「日本の得意なメカトロニクスのAIを開発すべし」〜Nvidia Huang CEO
NvidiaのCEO、Jensen Huang氏(図1)がNvidia AI Summitで来日、日本がAIで勝つための「秘策」を示唆してくれた。Nvidiaは、日本全国にAIグリッドを構築するというアイデアでソフトバンクと提携した。また、日本では3000社がNvidiaのチップを使っていることを12日のプレビュー会見でシニアVPのRonnie Vasishta氏が明らかにした。日本とNvidiaのつながりは意外と深そうだ。

図1 NvidiaのCEO、Jensen Huang氏
Nvidia AI Summitは、10月7日から米国での開催から始まり、10月23日にインド、そして11月12日から日本で開催してきた。インドはこれから有望とみられる市場であると同時にLSI設計者が多いという魅力もある。そして日本は、ゲーム向けGPUの一大市場として見ており、現在はAIソフトウエアで出遅れた日本にとって何が重要かを提案した。その答えとして、「AIはソフトウエアでは日本が出遅れてしまったが、メカトロニクスに強い日本はメカトロニクスをさらに強くするためにAIを組み込むことが日本の得意な製造業をさらに強くすることになる」、とNvidiaのCEOであるJensen Huang氏は述べている。
日本には、日本特有のAIシステム(ソブリンAI)を作るためのさまざまなパートナーシップを紹介した。ソブリン(Sovereign)とは、辞書を引くと「国王、当事者、君主、主権国家」という名詞の他に、「卓越した」という形容詞もある。ソブリンAIとは、日本が得意な卓越したAIといえる。それも日本に限ったことではなく、各国の強みを生かしたAIという意味でNvidiaはソブリンAIと呼んでいるようだ。
このサミットでは、例えば、ソフトバンクと組んで、AIのためのインフラであるAIグリッド(まるで電力網のようにAIをどこからでも使えるような仕組み)の構築に向けて提携した。電力網の発電所にあたるソフトバンクのAIスーパーコンピュータには最新のGPUであるBlackwellを採用、日本のAIを強化する。AIスパコンではNvidiaのDGX SuperPodとDGX B200などのシステムを導入する。さらに、さくらインターネットやGMO、Highreso、KDDIなどにもH200をはじめとするGPUコンピュータを導入、クラウド運営を強化する。
また、産業用ロボット大手の安川電機の次世代ロボットアーム「Motoman Next」にもNvidiaのAIを組み込んでおり、ロボット自身が状況を把握し、自ら判断・計画しながら、最適な方法で作業を完結させるという自律的なロボットを3台のコンピュータで設計、シミュレーション、テストを行っている。ここにNvidiaのAIロボット開発のIsaacシミュレータとデジタルツインのOmniverseを導入しているという。ロボットアームの作業効率を上げ、自律的な適応性を高めている。
産業界では、ロボットだけではなく、トヨタ自動車やセブン&アイ・ホールディングスなど自動車や流通関係でもAI用のGPUを使っている。さらに医療・ヘルスケア分野でも手術支援するAIであるHoloscanが日本の病院で使われており、癌を見分けるための富士フイルムのAIネットワークが活躍、また創薬開発にも製薬会社がGPU(物理AI)を使っているという。エヌビディア・ジャパン代表取締役社長の大崎真孝氏によると、日本の3000社と関わり、AIでは実に25万人をトレーニングしてきたという。また日本のトップ10大学や国立研究所など共、コラボレーションしてきたとしている。
Huang CEOは、これまでも日本とのかかわりが深く、ゲームの絵をもっと写実的に描くためにGPUを開発してきただけではなく、京都の苔寺では苔の手入れを20年している職人(クラフト)が印象的だったと述べている。さらにスタートアップ当時の資金面でセガの入交副社長に助けられたことも日本との逸話として13日の基調講演で述べている。
Nvidiaはゲームから始まり、スーパーコンピュータの演算にもGPUが有効であることを知り、HPC(High Performance Computing)分野でもGPU市場を開いたが、GPUをスパコンに最初に導入したのが当時東京工業大学にいた松岡聡教授(現在、理化学研究所の計算科学研究センター長)だったことをHuang氏は明らかにした。GPUがAI(画像認識)にも威力を発揮することを見つけたのが、ノーベル賞を受賞したカナダトロント大学のヒントン教授らのグループであり、2012年のことだ。これが最近のAIブームのきっかけになったが、以来NvidiaはAIを強化するようになった。