Bluetoothのチャネルサウンディング測距機能が搭載
Bluetooth無線通信規格に、また新しい応用が出てきた。これまでマウスやキーボード、イヤフォンなど手軽な短距離無線を中心に広がってきたが、データレートを落とした長距離無線やIoTセンサ向けのメッシュネットワーク、一斉送信させるブロードキャスト機能、電子値札デバイス、位置検出などの機能を追加してきた。ここにチャネルサウンディングと呼ばれる測距機能が加わった。

図1 Bluetooth 技術は将来も成長しそう 出典:Bluetooth SIG
Bluetoothは、単なる遅いデータレートで無線の部品をつなぐ用途ではなくさまざまな応用を可能とするようになり、今後もCAGR(年平均成長率)8%という成長率で推移するとBluetoothを推進するBluetooth SIG(Special Interest Group)は予想する(図1)。4年後の2028年には、Bluetooth搭載デバイスは年間75億台出荷されるという見込みである。
もはや近距離無線通信規格という言い方はふさわしくなくなった。実験レベルではあるが、低軌道衛星からの通信も可能になっている(参考資料1)。1km程度までなら通信できる長距離通信仕様もある。
Bluetooth SIGは、Bluetooth技術と商標を管理する団体であり、1998年に設立された。新しい応用に対して新しい仕様を標準化し、その仕様を満足する製品であれば製品を認定する。クロスライセンス保有企業数は4万社を超えるとしている。
今回仕様を決めたチャネルサウンディング機能とは、数十メートル離れた距離を±20cm程度の誤差で検出するというもの。Bluetoothは単なる電波を飛ばす規格ではあるが、電波を飛ばし対象物からの反射波との位相の差から距離を測定する。仕様では最大150メートル(m)まで使えることになっているが、SIGではその実験をまだ行っていないと、Bluetooth SIG Technical Marketing DirectorのDamon Barnes氏(図2)は述べている。
図2 Bluetooth SIG Technical Marketing DirectorのDamon Barnes氏
これまで行った実験は、Samsung System LSI部門とLamda:4、Entwicklungen社が協力したもの。スマートフォンなどのBluetooth発信機を見通しの良い直線距離の場合と、発信機をズボンの後ろポケットの影となる位置に置いた場合で比較した(図3)。受信機から1m、5m、10m、20m、50mと離して実験した結果、見通しの良い場所なら50m離れても±20cmの誤差、後ろポケットに入れたとしても±50cmの誤差で距離を測定できた。
図3 実験データ アンテナ数は上から1本、2本、4本で行っている 出典:Bluetooth SIG
測距機能を使う応用として、スマートロックやタグ、Bluetoothチップを内蔵しているデバイスを持つ人の検出などがある。スマートロックでは玄関のドアに近づき、キーをタッチするとドアが開く、という応用が想定されている。チャネルサウンディング機能を搭載していないBluetoothのスマホならいくら近づいても認識できないためドアは開かない。デバイスのIDと紐づけしておけば、セキュリティを確保できる。またタグ利用は今でも電波の届かない所に移動すると警告が表示されるが、もっと距離精度が必要な用途に使えるようになる。また、ショッピングセンター内でチャネルサウンディング機能を搭載したスマホの所有者を検出できるため、「あなただけの割引セール」を提供することができそうだ。
実現する技術は半導体チップとチップにプログラムするソフトウエアスタックなどで検討するが、半導体チップに埋め込むプロトコルスタックになるだろうという。というのはソフトウエアであればプログラムされたデータを書き換えてアップデートできるためだ。25年以降のスマートフォンやタグに搭載されることになり、Android 15で対応していく予定だ。
図4 Bluetoothの今後の開発計画 出典:Bluetooth SIG
Bluetoothは今後も新しい機能を搭載していく。Bluetooth HID(Human Interface Device)の遅延を1ms以内に抑えた規格をBluetooth LE(Low Energy)に組み込む技術や、最大データレートを8Mbpsに上げたBluetooth LE、さらに周波数を現在の2.54GHzから5GHz、6GHzのライセンス不要の周波数帯へ対応などの開発計画がある(図4)。これからも進化し続けるBluetoothから目が離せない。
参考資料
1. 「Bluetoothで衛星と通信した、スタートアップのHubble Network」、セミコンポータル、(2024/05/09)
2. 「Bluetoothは今後5年間でなぜ9%も成長するのか」、セミコンポータル、(2023/04/14)