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ルネサスはAIエッジを強化〜23年売上は1兆4697億円だが、8900億円の買収へ

ニッポン半導体の大手の一角であるルネサスエレクトロニクスをめぐる動きに目が離せなくなった。AIチップの開発に全力を挙げており、エッジに使える組込みマイコンを開発したのだ。そしてまた、いまや話題の超低消費電力のMRAMマイコンモジュールも開発したというのだからして、まことにもってサプライズといえよう。

泉谷渉の視点

ルネサスは、日立・NEC・三菱の半導体事業が母体となって2010年4月に設立された。2018年度から20年度までは7000億円強の売上にとどまっていたが、2021年には一気に9946億円に引き上げ、2022年度には1兆5027億円という水準に達し、その躍進ぶりは目覚ましい。もっともこの間に、かなりの車載向けアナログなどの会社をM&Aしているわけであり、額面通りに受け取れないところはある。

同社の22年の用途別構成比率は自動車43%、産業・インフラ・IoT56%、その他1%となっているが、最近の傾向ではやはり次世代自動車に向けた開発と製造強化に動いている。

そうしたこともあって、ファブレス中心であった同社は方向を大きく転換している。閉鎖していた山梨県甲府工場の稼働を再開し、300mmウエハーによるパワー半導体の量産ラインを立ち上げていくのだ。高崎工場も動かし、大分工場のパッケージも強化。そしてまた、車載IGBTでも攻勢をかけるべく那珂工場の300mmウエハー対応ラインで、最新プロセスAE5を採用した半導体の量産移行を狙っている。さらには、ニデックとEV向けのトラクションモーターシステムを共同開発することも決めている。

英国arm社のCPUを搭載した高性能マイコンの量産も開始している。動作周波数は最大480MHzと従来品と比べて2倍高い。特定用途を除く汎用マイコンとしての性能は世界最高水準なのだ。さらに、驚くべきことはAIエッジのチップの世界に踏み込んでおり、ヘテロジニアスアーキテクチャを駆使したAI向けの組込みプロセッサ(編集注1)の開発に成功した。処理性能は130TOPSと非常に優れている。また、NANDフラッシュメモリの置き換えとして考えているのは、STT-MRAMマイコンモジュールであり、こちらも注目を集めつつある。

それにしても、ここにきては米国ソフトウェア企業のAltiumを8900億円で買収するというのであるからして、実にとんでもないことなのだ。たしかに、統合されたオープンな電子機器設計のプラットフォームが構築されるわけであるが、新たな借入金が大きく増えることに懸念する向きも多い。

政府の要請を受けて先ごろ、自動車メーカーを中心に12社で「自動車用先端SoC技術研究組合」が設立されたが、これは28年までにチップレット技術を確立し、30年以降に自動車用SoCを量産車へ搭載するというものである。自動車メーカーはスバル、トヨタ、日産、ホンダ、マツダが参画している。電装部品メーカーはデンソー、パナソニックが参画しており、半導体関連企業としてはルネサスを筆頭に、ソシオネクスト、Cadence Design Systems、Synopsys、ミライズが加わっており、なかでもルネサスの果たす役割は大きいと思われる。

ルネサスの23年度通期売上は、残念ながら前年比2.2%減となる1兆4697億円にとどまったが、営業利益は5016億円と非常に高い水準なのである。2023年の国内半導体企業ランキングでは、ソニーが好調な動きを見せて1兆5900億円を達成する見込みであり(編集注2)、ルネサスは二番手に甘んじた。しかしながら、この両社はフィナンシャル的に有利な状況にあるために、今後も首位争いを続けるとみられるのである。

産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉

編集注
1. CPUとAIアクセラレータ、動的再構成プロセッサ(DRP)という異なるプロセッサを集積したSoCで、ISSCC 2024で発表したチップ。異なるプロセッサからヘテロジニアスアーキテクチャと呼んでいる
2. ルネサスの会計年度は1月〜12月期、ソニーのそれは4月〜3月期なので、一概に比較はできない。ソニー半導体(ソニーセミコンダクタソリューションズ)の決算数字を2023年1〜12月に変換すると、1兆5530億円となる。前年比で18.7%増と大きく回復させた。

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