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「AIを制するものが未来を制する」〜孫ソフトバンク会長

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ソフトバンクグループ代表取締役会長の孫正義氏は、四半期ごとの決算発表会では必ず自分の声で決算の数字と共にこれからのビジョンを話す。ソフトバンクについて正しく理解して欲しいからだ。このため長期ビジョンを話すが、毎回少しずつ違う。8月上旬に開かれた、2019年3月期第1四半期(4〜6月)発表会では、AIシフトをテーマとした。

図1 孫 正義氏、ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長

図1 孫 正義氏、ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長


孫会長は、プレゼンテーションの冒頭でいつも「ソフトバンクはいったい何の会社なのか」という疑問を投げる。通信業者、ファンドと言われることが多いが、半導体業界ではArmの買収者として有名だ。孫会長がこのところ決まって応えることは、「ソフトバンクは情報革命を主業務とする会社」、である。8月の決算発表では、「AIを軸に据えた情報革命を推進する会社」、とした。そのために必要な通信業であり、ファンドであり、ハードウエアの肝を握る半導体CPUコアのArmを買収した会社である。

AIを軸に据えるとしても、これまでの情報革命を推進する会社から外れることはない。孫会長はAIを、人類史上最大の革命だと捉えている。というのはAIが社会のあらゆる分野に浸透し始めているからだ。IT・エレクトロニクスだけではなく、初期の囲碁や将棋の世界から、創薬開発、医療機器、産業機器、自動車のADASシステム、エネルギーなどあらゆる産業で今、AIを使った業務改革、製品開発、研究開発、生産性向上などについて試されている。だから彼は「(AIによって)すべての産業が再定義される」と述べた。AIの社会への浸透は始まったばかりである。今のAIは1960年初頭にコンピュータが商用化されたころと似ているため、「AIを制するものが未来を制する」とも述べている。

孫会長は経営者として、一つの事業だけに特化するリスクを常に認識しており、事業のポートフォリオを広げて300年続く会社を目指している。今始まったAIを軸にさまざまなハイテクIT企業を買収しているのはそのためである。そしてArm買収後、それ以上ソフトバンクから買収するための資金を出すわけにはいかないため、SVF(ソフトバンクビジョンファンド)を設立した。SVFに出資する企業を募り、多岐に渡る企業に投資した(図2)。


さらなる成長機会 最先端ビジネスモデルを日本で展開

図2 SVFが出資した企業 出典:ソフトバンク


半導体関係では、Arm社の買収が最も衝撃的だった。Armの関係者は、リクルーティングの学生の知名度がソフトバンクの買収によって一気に高まったという。それまではArmとはどのような会社なのか、半導体を知らない学生に説明するのが大変だったという。Armという社名がようやく一般に認知されたといえる。

そのArmの未来をどう見ているか。Armのプロセッサコアは、元々性能はそこそこだが消費電力が極めて低いことがIntelのプロセッサとは大きく違っていた。しかし、技術と応用の進化により、ArmのCPUコアは性能も上がってきた。最近発表したCPUコアのCortex-A76はこれまでの高性能コアよりも35%も性能が向上、GPU(グラフィックスプロセッサ)コアであるMali-G76も30%向上したという。

ArmのCPUコアは、その低消費電力性からスマートフォン1台に数コア入っている。アプリケーションプロセッサだけではなく、BluetoothやWi-Fiチップ、ベースバンドチップの制御用マイコンコアなどにも入っているからだ。当然IoT市場を狙うが、高性能によってモバイルパソコンも狙っており、Armコアを集積したQualcommのSnapdragonはモバイル版から高性能版まで揃えており、モバイルパソコンも登場した。とはいえ本筋のIoTでは、単なるハードウエアは価値を生まないことがわかってきた。ハードやソフトよりもデータを重視する以上、IoT用半導体チップは作らないものの、その先のIoT端末デバイス設計ツールARM Mbedや、IoTソフトウエアプラットフォーム「Arm Pelion IoT Platform」も発表している(参考資料1)。

このPelionは、IoTデバイスをインターネットにつなぐためのSIMのような仕組みと、デバイスの管理、データの収集・管理を行う。このソフトウエアプラットフォームを構築するために米国のシリコンバレーで起業した日本人が経営するTreasure Data社を買収した。データ解析はほかのベンダーと組むことになるが、IoTシステムを具体的に作る場合のツールをそろえたといえそうだ。

ArmはIoT以外の半導体としてもAIチップの開発に力を注ぐ。ArmがAIチップを開発する以上、やはりエッジAI狙いである。機械学習向けのプロセッサや物体検出に特化したプロセッサのコアを狙うProject Trilliumを発足させていると孫会長は述べた(図3)。AIチップがどのようになるのかには触れず、CPU、GPU、DSP、アクセラレータを効率上げるとしか述べていない。ただ、第1世代のAI用IPコアはモバイル向け機械学習プロセッサだとしている。


Project Trillium

図3 エッジAIを狙ったProject Trillium 出典:ソフトバンク


エッジデバイスをAI化するのは、エッジにばらばらに存在しているデバイスをつなぐシステムを考え、それらが勝手に(自律的に)つながり勝手に進化していくシステムにしたいからだ。孫会長は「今から十数年後にこの自律システムが登場する」と予言している。エッジAIの活用例として、エネルギー分野では、エッジAIによる需要予測を発電所ではAIを使って最適な発電ができるようになる。「川の流れや天気などをセンサで検出しながら発電することで各産業での予知や全体最適を目指す」と述べている。

ただし、クラウド利用はもちろん進む。クラウドAIのハードウエアで断トツのNvidiaに出資したのは、クラウドとエッジとの連携が必要だからである。エッジからクラウドへデータを連携させ、クラウドで学習したデータを使ってエッジでモデルを強化する、といった協力が可能となる(図4)。


図4 エッジAIとクラウドAIとの連携を図る 出典:ソフトバンク

図4 エッジAIとクラウドAIとの連携を図る 出典:ソフトバンク


ソフトバンクは、ソフトバンクグループをホールディングカンパニー(持ち株会社)として頂点に置き、傘下にソフトバンク、SVF、Splint、Yahoo Japan、Armなどを置いている。ソフトバンクの決算というのはソフトバンクグループの決算を意味する。ちなみに2018年度第1四半期(2018年4〜6月)における売上額は前年同期比4%増の2兆2728億円、EBITDA(税引き前利益に支払利息と減価償却費を加えた利益)が同3%増の7218億円となっている。当期純利益は3137億円である。

ソフトバンクには借金が多い、という事実に対しては、通信のソフトバンク事業とその他の事業に分け、ソフトバンク事業は有利子負債3兆円に対して、調整後EBITDAが1.2兆円と2.5倍に抑えられており、その他の事業での有利子負債7兆円に対して保有株式時価が23.5兆円もあるため、たかだか29.8%に過ぎないから財務は健全だとしている。

参考資料
1. Arm、IoT時代のデータ管理を抑えるIoTプラットフォームを開発 (2018/08/24)

(2018/08/31)

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