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IoTで802.15.4もWi-Fiも互いに近づく新無線規格MatterとHalow(1)

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高速だが到達距離の短いWi-Fiが低速ながら1kmという到達距離を達成できるWi-Fi Halowが登場する一方で、低速でも大量のデバイスとつなげるZigBeeのようなメッシュネットワーク規格802.15.4が、Wi-FiやEthernet、Bluetooth LE(Low Energy)とも通信できるようにするIPベースのプロトコルMatterの具体例がCES 2022で登場した。今回はMatterの具体例を紹介する。

IW612トライラジオ・ソリューション / NXP Semiconductors

図1 Wi-FiとBLEと802.15.4の通信規格を集積した無線IC「IW612」 出典:NXP Semiconductors


CES 2022で、CSA(Connectivity Standards Alliance:旧ZigBee Alliance)は、新しい規格であるMatterを搭載した製品が出てくるだろうと1月11日のプレスリリースで述べており、CSAはMatterとCSAの知名度を上げることに懸命になっている。Matterは、200社以上の企業が従事し開発してきたIoT向けのオープンソースの標準規格である。開発に当たっては仕様を固めるだけではなく、認定の仕組みやテストツール、オープンソースのソフトウエア開発キットなども開発し、安定で拡張性を持っても使えるかどうかの確認や、市場の求める品質認定、さらにはMatterを搭載した全ての製品が対応する通信規格上で使えるかどうかを調べるインターオペラビリティ(相互運用性)についても確認してきた。

Matterに対応する半導体製品として、NXP SemiconductorsはWi-Fi 6、Bluetooth 5.2そしてZigBeeなどの802.15.4の3つのプロトコルをサポートできる無線チップIW612(図1)をサンプル出荷し始めた。このICは3種類の無線規格を集積し、IPベースのプロトコルMatterを組み込んだICで、例えばThread規格(802.15.4)を使った家庭内照明機器と、家庭内にあるWi-Fホームルータをつなぐことでできるので、スマートフォンで遠く離れたオフィスからインターネットを通して、家庭内の照明機器を制御できるようになる。

これまで、Wi-Fi通信は高速に通信できるが、接続できる機器を増やせば増やすほど速度が遅くなり、高速というWi-Fiの特長を生かせなくなる。このため接続機器の数が限られてくる。Bluetooth LEも同様に接続できる機器数が8台と限られている。Wi-FiやBLEなどは中央のルーターにデータが送られて、そこで振り分けられて他の機器につながる。これに対して、802.15.4規格は機器から機器へデータが送られ最終的にゲートウェイに集まるというメッシュネットワークのトポロジ―を持つ。これら3つの規格は全て異なる通信方式となっている。ただし、無線周波数帯はWi-Fiは2.4GHz/5GHzの2バンドだが、BLEと802.15.4のThreadは2.4GHzを使う。

これらは、通信方式が異なるため、それぞれの機器を互いに接続できなかった。そこで、通信のレイヤー構成(注釈)の内、ハードウエア物理層からソフトウエア層までのレベル1~3層はそれぞれの通信方式に関係するが、レベル4をIPベースのプロトコルであるMatterで統一しようと規格を決めた。決めた団体がCSAである。こうすることでそれぞれの通信方式を経た後のデータ上で互いに通信できるようなプロトコルを作るので、互いに通信できるようになる、という訳だ。

図2はCES 2022においてNXPがデモしたスマートホームのブロック図である。右端の図は、新チップIW612を搭載したMatterコントローラボードは、例えばThread通信の家のカギ(スマートキー)などと通信でき、その情報をWi-Fiアクセスポイントに送ればパソコンを通してみたり管理したりできる。もし見知らぬ人が家のカギを解除しているとスマホに連絡をもらえる。同じ図の左側では、Thread通信機能を集積したスマートプラグを家中に配置したスマートホームの書くプラグの情報をWi-Fiアクセスポイントで集めることができる。


NXPスマートホーム・デモンストレーション デモ構成図 / NXP Semiconductors

図2 NXPがCES 2022でデモしたスマートホームでのThread通信とWi-Fiアクセスポイントがつながるようになる 出典:NXP Semiconductors


これまでの802.15.4通信規格のメッシュネットワークでは、アクセスポイントから簡単にはデータを読めなかったが、このMatterプロトコルを搭載すればデータを読み制御できるようになる。

Matterは、IoTワイヤレスセンサネットワークに適したメッシュネットワーク通信のデータをWi-Fiアクセスポイントやゲートウェイなどと接続できるようにするためのプロトコルである。IoT専用通信はこれまでLoRaWANやSigfoxなどLPWA(Low Power Wide Area)が主だったが、ZigBeeのようなメッシュネットワークはBLEやWi-Fiで接続しなければならなかった。

Matterができたおかげで、Wi-Fiとの接続は容易になり、スマートホームやスマートビルのようなメッシュネットワークのIoTは使いやすくなる。

注釈
通信のレイヤー構成:ISOで決められた世界の通信方式のレイヤー構造。通信では最下層のレイヤー1(L1)は物理層で無線通信では周波数や変調方式、L2はデータリンク層で、電文を受け渡すMAC層、L3はネットワーク層と呼ばれ、アドレス管理と通信ルート制御を行う。L4はトランスポート層と呼ばれ、ネットワークの拠点間の通信監理を行う。今回のMatterは、L4の規格となる。このプロトコルで大きなデータの分割や結合、フレーム欠損時の再送要求などを担う。最上層のアプリケーション層(L7)まである。

参考資料
1. 「IoTで802.15.4もWi-Fiも互いに近づく新無線規格MatterとHalow(2)」、セミコンポータル (2022/01/19)

(2022/01/18)

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