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半導体の民主化を狙うGoogleがNISTと提携、中小研究者向けにチップを提供

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Googleは、カスタムSoCの欲しい顧客を集めて設計と製造などをアレンジするという、半導体の民主化サービスを展開しているが、このほど米商務省傘下のNIST(国立標準技術研究所)と業務提携した。カスタムSoCが欲しい研究者やスタートアップが安く入手できるようにする(図1)。

NIST Intefrated Circuits for Metrology Workshop September 20 -21, 2022 (Virtual Only) / NIST

図1 GoogleはNISTと提携、9月下旬にオンラインワークショップを開く 出典:NIST


Googleがこれまで進めてきた仕組みは、カスタムSoCが欲しいという半導体ユーザーに対し、設計作業を受け持つデザインハウスのEfabless、製造を受け持つファウンドリのSkyWater Technologyにそれぞれ手配して作るというもの(参考資料1)。SkyWaterのウェーハシャトルサービスを利用して、複数のメーカーのSoCを1枚のウェーハ上で製造する。

SkyWaterは元Cypress Semiconductorが持っていたミネソタ州ブルーミントンの工場をスピンアウトさせて手に入れた。純粋に米国生まれのファウンドリであり、DoD(国防総省)とも契約、半導体チップを受注しており、最近は自らをTrusted Foundry(信頼できるファウンドリ)と称している。資本も設立も米国発であり、アラブ資本のGlobalFoundriesとは違うという姿勢を打ち出している。

ただ、今回の提携では、大学の研究パートナーを持つNISTがSoCのチップ設計を行う。米商務省のプレスリリース(参考資料2)によると、回路設計はオープンソースであり、大学や中小組織の研究者たちがライセンス料や制限なしで欲しいチップを入手できる。つまりCPUコアがRISC-Vであることは間違いない。RISC-Vは、ライセンス料なしでCPUを自分で自由に設計できるIPコアである。CPUにRISC-V、OSにLinuxを使えば誰でもフリーでコンピュータシステムや組み込みシステムを設計できるようになる。

実際には、チップ設計を行う研究パートナーは大学である。ミシガン大学、メリーランド大学、ジョージ・ワシントン大学、ブラウン大学、カーネギー・メロン大学が設計パートナーとして参加する。大学側もVLSI設計の教育・訓練の場となる。

これまで、半導体を設計・製造できる企業は大企業に限られていた。試作コストが数十万ドル(数千万円)もかかり、スタートアップや大学の研究者が自分のカスタムSoCを手に入れることは難しかった。そこで、今回NISTがライセンスフリーのフレームワークを作って、研究者が誰でもチップを手に入れられるようにした。「自分の研究にチップを受け入れられるような価格で供給してもらえる。さまざまな研究者とスタートアップとのコラボレーションが米国のイノベーション創出につながる」とNISTディレクターのLaurie E. Locascio氏は述べている。この産官学コラボレーションの仕組みは、CHIPS法案が可決される前に計画されていたという。

ファウンドリSkyWaterのプロセスは、90nmまでしか提供できないものの、TSMCが開発している7nmや5nmプロセスの実際の寸法が15nm前後で止まっているため、シミュレーションで7nm/5nmプロセスをある程度評価できる。また、最先端の半導体は、寸法の微細化から面積の微細化に変化しているため、3次元技術を駆使して面積シュリンクを積極的に行うことで性能を上げることができる。このため、NISTはナノセンサや、バイオエレクトロニクス、AIや量子コンピューティングなどに向けたデバイスを手に入れられるようになると述べている。

また200mmウェーハをベースにするSkyWaterのプロセスが90nmプロセスと遅れているからといっても、200mmウェーハでNISTが期待する40種類のSoCを設計・製造できれば、半導体のコストダウンに大きく貢献できるようになる。加えて、チップの性能・消費電力・面積(PPA)が満足できる結果を得られるようになれば、標準的な200mmウェーハで製造するため、試作から量産で市場へ出荷する期間(Lab to market)はかなり短縮できると見ている。

TSMCのエリアシュリンクの手法に関しては、今月の会員限定Free Webinar「TSMC研究」でその概要を報告する。


参考資料
1. 津田建二、「Googleがカスタム半導体の民主化・自由化を推進」、News & Chips (2020/11/14)
2. "NIST and Google to Create New Supply of Chips for Researchers and Tech Startups", 米商務省 (2022/09/13)


(2022/09/16)

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