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半導体産業における「風を読む」VIII〜直近の半導体市場を読む手法

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第二回目の「風を読むII」で公的機関より公表されるGDP(国内総生産)を利用した1〜2年先の半導体市場動向の予測手法(参考資料1)を紹介したが、第八回目の「風を読む」は、直近の半導体市場に対する「風の向き」を把握する手法を紹介する。半導体市場を分析する際には1〜2年先の半導体市場動向と、直近の半導体市場動向の二つを把握することが求められる。

直近の半導体市場動向を把握するデータとして半導体メーカーの決算発表を利用する方法があるが、四半期単位で決算発表が行われるため、把握したい時とのタイミングのズレがある。また、世界の主要半導体メーカーが加盟し、半導体市場に関する統計機関であるWSTSより月ベースで各半導体製品別の詳細なデータを入手する方法もあるが、世界の主要半導体メーカーのデータをまとめているため、どうしても時間差を伴う。

今回は、ファウンドリ大手であるTSMCやUMCが月ベースで公表するデータを利用し、直近の半導体市場に対する「風の向き」を、ほとんど時間差を伴わず把握する手法を紹介する。ただし、詳細な分析は現状では可能となっていない。


図1 製品別半導体市場の四半期ベースでの前年同期比動向

図1 製品別半導体市場の四半期ベースでの前年同期比動向


図1は半導体、IC全体、マイクロ、ロジック、アナログ、メモリーの前年同期比(金額ベース)を四半期ごとに2008〜2011年の4年間16四半期に渡って図示化したものである。半導体市場は、ディスクリート + オプトエレクトロニクス+ センサー&アクチュエータ + IC全体(ロジック + マイクロ + アナログ + メモリー)で構成されている。金額ベースでIC全体は、半導体市場の85%程度であり、半導体市場とIC全体の市場はほぼ同じ市場動向を示している。IC全体に含まれるメモリーは半導体市場の20%前後であり、DRAM + NANDフラッシュはメモリーの85%程度を占める。

このような半導体市場構造の中で半導体市場の「風の向き」を見た場合、DRAMとNANDフラッシュは他の半導体製品と比較すると、市場の需給関係の影響で単価が変動しやすく、半導体市場動向に加速や減速を加えている。しかしながら、この加速や減速の構成比率は半導体市場の15%(減速時)〜20%(加速時)程度であり、半導体市場の前年比(成長率)が0%前後の場合を除き、半導体市場の「風の流れ」の方向を変えるほどではない。


図2 TSMC、UMCの売上金額と半導体市場(金額ベース)の動向比較

図2 TSMC、UMCの売上金額と半導体市場(金額ベース)の動向比較


図2は、TSMCとUMCが当月の売上を翌月10日頃(具体例:2011年4月実績、TSMC 5月10日、 UMC 5月9日)に公表している売上金額を毎月合算し四半期ベースで左軸、 半導体市場(金額ベース)を右軸に2008〜2011年の4年間16四半期に渡り図示化したものである。TSMCとUMCは世界のトップファウンドリメーカーであり、現在この2社にてファウンドリ市場の約2/3を占有しており、ロジックを中心に幅広く受託生産をしている。

図2より半導体市場とTSMCとUMCの売上金額が同じ方向の「風の向き」の中で変化している様子が理解でき、TSMCとUMCの合計売上金額を半導体市場(金額ベース)の直近の「風の向き」の方向を知る指標として適応可能と考えられる。

特に図2において着目すべき点は、半導体市場に減速傾向の風が吹くとファウンドリ市場にその兆候が顕著に出てくることである。ファウンドリ市場の20〜30%程度が半導体メーカーからの受託生産であるため、この兆候は、半導体市場に減速傾向の風が吹くと半導体メーカーは最初にファウンドリメーカーへの受託生産にて調整を図り、ファウンドリメーカーへの受託生産の調整で市場の減速傾向に対応できないときに次の手段として半導体メーカー自身の生産能力を調整するためである。また、図2は四半期ベースで図示しているが、TSMCとUMCの売上金額は毎月公表されているため、実質的には月ベースで半導体市場の「風の向き」が減速傾向か加速傾向かを把握することができる。


図3 Inoue Index と 半導体の稼働率動向

図3 Inoue Index と 半導体の稼働率動向


図3は、下記に示すInoue Index を左軸、SICASが公表している半導体とIC全体の稼働率を右軸に、2008〜2011年の4年間16四半期に渡り図示化したものである。

Inoue Index = (TSMC + UMC)売上金額(四半期ベース)/ (TSMC + UMC) ウェーハ生産能力(四半期ベース、8インチ換算)

上記Inoue IndexにおいてTSMC、UMCの両社から売上高は毎月公表されているが、四半期ベースとしている。その理由は、両社の生産能力が決算当期のウェーハ生産能力(実績値)、次の四半期に対するウェーハ生産能力(計画値)が決算発表時に公表されるためである。加えて、SICASからも稼働率が四半期ベースで公表されており、その数値との比較を可能とするためである。

図3より、半導体市場における稼働率とInoue Indexが同じ方向の「風の流れ」の中で変化している様子が理解でき、Inoue Indexを半導体市場(稼働率)の直近の「風の流れ」の方向を知る指標として適応可能と考えられる。

SICASの統計結果(実績値)は、世界の主要半導体メーカーのデータをまとめているため、どうしても2ヵ月弱の遅れ(具体例:2011年1〜3月実績は5月下旬)で公表されるが、TSMCとUMCの決算発表は1ヵ月弱の遅れ(具体例:2011年1〜3月実績はTSMC 4月28日、UMC 4月27日)で公表される。これはSICASの統計数値に対し約1ヵ月早く、半導体市場に流れる「風の向き」を把握することができる。

また、Inoue IndexにてTSMC、UMCの両社とも決算発表時にウェーハ生産能力と伴にウェーハ出荷量が公表されているのに拘らず、ウェーハ出荷量のデータを利用せず、売上金額のデータを利用するのは、売上金額は月ベースで公表され、直近の半導体市場の「風の向き」を毎月見直しができ、必要により修正可能とするためである。ウェーハ出荷量は四半期の決算発表時しかデータが公表されない。 

ファウンドリ大手のTSMCとUMCの売上金額、ウェーハ生産能力データを利用した上記手法は、現状で半導体市場の「風の向き」を把握するにとどまり、具体的な「風の強さ」を把握するに至っていない。しかし、「風の強さ」を知る数式【Inoue Formula】を現在検証中であり、数式が検証された時点でこの点についても触れていく予定である。また、四半期ベースにて市場予測を行う場合「一年間のどこにボトムとピークを想定するのか」という関心を当然持たれると思うが、この点についても触れてゆく予定をしている。

参考資料
1. 半導体産業における「風を読むII」〜GDPと半導体市場との相関関係から導く

2. 台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)株主・投資家向けホームページ

3. 台湾United Microelectronics Corporation(UMC) 株主・投資家向けホームページ

4. 世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics-WSTS) ホームページ

5. 世界半導体生産キャパシテイ統計(Semiconductor International Capacity Statistics-SICAS) ホームページ

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