米国競争力強化を目指すAmerica COMPETES法案を超党派で提出−
Harry Reid上院民主党院内総務(ネバダ州)を始めとする計43名(注:1)の上院議員が3月5日に、グローバル経済における米国競争力強化のためにイノベーションや教育への投資を推進する「America COMPETES法案(America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence in Technology, Education, and Science Act:上院第761号議案)」を超党派で提出した。
前議会(第109議会)では、全米科学アカデミー(National Academies of Science)発表の報告書『Rising Above the Gathering Storm』や、競争力協議会(Council on Competitiveness)発表の『イノベート・アメリカ(Innovate America)』という報告書の提言に基づき、「米国競争力優位保護法案(Protecting America's Competitiveness Edge Act = PACE法案)」(注:2)、「2006年米国イノベーション競争力法案(American Innovation and Competitiveness Act of 2006:上院第2802号議案)」、「米国競争力投資法案(National Competitiveness Investment Act:上院第3936号議案)」等が上院に提出されたが、中間選挙の年の政治が絡んで、いずれも成立には至らなかった。
「America COMPETES法案」はこうした法案に含まれた条項の多くを統合したもので、Harry Reid上院民主党院内総務とMitch McConnell上院共和党院内総務の双方が支持していることから、早ければ4月にも、直接上院本会議へ持ち込まれ、審議にかけられる見通しである。同法案は、(1)商業と科学;(2)エネルギー省;(3)教育;(4)全米科学財団という4章構成となっている。各章の主な条項は下記の通り:
- 商業と科学:別称は「米国イノベーション競争力法案(American Innovation and Competitiveness Act)」
《科学技術政策局(OSTP)》
米国科学技術事業の健全さや方向性を検討するために、国家科学技術サミット(National Science and Technology Summit)を開催する。大統領は、サミット終了後90日以内に、サミットの結果に関する報告書を発表する。
革新能力に影響をもたらす通常の運営・財政面リスクを超えた新規リスクの確認、および、その緩和方法の見直しに関する調査研究を、全米科学アカデミーに委託する。
全ての初等・中等学校が「科学技術工学数学の日(Science, Technology, Engineering, and Mathematics Day)」を年二回祝うよう奨励する。
OSTP局長は、同法令施行後270日以内に、サービス科学(service science)と呼ばれる新興分野を連邦政府が如何に支援すべきかについての調査を実施し、議会に報告する。《イノベーション促進》
大統領イノベーション・競争力委員会(President's Council on Innovation and Competitiveness)を設置する。委員会では、
(1)イノベーションを促進する公法やイニシアティブの実施状況をモニターし;
(2)教育・職業訓練・技術研究開発への政府資源配分について大統領に助言し;
(3)米国のイノベーション能力に影響を及ぼす既存および提案中の政策や規定の効果を査定する方法を策定し;
(4)イノベーションを助長する好機を確認して連邦省庁長官に提言し;
(5)連邦政府の進捗状況を測定するメトリクスを策定し;
(6)進捗状況について大統領と議会に年次報告書を提出する。
委員会メンバーは、商務省・国防省・教育省・エネルギー省・厚生省・国土安全保障省・労働省・財務省・環境保護庁の長官、米航空宇宙局・行政管理予算局・OSTPの局長、証券取引委員会の会長、全米科学財団の総裁、米国通商代表等で、商務長官が同委員会の議長を務める。
米国内でイノベーションを支援・推進する「イノベーション促進研究プログラム(Innovation Acceleration Research Program)」を設置する。科学・数学・工学・技術の研究に出資する連邦各省庁は、年間研究開発費の約8%を同プログラムへ配分する。《米航空宇宙局(NASA)》
基礎研究活動支援に携わるプログラムや資源を管理する基礎研究協議会(Basic Research Executive Council)を設置する。
2007年度の基礎科学研究予算を1億6,000万ドル増額する。《国立標準規格技術研究所(NIST)》
NISTの2008年度予算として7億360万ドル(内、1億1,500万ドルが製造技術普及計画(MEP)予算)、2009年度に7億7,400万ドル(内1億2,000ドルがMEP)、2010年度に8億5,100万ドル(内1億2,500万ドルがMEP)、2011年度に9億3,650万ドル(内1億3,000万ドルがMEP)を認可。
高リスク・高リウォードの研究を通じて米国のイノベーションを支援・推進する「標準規格技術促進研究プログラム(Standards and Technology Acceleration Research Program)」を設置し、NIST年間予算の最低8%を同プログラムに計上する。《国立海洋大気局(NOAA)》
NOAA局長は、全米科学財団総裁およびNASA局長と協議して、「海洋大気研究開発プログラム(Ocean and Atmospheric Research and Development Program)」を設置する。
- エネルギー省:別称は「エネルギーによる米国競争力優位保護法案(PACE-Energy法案)」
エネルギー省(DOE)長官は、DOE全体の数学・科学・工学教育プログラムを管轄する数学科学工学教育部長を指名する。
国立研究所の共同科学センターやその他の認可された教育活動および教育パートナーシップに関連するプログラムを実行するため、「数学・理工系教育基金(Mathematics, Science, and Engineering Education Fund)」を新設し、同省の研究開発・実証・商業化活動予算の最低0.3%を同基金に充てる。
中高生を対象に、DOE国立研究所でのインターンシップを提供し、数学や科学の実践体験習得を推進する「夏期インターンシップ・プログラム(summer internship program)」を設立する。
公立のK-12学校に勤める教師の理数科指導技能を補強するため、DOE各国立研究所において2週間以上の「夏期講習プログラム(Summer Institute Program)」を開設または拡大する。同プログラム実施予算として、2008年度に2,500万ドル、2009年度に4,000万ドル、2010年度に5,000万ドル、2011年度に7,500万ドルを認可。
高等教育機関の原子力科学教育能力を拡充するプログラムを設置する。「原子力科学プログラム拡大グラント(Nuclear Science Program Expansion Grants)」(注:3)では、原子力科学の学位を新設する高等教育機関に年間最大3件のグラントを授与し、「原子力科学競争グラント(Nuclear Science Competitiveness Grants)」(注:4)では、原子力科学専攻の卒業生を現在輩出している高等教育機関に年間最大10件のグラントを授与する。
独自の研究に携わる有能な若い科学者や技術者に年間10万ドルのグラントを5年間交付する「DOE初期キャリア研究グラント(DOE Early-Career Research Grant)」の実施予算として、2008年度に1,300万ドル、2009年度に1,950万ドル、2010年度に2,600万ドル、2011年度に3,250万ドルを認可。DOEは2011年まで、毎年最低65件のグラントを交付する。
カーボンニュートラル技術等のエネルギー技術開発における長期的かつ高リスクな技術障壁を克服するため、ARPA-Energy(エネルギー先端研究計画局)を設置する。DOE長官は、ARPA-Energyの局長を指名するほか、DOE長官とARPA-Energy局長に答申を行う諮問委員会を設置する。
「2005年包括エネルギー政策法」(注:5)を修正し、DOEの基礎研究予算として2009年度に48億ドル、2010年度に49.45億ドル、2011年度に52.65億ドルを認可する。
DOEのミッションに重要な科学または工学分野で博士号の取得を狙う学生を対象とする「PACE大学院生フェローシップ計画(PACE Graduate Fellowship Program)」を新設する。対象となる学生は米国市民または米国永住者で、2008年度予算は930万ドル(200名)、2009年度は1,450万ドル(300名)、2010年度は2,500万ドル(500名)、2011年度は3,550万ドル(700名)とする。 - 教育
教員免状と同時に、数学、科学、工学、または重要外国語の学士号を取得できる教育課程を提供する高等教育機関に競争グラントを授与する。2008年度から2010年度までの予算として、年間1億1,991万ドルを認可。
教師のナリッジ・指導技能の向上を目的として、教師のために数学、科学、または重要外国語の定時制(2〜3年)修士課程を確立する高等教育機関に、競争グラントを授与。2008年度から2010年までの予算として、年間9,009万ドルを認可。
2008年からの4年間で、アドバンス・プレースメント(AP)/国際バカロレア(IB)の数学、科学、または重要外国語を教える教師を7万人増数し、APやIBの数学、科学、または重要外国語の試験を受けて合格点を取る中・高校生の数を年間70万人まで増やすことを目的とする「AP/IBプログラム」の下で、教育長官は、州政府や地方政府の教育委員会、または、非営利教育機関と州政府や地方政府の教育委員会とのパートナーシップに競争グラントを交付。2008年度の予算は5,800万ドル。
「Math Now for Elementary School and Middle School Studentsプログラム」 …幼稚園児から中学生を対象とする数学指導方法を改善し、特に、数学の習熟度が不十分で苦悶している低所得家庭の生徒を指導することによって、全生徒の成績を学年平均以上まで引き上げるプログラム… の下で、教育長官は州政府の教育委員会に競争グラントを交付。2008年度予算は1億4,670万ドル。
重要外国語を学ぶ生徒が小学校から高等教育まで順調に上達してそれに熟達することを可能にする、「重要外国語パートナーシップ計画(Foreign Language Partnership Program)」を確立する高等教育機関に競争グラントを交付。2008年度のプログラム予算は2,200万ドル。 - 全米科学財団
全米科学財団(NSF)の予算を2007年度からの5年間で倍増。2008年度は68.08億ドル、2009年度は74.33億ドル、2010年度は84.46億ドル、2011年度は112.0億ドル。NSF総裁は同法令施行後180日以内に、認可予算の使用方法を説明する包括的な複数年プランを上院の商業・科学・運輸委員会と衛生・教育・労働・年金委員会、および、下院の科学委員会に提出する。
「大学院生研究フェローシップ計画(Graduate Research Fellowship Program)」を拡大し、同法令施行後5年間で、更に1,250名の米国市民または米国永住者にフェローシップを給付する。また、フェローシップ受給期間を最高5年間に延長する。2008年度から2011年度まで毎年250名づつ増える同フェローシップ計画の資金として、2008年度に2,400万ドル、2009年度に3,600万ドル、2010年度に4,800万ドル、2011年度に6,000万ドルを認可。
「大学院統合教育研究トレイニーシップ(Integrated Graduate Education and Research Traineeship)計画」を拡大し、同法令施行後5年間で更に1,250名の米国市民または米国永住者にトレイニーシップを給付する。毎年250名づつ増える同トレイニーシップ計画予算として、2008年度に2,200万ドル、2009年度に3,300万ドル、2010年度に4,400万ドル、2011年度に5,500万ドルを認可。
NSF総裁は、4年制高等教育機関および科学者を雇用する連邦政府省庁と協力して、成功している科学修士課程プログラムや数学理工系関係のその他上級学位プログラムで使われているプログラム要素を共有するクリアリングハウスを設置する。
「科学・技術・工学・数学の人材育成プログラム(Science, Technology, Engineering and Mathematics Talent Expansion Program)に2008年度予算として4,000万ドル、2009年度に4,500万ドル、2010年度に5,000万ドル、2011年度に5,500万ドルを認可。
EPSCoR(Experimental Program to Stimulate Competitive Research)の2008年度から2011年度予算として、年間1億2,500万ドルを認可。
(America COMPETES Act、March 2007; Senator Harry Reid News Release, march 5, 2007; Senator Pete Domenici Press Release, March 5, 2007; CQ Today, March 6, 2007)
注釈:
- 同法案を提出した超党派グループの内訳は、Harry Reid(ネバダ州)、Jeff Bingaman(ニューメキシコ州)、Hillary Clinton(ニューヨーク州)、John Kerry(マサチューセッツ州)、Barack Obama(イリノイ州)を含む民主党23名、Mitch McConnell上院共和党院内総務(ケンタッキー州)、Pete Domenici(ニューメキシコ州)、Ted Stevens(アラスカ州)、John Warner(バージニア州)を含む共和党19名、および、Joe Lieberman(無所属、コネチカット州)上院議員の43名。
- PACE−Energy法案(上院第2197号議案)、PACE-Education法案(上院第2198号議案)、PACE-Finance法案(上院第2199号議案)の3本。
- 上院第761号議案では同グラントの予算として、2008年度に900万ドル、2009年度に1,300万ドル、2010年度に1,800万ドル、2011年度に2,250万ドルを認可。一方、Pete Domenici上院議員(共和党、ニューメキシコ州)が2006年に提出し、上院エネルギー・天然資源委員会が昨年可決したPACE-Energy法案(上院第2197号議案)では、この認可額は2008年度が300万ドル、2009年度が450万ドル、2010年度が600万ドル、2011年度が750万ドル。
- 上院第761号議案では競争グラントの予算として、2008年度に1,100万ドル、2009年度に1,650万ドル、2010年度に2,200万ドル、2011年度に2,750万ドルを認可している一方、昨年委員会で可決されたPACE-Energy法案(上院第2197号議案)では、2008年度が500万ドル、2009年度750万ドル、2010年度1,000万ドル、そして2011年度が1,250万ドルであった。
- 「2005年包括エネルギー法」に盛り込まれたDOE基礎研究予算は、2007年度が41.53億ドル、2008年度が45.86億ドル、2009年度が52億ドル。