コロナ禍でもR&D投資の手を緩めない、Mouserの業績から見えるもの

Mouser社のビジネスは、研究開発や製品開発などエンジニア向けの半導体・電子部品の供給である。基本的に量産工場向けではない。このため、幅の広い製品ポートフォリオを揃えていることが他のディストリビュータにはない特長となっている。部品といっても新製品から昔からの標準品であるロングテール製品まで揃えている。揃えている部品点数は106万6361種類にも上るという。開発者は新製品だけを使う訳ではなく、ロングテール製品も交えて、新しい電子機器を設計するからだ。

設計エンジニアにターゲットを絞り、かつワンストップショッピングで届けることをミッションとしている。生産エンジニアとは違い、MOL（最小注文個数）は適用しない。テキサス州にある倉庫から受注確定後24時間以内に出荷し、北米なら翌日、日本でも2〜4日間で届くことを目指している。米国内では、FedExやDHL、UPSなどの宅配業者を使い、空港まで製品を運び、国内外に配送する。

図1　Mouser 社APACマーケティング・事業開発総責任者のDaphne Tien氏　出典：Mouser Electronics

「電子部品ディストリビュータとして最大の目標は効率を上げること」と同社APACマーケティング・事業開発総責任者のDaphne Tien氏（図1）は述べている。製品ポートフォリオを広げるためには、製品を保存しておく広い倉庫が必要。ユーザーから注文を受け、短期間で届けるためには作業者は、大量の製品がおかれた倉庫から、素早く見つけ取り出さなければならない。注文をもらってから出荷までの平均リードタイムは15分だという。東京ドームの2倍もある広い建物からそれを短時間で見つけることは容易ではない。

そこで、Mouserはロボットを導入した（図2）。この図の右端が製品をピックアップするロボットである。マトリクス状の穴の底には製品が配置されており、発注者が必要な複数の製品をピックアップした後は、作業者が待っているステーションに製品を降ろす。製品番号と保管場所、必要な個数などの情報をロボットに送信すれば、ロボットが動き出す仕組みだ。1日あたりの平均取扱商品数は6万5000点にも上るという。

図2　最新鋭のロボットでリードタイムを短縮　出典：MouserElectronics

Mouser日本法人のマウザーエレクトロニクスは、2020年5月にオフィス開設5周年を迎えた。2020年はコロナ禍に置かれたものの、販売額は前年比17%増、顧客数は同8%増と成長した（図3）。同社の最大株主はWarren Buffett氏率いるBerkshire Hathaway社であり非上場企業であるため、同社は販売額などの業績の絶対値を公開していない。

図3　マウザーエレクトロニクスは2020年コロナ禍で2桁成長　出典：マウザーエレクトロニクス

日本法人が成長した理由を日本の総責任者であり本社のVPでもある勝田治氏（図4）は、三つ上げる。一つはコロナ禍でWFH（Work from Home）となりオンライン営業に力を入れ、バーチャル展示会やウェビナー、SNSの活用、日本語ブログの開設などウェブを活用した。さらに営業担当者は自宅からZoomなどのツールや電話で顧客に対応した。

図4　日本法人マウザーエレクトロニクス総責任者の勝田治氏

二つ目はISO認証を取得したことだ。この結果、コロナ禍でも制限なく顧客にデリバリできたという。三つ目は、アジアにおける在庫状況を伝えたことである。この結果、設計者は自宅から在庫状況を確認し注文できた。

2021年は、新製品の種類を17%に増やして、これらを引き合いの多い標準のロングテール製品にしたいという。また新しいアプリケーションが出てきたら各国に伝えていく。これまでに、自動車用のコネクタを自動販売機に応用した例もあるという。こういった応用例を社内で伝授することで製品のロングテール化でビジネスを広げていく。