Analog Devices、半導体から医療機器分野に進出
アナログ半導体大手のAnalog Devicesがウェアラブル医療機器に進出する。人間の心肺機能を自宅で毎日チェックできるウェアラブルデバイス「Sensinel CPM」を開発、厚生労働省に相当する米FDA(食品医療品局)の認可を受け、この機器が医療機器として認められたため、発売することになった。半導体メーカーが医療機器も作る時代になる。
図1 Analog Devicesの「Sensinel CPM」(左)と、センサ(右) 出典:Analog Devices
Analog Devices, Inc.(ADI)が開発したこのウェアラブル心肺計CPM(Cardiopulmonary Management)システムは非侵襲(体を傷つけない)で、心肺に関する9項目を測定する。すなわち、拡張期心音、各種の心音、心拍数、相対一回換気量(1回の呼吸で起動や肺に出入りするガスの量)、体温、呼吸数、胸部インピーダンス、身体姿勢、単一リード心電図の9項目。これらの測定を5分以内に全て行い、心臓発作の初期状態などを検出する。
心肺機能を測定するセンサは、図1の右にあるような形をしており、身体との接触にはゴムなどのアタッチメント(図2の左から2番目)を介してセンサを身体に張り付ける。
図2 Sensinel CPMシステムと共に使うハードウエア・ソフトウエア部品 出典:Analog Devices
測定が終わったら、使い捨てのアタッチメントを外し、図1のベースステーションと呼ばれるデバイスに収める。ベースステーションではセンサの充電機能に加え、ウェアラブルセンサからのデータをストアし、セルラー回線を利用して自動的にADIのSensinel CPMクラウドプラットフォームにアップロードする。クラウド上で、Sensinel CPMインテリジェントアルゴリズムを使ってデータを解析する。
この医療デバイスの目的は、病院での医療従事者の負担を減らすことである。患者が病院内に溢れることがないようにする。心臓欠陥などで搬送される患者が向かう集中治療室は、平時には開けておきたい。このため、心肺の病気を抱える患者を、病院ではなく家庭でいつでも状況を見られれば、適切な早期治療を受けてもらうことができる。
病院に在籍する医療チームは、複数の患者のデータをクラウドからいつでもパソコンなどで見ることができるようにソフトウエアダッシュボード(図2の右端)を利用する。ダッシュボードには毎日取得された患者のデータをグラフで分かりやすく可視化されている。
ADIのデジタルヘルスケア部門担当シニアVPのPatrick O’Doherty氏は次のように語っている。「当社のウェアラブルからの生体信号検出と信号処理技術のハードウエアと心臓専門医からのインスピレーションで得たアルゴリズムを組み合わせることで、Sensinel CPMシステムを開発した。これにより、複雑な心臓疾患患者の毎日の健康状態を正確に測定できるようになる。このサービス製品は、数十億ドルという未開拓市場を開ける可能性がある」。しかも、患者のケアと医療チームの働き方を改善し、医療費を削減できるというメリットもある、としている。
また、ニューヨークのマウントシナイモーニングサイド病院の心臓病部門の部門長のSean Pinney医師によると「ADIのSensinel CPMシステムはとても正確で、再現性があり、信頼できるソリューションで、予知治療の改善になる」と述べている。
ADIがFDAの認可を得たのは創業59年間で初めてのことだという。それもそのはず、半導体メーカーであるADIが医療機器とサービスを提供する訳だから。医療機器業界はユーザーである医療チームに提供してきて、半導体メーカーは医療機器企業にチップを提供してきた。それが半導体メーカーから医療チームへ直接、機器を提供することになる。半導体産業の位置づけが変わってくるかもしれない。