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半導体産業における「風を読む」II〜GDPと半導体市場との相関関係から導く

半導体産業における「風を読む」第二回目は、半導体市場動向の「風を読む」手法である。 前回、半導体市場と粗鋼生産市場との相関関係を紹介したが、今回は粗鋼生産市場のさらに上流側データとなるGDP(国民総生産)と半導体市場との相関関係およびこれらのデータを利用した1〜2年先の半導体市場に対する予測手法を紹介する。

全世界ベースのGDPを公表している公的機関としてIMF(国際通貨基金)とWorld Bank(世界銀行)があり、この経済指数はあまり知られていないが、半導体産業の市場を予測する上で非常に有意義なデータである。


図1 GDPと半導体市場との動向比較

図1 GDPと半導体市場との動向比較


図1は、IMFおよびWorld Bankが公表している全世界ベースでのGDP成長率数値と半導体市場の前年比(成長率)を2003〜2012年の10年間に渡り図示化したものである。二つの公的機関によるGDPと半導体市場との間で連動性を感じることができるものの、そのデータを利用し、半導体市場を予測する上での数値として理解するのは難しい。


図2 変換したGDPと半導体市場との動向比較

図2 変換したGDPと半導体市場との動向比較


そこで、GDPについて表1に示すように「当年GDP変換値=当年GDP成長率−前年GDP成長率」と、GDP成長率の数値を変換した後、図1と同じ内容を図示化すると図2のようになる。つまり、GDP成長率を数値変換することにより、一見異なるGDP予測数値を公表しているように見えたIMFと World Bank両機関の数値がほぼ同じになる。変換後のGDP数値は、設備投資、消費活動への原動力を示すことから、経済に対する影響力と言う見方をすれば同じ内容(原動力)を公表していると言える。このようにして、GDPの成長率と半導体市場、それぞれの数値が同じ方向の風の中で変化している様子が理解できる。


表1 IMFと World Bankデータの具体的なGDP成長率数値の変換例(2009〜2011年)

表1 IMFと World Bankデータの具体的なGDP成長率数値の変換例(2009〜2011年)


GDP数値を上記のように変換すると、半導体市場の「風を読む」ことができると述べたのは次のような理由による。法人組織における設備投資、個人における消費活動等は、一般的に両機関から公表される、あるいは各種メディアを経由して発信されるGDP数値に合わせ、互いに反応すると考えている。来年のGDPが今年よりも下がると公表されれば 経済状況が悪化すると考えて、設備投資、消費活動は法人、個人ともども縮小方向に動き、 逆に今年より来年のGDPが上がると公表されれば、経済状態が良くなるとして拡大方向に動く。即ち、当年と前年とのGDP成長率の差が法人、個人の経済活動に対する体感数値となり、設備投資、消費に対する判断への原動力となる。これらの経済活動の変化に連動し、半導体市場も変動するため、図2に示されるような現象を見ることができるのである。  

半導体市場の成長率に対する一年先の予測値ガイドラインは 下記の数式、Inoue Formulaで知ることができる。具体例としてIMFの最新データである2010年10月版を使用し2011年を対象とすると、2011年半導体市場の成長率ガイドラインは次式のようになる;

Inoue Formula = α x (-0.6%〔変換後GDP〕+ β) = 7.0%

定数α、βは現状で論理的な算出はできていないが、経験則として「α=5, β=2」を採用する。即ち、身近に公表されるGDP数値を使用することにより、一年先における半導体市場の変化を目で見える形にすることを可能とし、「風の流れ」の方向と強さを知ることができるのである。


Inoue Formulaにてパラメータ変換したGDPと半導体市場との動向比較

図3 Inoue Formulaにてパラメータ変換したGDPと半導体市場との動向比較


図3は上記計算式をより一層理解してもらうため、GDP変換値に定数βに加えたInoue Formulaにて数値補正し、図示化したものである。本図より経済指標であるGDPと半導体市場があるパラメータを介することによって相関関係を持って連動している様子をより一層鮮明に知ることができる。 

さらにIMF統計値が半導体市場を予測する上で有益な参照データとなりえるのは、GDP予測値が四半期ベースで公表されていることにある。下記の表2に、直近一年間に公表された2010〜2011年に対するGDP予測成長率数値を四半期ごとに示した。この表2が示すように、風の強さの変化を私達に定期的に提示してくれることは、市場の変化を定期的に知ることができるため、種々の予測(計画)値を補正する上で非常に有益である。現在の不透明な経済環境を大きく表面化させた大手投資銀行/証券会社のリーマン・ブラザーズの破綻は2008年9月15日に起こったが、その結果として表2におけるGDP数値は、(1)2008年10月3.0%(変換後GDP-0.3%)から2009年1月 0.5%(変換後GDP-2.9%)、(2)2009年1月0.5%(変換後GDP-2.9%)から2009年4月-1.3%(変換後GDP-5.5%) と2回に渡り、大きな数値補正を生み出している。


表2 IMF データの四半期ベースでの予測GDP推移と変換値

IMF データの四半期ベースでの予測GDP推移と変換値

出所:IMF


なおWorld Bankは、IMFと異なり年2回しかGDP予測値を公表していないが、IMFが2011年までの予測値に対しさらに1年先である2012年まで予測値を提示している。IMFとは異なる意味で有益な参照データとなっている。この数値を使用し、上記と同様の手法にて2012年の半導体市場の成長率に対するガイドラインを知ることができる。

ただし、本手法では忘れてならない点が2点ある。一つは、上記算出手法で把握できるのはガイドラインであって、最終数値ではないということである。求めようとする数値レベルがガイドラインレベルであれば上記手法により得られる数値で問題はないが、より高い精度を持った予測数値を求める場合には、前回にて予測手法の比喩として使った「洋菓子の一つミルフィーユを作るように」半導体市場の種々の要素に対する思考を重ねることにより数値補正を行わなければならない。


図4 半導体市場における四半期ベースと年ベースとの比較

図4 半導体市場における四半期ベースと年ベースとの比較


二つ目として図4に示すように上記ガイドライン数値は、暦年ベースの年間平均値であり、四半期ベースで前年同期比を見た場合には、ピークとボトムがあり、その数値に差がある。 この数値の差がそれぞれの四半期において、同じ年であっても異なる市場観を生みだし、 暦年と年度での年間予測数値に対し差異を発生する要因にもなる。具体例として、半導体市場の2009年暦年、年間ベースでの前年比は「マイナス成長」であり、四半期ベースで 2009年Q1〜Q3も前年同期比は「マイナス成長」であるが、2009年Q4は「プラス成長」と 風の流れる方向が逆になっている。

四半期ベースでのピーク、ボトムの時期、大きさをどのようにして「風を読む」かについては、別の機会に譲ることにする。次回第三回は、12月1〜3日幕張で開催されるセミコンジャパンに合わせ、半導体製造装置市場について紹介する。 

国際通貨基金(International Monetary Fund-IMF) ホームページ
http://www.imf.org/

世界銀行(World Bank) ホームページ
http://www.worldbank.org/

井上文雄 アナリスト
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