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GlobalFoundries、政府と顧客からの出資を当てに生産能力を倍増

GlobalFoundriesが米国における生産能力を2倍に上げることを正式に発表した(参考資料1)。ニューヨーク州マルタにある既存のFab 8工場の生産能力と、近くに建設する新工場の両方を自社の投資だけではなく、連邦政府や自動車メーカーをはじめとする顧客にも出資を仰ぐ。官民一体のパートナーシップを米国がこれから始めることが歴史的だと上院議員は述べている。

図1 ニューヨーク州マルタにあるFab 8工場 出典:GlobalFoundries

図1 ニューヨーク州マルタにあるFab 8工場 出典:GlobalFoundries


この発表は、米国政府と民間企業との間で、半導体のサプライチェーン問題をさらに前進させようとのディスカッションを受けたものだとしている。タイミングとしては、IntelがGlobalFoundriesを買収するという噂をWall Street Journalが数日前に採り上げ、ほぼ同時にGFが米国における工場の生産能力を2倍に上げるという話もあった。しかし、今回の正式発表は、Intelによる買収のうわさ話とは無縁であることを示唆している。半導体チップのサプライチェーンでは、米国はファブレスが多く、国別シェアでは65%を占めている。しかし製造での生産能力のシェアは12%しかなく、製造を台湾のファウンドリに依頼している。

製造を台湾に大きく委ねてよいものか。これが米国でのディスカッションのテーマである。中国が台湾に侵攻すればTSMCは中国に渡り、米国はハイテク王国の座を失う。この最悪のシナリオを念頭に、製造を本土に戻そう、という動きが最近の米バイデン政権のテーマになっている。

GFは既存工場Fab 8に10億ドルを投資、年間15万枚のウェーハ処理能力を追加、半導体不足に即座に対応する構えを見せている。今回、これに加えて、ニューヨーク州のマルタ(アルバニーから北へ40〜50kmの街)に新工場を建設して生産能力を倍増する。この工場では1000名のハイテクエンジニアを採用、工場建設には間接人員として数千名が係わるという。新工場建設には、顧客や連邦政府からの資金を調達する予定だ。自動車や5G通信、IoTなどの高成長市場を対象にセキュアで高機能なチップの製造に応えていく。これにより、サプライチェーンの国家安全保障をサポートするとしている。

GFは、シンガポールにも新工場を建設することをすでに発表しているが、さらに1000億ドルを投資してドイツのドレスデン工場も拡張、世界中の顧客に対応していく旨を強調している。マルタでの新工場建設は政府とのパートナーシップを結ぶことで実現していくとGFのCEOであるTom Caulfield氏は述べている。同氏は、「政府や自動車産業のリーダー、国家安全保障の専門家、価値ある顧客と一緒に参加してディスカッションを深めていくことを光栄に思う。米国経済と国家の安全保障をサポートするための米国製半導体チップの信頼性の高い供給体制を構築していく」、と述べている。

今回のような半導体不足を解消するための米国半導体製造を強化するために国家の支援(インセンティブ)を確立するための歴史的な戦いだと、Chuck Schumer上院議員は語っている。米国はこれまで民間企業の投資に補助金を出すことをしてこなかったため、今回のような投資は歴史的だという訳だ。バイデン政権の520億ドルの使い道こそ、米国企業の投資に使うべきだと同氏は言う。

翻って、日本は経済産業省がこれまで1社のために補助金は出さないと常々語っていた。みんながまとまれば補助金を出すと言って、国家プロジェクトを何度も繰り返してきたが、日本の半導体産業は活性化しなかった。今回の米国のように日本政府は民間企業に補助金を出すだろうか。経産省の在り方が問われている。

参考資料
1. GlobalFoundries Plans to Build New Fab in Upstate New York in Private-Public Partnership to Support U.S. Semiconductor Manufacturing (2021/07/19)

(2021/07/21)
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