TSMC株主総会報告「東京エレクトロンとの取引はやめない。Samsungは追いつけない」
半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の魏哲家董事長(C.C.Wei会長)兼最高経営責任者(CEO)は今月初めに台湾・新竹(シンチュウ)で開催された年次株主総会で、売上高と1株当たりの純利益が過去最高になり、株価は昨年6月3日に950台湾元だったのが、今年6月3日には2,425元と2.5倍になったと、過去1年間は大きな成果を上げたことを誇示したのちに、株主からの質問に答えた。
四半期ごとの決算説明会では、質問が世界的な機関投資会社に限られているため決算の数字に関する質問が目立つが、株主総会では、一般株主からさまざまな質問が飛び交った。東京エレクトロンの現地法人の社員のTSMCの2nmプロセス秘密窃盗事件についても質問が出た。日本人にも興味のありそうな質疑応答について誌上実況しよう。
東京エレクトロンとは取引を継続する
東京エレクトロン(TEL)台湾子会社の従業員が関与したTSMC先端技術窃盗事件について関して、「TSMCとして同社をサプライチェーンのリストから外すことを検討しているのか」との質問に対して、魏氏は、「TELを除外することは考えていない。当該事件はTELの企業方針によるものではなく、個別の従業員による違法行為である。」「TSMCとTELが協議した結果、TELは事件発覚後の調査に全面的に協力しており、関係者もすでに法的責任を問われていることから、同社との取引を継続する判断を下した。」「TELは良いサプライヤであり続けるだろう。」と述べた(注1)。
先端技術の海外流失の可能性はない
「将来的に2nmなどの最先端技術が海外工場進出に伴って流出する可能性はないか?」との株主の質問に対し魏会長は、「TSMCが世界の複数地域に生産拠点を展開していることに触れ、現地に工場を建設するだけで技術が流出するのであれば、そもそも海外投資など行うはずがない」、「そこに工場を建てれば技術が盗まれるというなら、TSMCは海外に出ていかない」として、技術流出の可能性を否定した。
Samsungは決してTSMCに追いつけない
韓Samsung Electronicsがファウンドリ事業の規模を積極的に拡大し、「10年以内にTSMCを追い抜く」との目標を掲げていることについて魏会長は「同様の発言をもう20年以上聞き続けている」と指摘し、「20年前も10年後に追いつくと言い、10年前も10年後に追いつくと言い、最近もまた10年後に追いつくと言っている」とした上で、「夢物語にすぎない」と一蹴した。
魏会長は、韓国はメモリ半導体の最大生産国であるが、ロジック半導体の最大の生産拠点
は台湾だと指摘し、TSMCの背景には、ウェーハ製造や前工程から後工程に至るまで、台湾が数十年かけて築き上げた極めて強固な半導体エコシステムが存在しており「他国が短期間で模倣できるものではない」と強調した。
筆者コメント:TSMCの世界ファウンドリ業界シェア(2026年第1四半期)は72.3%に上昇(参考資料1)、Samsung は6.5%に低下し、売上高絶対値は10倍以上の差がついており、差は広がるばかりである。Samsungのメモリ事業は絶好調だが、ファウンドリビジネスは、長期にわたり苦戦中であり、TSMCに追いつけるような状況にはない。
中国との競争には技術開発・生産効率と顧客の信頼で対抗する
中国半導体産業の拡大がTSMCの脅威になるかどうかとの質問に対して、魏氏は、競争は決して新しい問題ではないとし、「過去40年間、競争は続いてきた」と述べた。魏氏は、競合相手がどの国や地域から現れようとも、技術開発に注力し、生産効率を高め、顧客からの信頼を維持するというTSMCの基本戦略は変わらないと述べた。さらに、TSMCは今後も「技術世界一」「生産効率世界一」「顧客からの信頼世界一」を維持し続ける方針であり、競争相手の背景によって方向性を変えることはないと強調した。
High-NA EUVに投資しないというのは誤解
蘭ASMLの次世代「High-NA EUV」露光装置に対する投資を行わないことで競争力が低下するのではないかという株主の懸念について魏氏は、「TSMCがHigh-NA装置に投資していないというのは完全に誤解だ」と否定した。既に装置の調達を完了し、積極的な研究・開発を進めているとし、将来的にコストが最適化された段階で量産ラインへ導入することを検討するとした。
最大の懸念は出生率低下による人材供給不足
「TSMCが抱える今後の最大の懸念はなにか?」との株主からの質問に関して、魏会長は、台湾の深刻な出生率低下とそれに伴う人材供給問題を挙げ、将来的にエンジニアや技術者の不足を招く恐れがあるとの懸念を示した。
ただし、「TSMC社員の家庭の出生率は、台湾平均の約5倍に達している」とし、「当社が実施してきた子育て支援や社員の福利向上等の施策が、一定の成果を上げている」と実績をアピールした。
著者コメント:台湾の出生率は0.7〜0.8台まで低下しており、世界で最も低い水準にある。出生数は年間10万人強と10年前からほぼ半減し、死亡者数が出生数を大幅に上回る深刻な人口減少(自然減)に直面している。理由は生活コスト高騰とそれに伴う非婚化・晩婚化とされている。TSMCの社員待遇は台湾域内では抜群に良いので、出生率も高いのであろう。
著者注釈
注1.TSMCの機密取得事件を巡るTEL台湾子会社および関与したTSMC/TEL社員への2026年4月27日の一審判決に対してTEL子会社、台湾高等検察署(高検)ともに上訴しなかったため、判決が確定した。知的財産・商業法院(裁判所)判決で、被告4人に最長10年の実刑判決、1人に執行猶予が言い渡された。TEL子会社については、同社が犯罪を認め、捜査に積極的に従った上に、TSMCとの和解がすでに成立しているとして、罰金刑の執行を3年猶予、罰金1億5000万台湾元(約7億6000万円)の判決が下された。罰金の内訳はTSMCに1億元、台湾政府に5000万元である。
参考資料
1.「世界のファウンドリ業界、TSMCのシェアは72%に上昇」、セミコンポータル、(2026/06/16)


