STMicroelectronics、AI・IoT応用を意識、マイコンのポートフォリオを拡大
STMicroelectronicsがマイコンの製品ポートフォリオを拡大してきた。小さな太陽電池で動作するエネルギーハーベスティング用途のマイコンから、さらにはハイエンドマイコンとしてコスト効率の高いCortex-A35とCortex-M33を集積するSoC+MCUまでSTM32シリーズとして拡大した。今後18nmノードのFD-SOIプロセスPCMメモリ集積マイコンも24年後半サンプル出荷する予定だ。

図1 マイコンの製品ポートフォリオを拡大 出典:STMicroelectronics
これだけマイコンシリーズを拡大したのはエッジAIおよびIoTや車載などを意識したためだ。例えば、エッジAIはこれからの技術であり、産業用IoT(IIoT)は着実に進化している。ハイエンドでは顔認識のAIまで搭載したマイコンもある。この3月から4月にかけて連続的にマイコンの新製品をリリースしてきた。
例えば、ハイエンドのマイコンSTM32MP2シリーズでは、Arm Cortex-A35というデュアルCPUコアが集積され、しかも32ビットと64ビットを選択できる。最大1.5GHzで動作する。一方、Armの64ビットCPUコアという視点で見ると、消費電力の低いローエンドの64ビットマイクロプロセッサに位置する。
このデュアルCPUコアに加え、マイコン用のCortex-33も集積しており、マイコンとしての制御命令も備えている。加えてニューラルネットワークモデルを計算するAI専用のNPU(Neural Processing Unit)やグラフィックスを表現するGPU(Graphics Processing Unit)や画像処理プロセッサISP(Image Signal Processor)なども備えている。また、産業用のIoTなどでこれから成長するイーサネットベースのTSN(Time Sensitive Network)対応に加え、Arm Trust Zoneアーキテクチャ、暗号化技術、セキュアブートなどセキュリティ機能を備えている。
図2 デュアルコアCPUとGPU、NPUなどを集積したハイエンドのSTM32MP2を使った顔認証のデモ 筆者の顔をその場で登録、認証させた
このマイコンを使ったデモでは、部屋の入口において訪問者の顔を見分けてカギを開けるというもの(図2)。顔は予め届けている顔であればその顔をAIで見分けることができる。ここではカメラで顔を撮影し予め登録しておき、その顔かどうかをAIで判定する。顔の登録(AIの学習)はオフラインのエッジで行う。これは、これまで人か否かを見分ける学習データがクラウド上にあるため、それを利用して手元で追加学習するだけで済む。
もう一つの例として、性能よりも消費電力の低さを優先するようなエネルギーハーベスティングの応用がある。このマイコンSTM32U0シリーズは、温度や気圧(圧力)、湿度などの環境データを測定してマイコンに保存するというような用途で使う(図3)。スマートメーターや防犯カメラ、火災検知器などへの応用を狙っている。
図3 部屋の照明程度の光量で発電する太陽電池(手前の6本の帯状のセル)で動くマイコンSTM32U0で液晶を動かす
このデモでは、部屋の照明だけで発電できる程度の太陽電池パネルを使って、プリント回路基板を動かし、センサなどのデータをセグメント方式の液晶(数字表示程度の小さなディスプレイ)に数字を表示する。
まだ製品はできていないが、今後の技術として18nmのFD-SOI(Fully-Depleted Silicon on Insulator)技術によるCMOSロジック回路とPCM(Phase Change Memory:相変化メモリ)メモリを集積するハイエンドマイコン向けのプロセスを開発した。マイコンには従来NORフラッシュを搭載するが、NORフラッシュは微細化が難しく20nm以下は作れない。このためPCMメモリを用い、メモリ容量を従来の2.5倍に増やし、これからのOTA(Over the Air)に対応する。この技術はSamsung Foundryと共同で開発してきたものだという。
2024年後半からサンプル出荷をはじめ、25年後半に量産開始する予定だ。