の加工音や歪、温度、電圧などの変化をIoTセンサで読み取り、これらの大量のデータをAIで解析し、機械異常の予兆を発見できるとしている。
27日の日刊工業新聞は、ルネサスが11月内にAIを搭載した半導体の提供を始めると報じた。工場では、生産ラインからIoTセンサで収集した電流や電圧、振動などの大量のデータを取得し、コンピュータでデータ処理を行い、設備の異常を判断する学習モデルを作成する。この学習モデルを半導体チップに焼き付け、ラインの稼働データから高精度に異常を検知するとしている。これまでは、正常に稼働していても異常と判定してしまう「虚報」があったが、那珂工場では月に50回あった虚報の数を、AIチップを使うことでゼロにできたと報じている。ルネサスは、4月の開発者会議「DevCon」で、クラウドで学習させ、エッジで推論を行う組み込みAI「e-AI」に力を入れている(参考資料1)。ルネサスのe-AIでは、オープンソースのCaffeやTensorFlowで表現したAIソフトウエア(学習済み)をマイコン開発ツールに変換するe-AIトランスレータなどマイコンやSoCに実装しやすいツールを提供している。
27日の日本経済新聞は、ルネサスが生産性改善システムで明電舎と台湾Adtechと提携、ルネサスが設計したAIを組み込んだファクトリーオートメーション機器をこの2社が生産・販売すると報じた。ルネサスが2年間、那珂工場でこのシステムを導入、AIの精度を高めてきた。システムを支える半導体やソフトウエアをルネサスが主導して開発、FAメーカーに提供した。
ルネサスの顧客である明電舎は、半導体製造装置をはじめとする各種自動化装置からのセンシングデータを収集し、AI学習結果から対象装置の異常を検知し、エンドポイントで予知保全を行う小型AIエッジコントローラを発売した、と22日にプレスリリースを流している。製造装置ではビッグデータをクラウドに上げて処理するとリアルタイム性が失われがちになるため、このコントローラはエッジに設置し異常を素早く判断する装置である。顧客ごとに生産装置は異なるため、IoTセンサを顧客の生産ラインに取り付け、収集したセンサデータを学習サーバに送り、そこで学習させた後、AIパラメータをエッジコントローラに書き込む。
ルネサスは、那珂工場での実績を元に、生産機械や設備に後付けするだけで、センサデータの収集から分析、判定までのプロセスを可能にし、異常検知や予防保全に役立てられる「AIユニット」の一般売りを開始する、と27日発表した。これはハードウエア開発のためのリファレンスデザインとAI処理を実現するソフトウエアで構成されている。
東京エレクトロンデバイスは、IoTデバイスへのサイバー攻撃を検知するソリューションの提供を始めた、と21日の日刊工業が伝えた。機械学習を用いて、ビッグデータから4000種以上のデバイスを分類できる。デバイスごとの通常動作や通信パターンなどを把握し、学習・分類することで、攻撃者を見つける。
AIが得意なのはパターン認識や巡回セールスマン問題のようなニューラルネットワークを利用するシステムで、量子コンピュータも同様な計算が得意。量子の世界の二重性を利用することで、1と0を同時に並列演算ができるという特長を持つ。詳細は不明だが、NTTが量子コンピュータを試作したと21日の日経は報じている。その中で、GoogleがAIの演算高速化を狙い、UCサンタバーバラ校と共同研究を行うという。これまでのAIは特定の計算が得意だが、Googleが狙うのは汎用AIのようだ。
参考資料
1. ルネサス、組み込みAIを前面に (2017/04/13)