メモリ市場最高潮の中でのFlash Memory Summit関連の動き
DRAMとともに昨年後半からの非常に活況の世界半導体市場を引っ張っているフラッシュメモリであり、そのような環境でのFlash Memory Summit(2017年8月8-10日:SANTA CLARA, Calif.)開催ということで、一際の注目である。3次元半導体技術による3D-NANDフラッシュを先駆けて製品化したSamsungからは、terabit容量品が来年出荷予定など、各社の活発なアプローチが披露されている。また、DRAMの速度、不揮発性で低価格と今後世代に向けてのpersistentメモリの取り組みにも引き続き注目させられている。
≪大容量化はじめ目覚ましい進展≫
Flash Memory Summitでの各社の意気込みに触れて、まずは、この分野をリードするSamsungの取り組みが以下の通りである。テラビットV-NAND半導体世代の到来である。
◇Samsung Promises 2018 Tbit NAND -Z-NAND samples at 15-microsecond latency (8月8日付け EE Times)
→Flash Memory Summit(2017年8月8-10日:SANTA CLARA, Calif.)と並行、SamsungのSilicon Valley headquartersでの同社フラッシュ製品&技術、executive vice president、Kye Hyun Kyung氏講演。Samsungが来年出荷予定のterabit 3D-NAND半導体、並びに現在の半導体を用いる高密度solid-state drives(SSDs)の計画をプレゼンの旨。また、Intelの3DXPメモリに拮抗あるいは優るlatencyレベルで昨年発表のZ-NAND製品のサンプル配布を行っている旨。SamsungのTbit NANDは、最大1.2 Gbits/secのデータレートをサポート、32個のdieをstackするパッケージで4 terabytesを収める旨。
◇Samsung introduces far-reaching V-NAND memory solutions to tackle data processing and storage challenges (8月9日付け ELECTROIQ)
→Samsung Electronics Co., Ltd.が、新しいV-NAND(Vertical NAND)メモリソリューション&技術を発表、次世代データ処理およびストレージシステムの切迫する要求に対応する旨。以下の内容:
Samsung heralds era of 1-terabit (Tb) V-NAND chip
NGSFF(Next Generation Small Form Factor) SSD to improve server storage capacity and IOPS
Z-SSD: optimized for systems requiring fast memory responsiveness
New approach to storage with proprietary Key Value SSD technology
◇Samsung unveils 1Tb V-NAND chip for commercial SSDs-Samsung Electronics' 1 terabit V-NAND chips will be used for commercial solid-state drives in 2018.-Samsung will have 1Tb flash chip for SSDs in 2018 (8月9日付け ZDNet)
→Samsung Electronicsが、1-terabit V-NANDフラッシュメモリ半導体を開発、来年enterprise solid-state drives(SSDs)で出てくる旨。単一パッケージに16 Tb半導体をstackする計画、2 terabytesのデータストレージ容量が得られる旨。
◇Samsung announces 1Tb V-NAND memory (8月10日付け DIGITIMES)
→Samsung Electronicsが、1Tb vertical NAND(V-NAND)メモリ半導体を発表、2018年に該半導体が出てくると、16個の1Tb diesを重ね合わせて単一V-NANDパッケージでの2TBのメモリが可能になる旨。Samsungは2013年に業界初とする3D NANDを発表したとき、V-NAND構造による単一半導体での1Tb容量を実現するコアメモリ技術を可能にするよう取り組んでいる旨。
MicronからはNVM Express(NVMe) SSDsの大容量化である。
◇Micron Pushes Capacity Threshold in NVMe SSDs-Micron debuts 2nd generation of NVMe SSDs (8月8日付け EE Times)
→Micron TechnologyがFlash Memory Summit(2017年8月8-10日:SANTA CLARA, Calif.)にて、同社第2世代NVM Express(NVMe)を披露、該9200シリーズは、3D NANDを用いてMicron前世代NVMe SSDsの3倍の容量、1.6TBから11TBに及ぶ旨。
Intelの"定規"外形のSSD。標準化に向けて注目である。
◇Intel shows off new 'Ruler' SSD-Intel wants to transform data center storage with new SSD form factors.-Intel's new SSDs look like rulers (8月10日付け ZDNet)
→Intelが、Enterprise & Datacenter Storage Form Factor(EDSFF)を支持する3D NANDおよびOptane solid-state drives(SSDs)を投入、通常のhard-disk drives(HDDs)よりも長く細い定規のように見えている旨。まもなく出てくる該新3D NAND flash-ベースSSDsは、1 petabyteのデータ蓄積が行える旨。
東芝は、64-層, triple-level cell(TLC) BiCS 3D NANDフラッシュによるEnterprise-Classおよびclient SSDsを披露している。
◇Enterprise-Class SSDs come with 64-Layer 3D Flash Memory-Toshiba debuts 2 SSDs with 64-layer 3D NAND flash (8月8日付け New Electronics)
→Toshiba Electronics Europeが、2つの新しいflagship enterprise solid state drive(SSD)ソリューション, TMC PM5 12Gbit/s SASシリーズおよびCM5 NVM Express(NVMe)シリーズの開発を発表、最大12 gigabits/secのデータ転送が行える旨。両方のSSDsともに、同社の64-層, triple-level cell(TLC) BiCS 3D NANDフラッシュメモリデバイスを用いている旨。
◇Toshiba announces next generation client SSD with 64-layer 3D Flash memory (8月8日付け ELECTROIQ)
→Toshiba America Electronic Components(TAEC)社が、転送速度およびパワー効率の改善に向けて64-層, 3-bit-per-cell TLC(triple-level cell) BiCS FLASHを特徴とする最新東芝client SSD、新SG6シリーズを発表、このSSDsファミリーは、主流desktops & notebooks, consumer upgrades、並びにデータセキュリティを要する応用向けに設計されている旨。
Seagateのサーバ統合を推進するSSDsの取り組みである。
◇Seagate Unveils SSDs to Help Drive Server Consolidation-New Seagate SSDs will aid in server consolidation (8月8日付け IT Business Edge)
→Flash Memory Summit(2017年8月8-10日:SANTA CLARA, Calif.)にて、Seagateが本日、NVMeおよびSAS solid-state drives(SSD)をさらにportfolioに追加、加えて、13GB/secのデータアクセスが行えるSSDsで構成された64TB NVMe cardを披露の旨。
新型メモリとしては、Everspinの1ギガビットMRAMに注目している。
◇Gbit MRAM Debuts at Flash Summit-Everspin adds to the persistent memory pool-Everspin unveils a gigabit MRAM (8月7日付け EE Times)
→Everspin(Chandler, Arizona)が、Gbit MRAM半導体のサンプル配布を発表、256 Mbit半導体ベースの1-2 Gbyteカードで今年生産に入る旨。Flash Memory Summit(2017年8月8-10日:SANTA CLARA, Calif.)での該ニュースは、主流のNANDの依然増大する市場に重点化するイベントにて、persistentメモリの成長するcollectionについて小さいが意義深い進歩を示している旨。
◇Everspin Announces 1-Gigabit MRAM (8月10日付け ELECTROIQ)
→Everspin Technologies社(Chandler, Arizona)が、主要顧客での新しい1-Gigabit Spin Torque Magnetoresistive Random Access Memory(ST-MRAM)のサンプル配布を開始、この製品により、DDR4-compatibleインタフェースのhigh-endurance, persistentメモリが得られる旨。該1 Gb MRAMは、GLOBALFOUNDRIESとの連携で300-丱ΕА璽蓮28-nm CMOSで作られ、Everspinの特許化したperpendicular magnetic tunnel junction(pMTJ)技術を活用している旨。
DRAMそしてフラッシュメモリの後を担うとされるpersistentメモリはまだ模索段階と思われるが、備えるアプローチが以下の通り見られている。
◇IntelliProp announces Gen-Z persistent memory controller combining DRAM and NAND (8月8日付け ELECTROIQ)
→データストレージおよびメモリ応用向けIntellectual Property(IP) Coresおよび半導体開発のIntelliProp社(Longmont CO)が、IPA-PM185-CT,Gen-Z Persistent Memory Controller, コード名“Cobra”を発表、該コントローラは、DRAMおよびNANDを結びつけ、メモリバスではなくGen-Z fabricに位置する旨。
◇Gen-Z Points to New Memories-Prototypes, plans for DIMMs emerge (8月10日付け EE Times)
→2019年からの新規途上のpersistentメモリの収穫を目指すmemory-agnostic interconnectのprototypesを示しているGen-Z Consortiumについて。最初の使用として、高性能DRAMモジュールを準備中の旨。Hewlett-Packard Enterprise(HPE), Western Digital(WD), Lam Researchなどからのメンバーが、新型メモリによりメモリおよびプロセッサ設計が根本から変わるとしている旨。Flash Memory Summit(2017年8月8-10日:SANTA CLARA, Calif.)での講演で、いくつかkey enablerとしてGen-Zに向いている旨。
≪市場実態PickUp≫
【東芝メモリ入札関係】
四日市工場(三重県四日市市)の新製造棟、Fab 6を東芝が単独で装備するとしてウエスタンデジタル(WD)との駆け引きが続くなか、東芝の2017年3月期決算について監査法人からお墨付きが出て正常化したと発表される一方、東芝メモリの売却については、日米韓連合以外、すなわち米WDや台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との交渉も進めているとしている。
◇Toshiba to Cut Off Western Digital's Future Supply of Chips-Toshiba-WD battle extends to new fab (8月4日付け Bloomberg)
→東芝とWestern Digital(WD)が、新しいメモリfab拠点、Fab 6の装備を東芝の半導体製造パートナー、SanDisk/WDの関与なしで行うという東芝の計画を巡って争っている旨。「本件ほか懸案について東芝と建設的な対話を続けている」と、WDがステートメントにて。
◇Toshiba CEO: wants to close chip business sale by end-March-Toshiba expects sale of chip unit by next March, CEO says (8月10日付け Reuters)
◇東芝社長「決算は正常化、メモリ売却は鴻海とも交渉」 (8月10日付け 日経 電子版)
→東芝は10日、2017年3月期の有価証券報告書(有報)について「限定付き適正」の意見を監査法人から受領したと発表、都内で記者会見した綱川智社長は「決算は正常化し、経営課題のひとつが解決した」と話した旨。半導体メモリ事業の売却については「産業革新機構(など日米韓連合)以外(の陣営)とも並行して交渉している」とし、米ウエスタンデジタル(WD)や台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が選択肢と明らかにした旨。
◇Toshiba Revives Talks With Foxconn Over Chip Unit-Japanese-led consortium no longer the preferred bidder for the unit (8月10日付け The Wall Street Journal)
【中国関連】
まずは、米国の対中国、特に半導体政策、"Made in China 2025"について、市場サポートとともに警戒感を伴った敏感な様相を孕んだ以下の動きである。
◇How This U.S. Tech Giant Is Backing China's Tech Ambitions-US companies help with China's chip initiative (8月4日付け The New York Times)
→Intel, Qualcommなど米国半導体メーカーが、"Made in China 2025"プログラムを援助しており、中国のartificial intelligence(AI), スーパーコンピュータなど先端技術に対応するリソース開発を支援の旨。このような活動は、Trump政権がintellectual property(IP)盗用の問題を巡って中国に対抗することで、最後まで行われる旨。
◇Focus on chips draws concern overseas (8月6日付け Global Times (China))
◇The growing Chinese threat to advanced technology industries (8月10日付け The Hill)
→米国市場への金属の安売りに対抗する計画が明らかに必要である一方、さらに存在に関わる脅威が習近平国家主席により精力的に現在実行されている“Made in China 2025”計画で代表される旨。
自動運転を新車購入で如何に求めるか、中国の購買層の強い関心があらわれている。
◇Full autonomy resonates with Chinese drivers (8月7日付け EE Times India)
→IHS Markitによる調査発。中国の回答者の72%以上が、次の新車におけるfeatureとしてフルautonomyへの要求を表わしており、調査全地域中最高の旨。フルautonomyはまだ広くは人気を得てはいないが、IHS Markitのアナリストは、消費者は次の車買い替えでいわゆるautonomous featureを得るのに進んでプラスの支払いを行うとしている旨。
TSMCで長年先端技術に従事、期限つきでSamsungに移った人材が、まもなくSMICに入る、という今風の転進が見られている。
◇Samsung executive expected to leave for SMIC (8月10日付け DIGITIMES)
→業界筋発。以前TSMCの先端モジュール技術部門、senior director of R&DであったMong-song Liang氏が、Samsungをまもなく辞めて中国・SMICに加わる旨。Liang氏は2017年始めにSMICで働き始めるとみられたが、Samsungが引き留めている旨。Liang氏のSamsungでの雇用は2017年で切れる旨。
活況のDRAM市場のもと独自のDRAM路線展開を見せているNanya Technologyより、中国の半導体の今後についての見方である。
◇Nanya Technology chief: Chinese chip rivals no threat -- yet-Company is guarding its secrets as DRAM market returns to health-Nanya president doesn't see an immediate threat from China (8月10日付け Nikkei Asian Review (Japan))
→Nanya TechnologyのPresident、Lee Pei-ing氏は、中国の半導体の積極的な取り組みが実現し始めるのに3-5年かかると見ている旨。「現在、業界の中核プレーヤーは生産拡大を制御しており、中国の新しいプレーヤーに技術をライセンス供与する動機が今は見当たらない」と同氏。
【Intel関連】
Intelが、自動運転車用先端visionシステム開発のMobileye(イスラエル)の買収を完了、急成長のクルマ市場に向けた技術プロバイダーの地歩を固めている。
◇Intel completes tender offer for Mobileye (8月8日付け ELECTROIQ)
→IntelによるMobileyeの発行済み普通株式公開買付が完了、該買収により、自動車業界の革新が早められ、Intelが高度および完全自動運転車に向けた急成長市場における技術プロバイダーの位置づけとなる旨。
Mobileyeのcomputer visionノウハウ(“eyes”)がIntelの高性能computingおよびconnectivityノウハウ(“brains”)を補足、cloudからcarまで自動運転ソリューションを作り出す旨。
◇Intel further extends Mobileye offer to mop up outstanding stock-Intel completes Mobileye purchase for $15.3B (8月8日付け Reuters)
→Intelが、自動運転車用先端visionシステム開発のMobileye(イスラエル)に向けた$15.3 billion取り引きを完了、これでMobileyeの株式の84%を持つ旨。は8月21日までMobileye株を買い続ける旨。
◇Intel Closes $15.3B Mobileye Acquisition, Touting Connected Car Business As A 'Huge Growth Opportunity' (8月8日付け CRN (U.S.))
高性能プロセッサでの新製品打ち上げが目覚ましいAMDに対抗、Intelがトップメーカーとしてのtop-endプロセッサを打ち上げている。
◇Intel to launch top-end processors to counter AMD resurgence (8月10日付け DIGITIMES)
→業界筋発。Intelが、high-end gamingおよびenterprise PC市場向けに8月後半に12-core Skylake-Xプロセッサ, Core i9-7920Xを打ち上げ、9月後半に14-, 16-18-core architecturesを盛り込んだ他のtop-end Skylake-Xシリーズプロセッサをリリースする計画、high-caliberプロセッサにおけるAMDの復活を抑える狙いの旨。
【台湾市場の動きから】
台湾のIC業界の第二四半期の落ち込みが以下の通り見られている。大きく引っ張るTSMCの7月売上げも低水準となっており、今後の盛り返しにかかるところがある。
◇Taiwan IC industry output value drops in 2Q17, says TSIA-TSIA: Chip output value fell 4.8% in Q2 to $18.9B (8月10日付け DIGITIMES)
→台湾・Taiwan Semiconductor Industry Association(TSIA)およびIndustrial Economics and Knowledge Center(IEK)がまとめたデータ。台湾の設計、製造、実装およびtesting housesから成るIC業界の2017年第二四半期output valueがNT$572.6 billion($18.9 billion)、前年同期比4.8%減。うちIC製造分野は、前年同期比3.7%減のNT$306 billion、さらにファウンドリー分野は同2.1%減のNT$267.8 billionの一方、メモリなどIC製造分野が同13.4%減のNT$38.2 billionの旨。
◇TSMC July revenues fall to 3-month low (8月10日付け DIGITIMES)
→TSMCの7月売上げがNT$71.61 billion($2.36 billion)、前月比14.9%減、前年同月比6.3%減。1-7月累計ではNT$519.38 billion、前年同期比3.5%増。市場観測筋は、10-nm製品の出荷が引っ張ってTSMCの売上げが8月から戻すと見ている旨。
一方、現状需要旺盛なウェーハ業界では、台湾・GlobalWafersの積極的なスタンスが見られている。
◇No signs of supply glut: GlobalWafers-GlobalWafers: No substrate supply problems (8月10日付け The Taipei Times (Taiwan))
→SUMCOが、12-インチシリコンウェーハを作る日本での新工場に約$396 millionを充てる計画を発表、これを受けてGlobalWafersの株価が水曜に9.51%下げた旨。世界No. 3のウェーハサプライヤ、GlobalWafersは、向こう数年ウェーハ市場が供給過剰になるという投資家の懸念には理由がないとしている旨。「該業界は'supercycle'に入っており、インパクトは大きくないと見ている」と、GlobalWafersのvice president、Lee Chung-wei氏。
【価値ある年代物】
オフコン、ミニコン、業務用など40年前後前のコンピュータのキーワードであるが、その頃の名品を集めたイベントが下記の通り行われている。社名、製品名と、それぞれにリフレッシュされる趣きに富んでいる。
◇11 Views of Vintage Microcomputers-40-year-old pre-PC era systems are still ticking (8月9日付け EE Times/Slideshow)
→1970年および1980年代のパソコン時代の始まりからのシステムファンが先週末、Vintage Computer Festival West(2017年8月5-6日:Computer History Museum, Mountain View, California)に集まった旨。Computer History Museum主催の該イベントでは、初期のmicrocomputersに加えていくつかのminicomputersおよびworkstationsが披露された旨。
DEC PDP-11, one of the last great minis
A lesson from an early luggable …Osborne 1
The original Maker micro …Heathkit MPU kit
A seminal Xerox Alto still alive
Two vintage Apples micros …Apple LisaおよびApple IIe
The “Trash-80” gets recycled …Tandy
A family of Commordores
Back in the beige era …IMSAI 8080
≪グローバル雑学王−475≫
ヒト・モノ・カネが簡単に越境できる、そしてそうでなければ経済が回らないグローバル時代の問題の切り口を、
『世界経済の「大激転」――混迷の時代をどう生き抜くか』
(浜 矩子 著:PHPビジネス新書 378) …2017年6月1日 第1版第1刷発行
よりさらに深めていく。まずは「パナマ文書」で明らかにされた税金逃れの実態、誰もが、社会という名のクラブの施設を制約なく利用することができるために支払う納税の倫理観が問われるところである。そして、半導体製品もまさにその通りであるが、国内外たくさんの基地を通して作られて、現時点のように非常に活況の半導体業界だと輸出もそして輸入も増えてくる。そんな入り組んだ中での国の経済のあり方、舵取りがまた問われている。
第2章−2 簡単越境時代がもたらす政策不全――国境無き時代に翻弄される国々
3 財政政策は何のため?
●国外脱出を図る納税者たち
・ヒト・モノ・カネの越境力が高まっているグローバル時代
→高い税金を払いたくない人や企業は、やたらと国外に出て行ってしまう
→「出て行くぞ」と脅しをかけることで税金をまけてもらおうとする
・ヒトとそのカネの越境阻止に奮戦
→税金テレショップ合戦に敗退した国々は、顧客流出でピンチに陥る
●税金逃れを象徴する「パナマ文書」
・「パナマ文書」問題
…世界の大物政治家や有名人たちが、タックス・ヘイブン(租税回避地)を利用して大々的課税逃れ
→2016年の春先から世界に出回った匿名情報
→まずは南ドイツ新聞にリーク、パナマの法律事務所、モサック・フォンセカ(Mossack Fonseca)の膨大な内部資料
・グローバル時代の到来が、こうした税金逃れの規模と広がりを大いに煽ってきた
→ともかくカネを動かしやすい時代に
→それだけ、国々の徴税力が危機に直面している
●公共サービスとは無縁の金持ちと力持ち
・「パナマ文書」が告発する人々は、金持ちと力持ちばかり
→ダボスに結集するセレブたちのリストと、結構、重なりそう
・国々の政府の徴税網からすり抜けて行く金持ちと力持ちども
→資金枯渇で国々の公共サービス提供能力はどんどん低下することに
→受益なくして負担なし、それが彼らの発想
●税金は会費にあらず
・貧富の差を問わず、誰にもまともな生活を営みながら生きながらえて行く権利
…生存権
→人類は次第に共通認識として分かち合うようになって、今日に至っているはず
・税金は、受益に対する対価ではない。会員制クラブの会費ではない
●金持ち、力持ちの恫喝に負ける財務省
・財務省のホームページ「もっと知りたい税のこと」
→「税は『社会の会費』です」と書いてある
→これはおかしい
・国々の徴税担当者たちも、租税回避行動に対する態度があいまいに
→逃げて行こうとする側の恫喝に負けてしまう
●一対一的受益性を求めない納税行動をどう保つか
・誰もが、社会という名のクラブの施設を制約なく利用することができる
→この状態を維持するために支払うのが税金
・ヒト・モノ・カネの簡単越境時代になって、金持ちと力持ちの納税意識は近代性を失い、原始の世界へと後退し始めている
→ここに、激転妖怪どもを活性化させてしまう温床の形成
→分断と排外の世界に向かう激転現象が加速
・財政政策で考えるべき点
→どのような理念を持ち、公共サービスの提供者としてどのような倫理に導かれていれば、納税行動を確信に満ちてお願いすることができるのか
4 グローバル時代の「内側」と「外側」
●輸出が増えれば輸入も増える時代
・経済政策の対外的側面
→モノ(サービスという無形物を含む)に関する通商政策
→カネに焦点を当てた為替政策
・国々の通商政策にとっても頭の痛いグローバル時代
→今の世の中、「グローバル・サプライ・チェーン」や「グローバル・バリュー・チェーン」が大流行り
→部品や半加工品が国境を越えて移動
→輸出や輸入が発生
→輸出が増えれば、輸入も増える。そういう時代
●日本製ではない日本企業製品
・簡単越境時代においては、日本企業の製品が、日本製の製品だとは限らない
→組み立てや縫製などはどこか別の国で行われているかも
→今日的分業は、生産物分業ではなくて、工程分業
・先進諸国の縫製工場や組み立て工場や素材産業が斜陽化
→そこに激転妖怪たちの糠床が出現
→21世紀の越境型工程分業が人々を不幸にしないための知恵が必要に
●国内向けの政策の皮をかぶった為替操作
・(前回出てきた)2006年から2015年までブラジルの財務大臣、ギド・マンテガ(Guido Mantega)氏の疑念のニュアンスの言い方
…先進諸国は国内対応を建て前としつつ、事実上の為替戦争を世界に向かって仕掛けている
→故意でさえなければ、何でも許されるのかという問題も
●トランプが批判した日本の円安政策
・就任早々のトランプ大統領の言、「日本は円安政策を追求している為替操作国」
→市場に円を大量供給する金融政策が展開されれば、そこに円安追求の意図が働いていると解釈されて当然
●自己防衛的いたちごっこの連鎖
・簡単越境時代においては、どこまでが国内向けの金融政策で、どこからが対外的な為替政策なのか
→識別が従来に比べて格段に難しく
・現実問題として、お互いに相手のことを考えないと、巡り巡ってとんでもないしっぺ返しに
→グローバル時代が国々の通貨管理政策に突きつけている厄介さ、
●「本体融合」で発生する内部異変
・簡単越境時代においては、国々の「本体」がすぐに「一体化」
→どこで自国の「本体」が終わり、どこから他国の「本体」がはじまるのかが、よくわからない
→翻弄されている間に、「本体」の内部における異変の発生
→閉鎖空間が好き、開所恐怖症の激転妖怪たちを目覚めさせてしまう
・激転妖怪たちが政策の世界においてどんなことを引き起こそうとしているのか、次章で