TSMCウェイ会長が語る意欲的な世界戦略と積極的な先端開発計画を検証する
台TSMCが発表した2025年第3四半期(7〜9月期)の決算概要によると、売上高は前年同期比30%増、前四半期比6%増の9899億台湾ドル、純利益は前年同期比39%増、前四半期比14%増の4523億台湾ドルと、いずれも四半期ベースでは過去最高を記録した。このため、同社は2025年通期の売上高ガイダンスを前年比30%半ばに上方修正した(参考資料1、2)。同社の絶好調の決算説明会(図1)での同社C.C. ウェイ(魏哲家)会長の生の声(参考資料3)を誌上実況して、Wei氏が熱く語る同社の最新の戦略や計画を検証してみよう。
図1 TSMC決算説明会で今後の戦略と計画を熱く語るC.C. Wei(魏哲家)会長(中央)出典:TSMC
米国アリゾナ拠点展開
「海外拠点に関する当社の決定はすべて、『顧客のニーズ』に基づいている。顧客は、ある程度の地理的柔軟性と必要なレベルの政府支援を重視している。これは、当社が最重視する『株主価値の最大』にもつながる。米国連邦政府、アリゾナ州政府、チャンドラー市政府からの強力な協力と支援を得て、アリゾナ州における生産能力の拡大を加速させている。私たちは目に見える進歩を遂げており、計画は順調に遂行されている。」
「さらに、顧客からのAI関連の旺盛な需要を受け、アリゾナ州においてN2(いわゆる2nm)プロセス技術より高度なプロセス技術への技術アップグレードを迅速に進める準備を進めている。さらに、現在進行中の拡張計画をサポートし、複数年にわたるAI関連の非常に旺盛な需要に柔軟に対応できるよう、近隣地に2つ目の広大な用地を確保する準備も整っている。この計画により、TSMCはアリゾナ州にGIGAFABクラスターを建設し、スマートフォン、AI、HPCアプリケーションにおける最先端分野の顧客のニーズに対応できるようになる。」
筆者解説:TSMCは、アリゾナ州に半導体製造工場6棟、先進パッケージング(封止)工場2棟、研究開発(R&D)センター1棟を設ける計画が進行中である。さらに新たな計画が立案中である。第1工場(Fab 21 P1)は2024年末に4nmで量産を開始した。第2工場)Fab 21 P2)は完成し、3nm量産準備中だが、2nmも前倒して生産する可能性が高い。第3工場(Fab21 P3)2nm/1.6nm製造ライン)も既に着工している。魏会長は、トランプ政権や米国の主要顧客の要請で、アリゾナ工場での2nmと2nm以降の先進製造プロセスの導入を急ぐと説明している。TSMCの日本での売上高は全売上高のわずか4%に過ぎないのに対して、米国市場での売上高は76%に達しており、更に増加傾向にある。地政学的な見地からも米国にさらに投資を集中させるのは当然だろう。
米国におけるOSAT活用
「当社はアリゾナに2つの先進的なパッケージング工場を建設し、顧客をサポートする計画を発表した。しかし同時に、実は現在、先端パッケージングの大手企業であり、私たちの良きパートナーであるOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)と協力している。彼らはアリゾナに先端パッケージング工場の建設をすでに始めているので、彼らと協力することにしている。スケジュールはTSMCの2つの先進的パッケージング工場よりも早いので、そのOSATを活用することにしている。私たちの主な目的は、米国で前工程も後工程も製造できるようにして顧客をサポートすることである。」
筆者解説:この魏会長発言で、OSATとは米Amkor technologyを指しているとみられている。Amkorは、今年10月6日にアリゾナ州で先進封止工場(投資額70億米ドル)を着工した。2027年に完成、2028年初めに量産を開始する予定である。TSMCは自身の米国先進パッケージング工場の具体的な建設スケジュールについては公表していない。
日本拠点展開
「日本では、国、県、そして地方自治体からの強力な支援のおかげで、熊本県菊陽町に開設した最初の成熟特殊技術専用工場(Fab23 P1)非常に良好な歩留まりで量産を開始している。第2工場(Fab 23 P2)の建設も開始している。第2工場生産開始時期は顧客のニーズと市場状況に基づいて決定することにしている。」
筆者解説:日本のメディアは、「TSMC熊本第2工場すでに着工済み」と報じ、この報道を受けて熊本県知事も歓迎のコメントを発表したが、実際のところは「土地の造成工事を進めながら、本体工事の準備を開始している」(同工場運営会社のJASM)ということだろう。「成熟プロセスの需要が世界的に低迷しており、熊本第1工場については稼働率が低い」といったうわさが広まっており、ウェイ会長は、そのような噂を払しょくしたかったのではなかろうか。同氏は、以前、「現地周辺の交通渋滞」を第2工場着工延期の理由に挙げていたが、交通渋滞はまだ解消していない。
欧州拠点展開
「欧州では、欧州委員会(EC)、ドイツ連邦、州、市政府から強いコミットメントをいただいている。ドイツ・ドレスデンの車載半導体専用工場の建設も開始され、計画は順調に進んでいる。生産開始時期は、顧客のニーズと状況に応じて決定することにしている。」
筆者解説:EUやドイツ連邦政府などから多額の補助金を受けているため、ドレスデン工場の建設は始まったものの、欧州のEV事業減速の影響で熊本第2工場同様に生産開始時期は未定である。
台湾拠点展開
「台湾では、台湾政府の支援を受け、新竹サイエンスパークと高雄サイエンスパークの両拠点において、2nmファブの複数フェーズの建設準備を進めている。今後数年間にわたり、最先端先進パッケージング施設への投資も継続していく。台湾への投資を継続しながらグローバル展開を拡大することで、TSMCは今後も世界のロジックIC業界において、信頼できる技術と生産能力を提供し続けることができる」。
筆者解説:台湾での2nmの生産拠点は新竹科学園区(竹科、新竹サイエンスパーク)宝山工場(Fab20)と南部科学園区(南科、南部サイエンスパーク)楠梓園区(高雄市楠梓区)の高雄工場(Fab22)である。2ナノ強化版のN2PとA16は26年下半期(7〜12月)に量産を開始する予定にしている。最先端プロセスは、あくまでも台湾で開発し、まずは台湾域内で量産することを台湾政府から求められており、TSMCもその方針である。ただし、トランプ政権の要請もあり、台湾と米国での製造開始時期の差はさらに短縮しそうである。
N2とA16の量産計画
「当社のN2/A16テクノロジ(いわゆる2nm/1.6nm)は、エネルギー効率の高いコンピューティングに対する飽くなき需要に対応しており、世界中のほぼ全てのイノベータがTSMCと提携している。N2は、良好な歩留まりで、今四半期(2025年10〜12月期)後半の量産開始に向けて順調に進んでいる。スマートフォンとHPC AIアプリケーションの両方の需要が牽引し、2026年には生産が加速すると予想している。」
「継続的な機能強化戦略に基づき、N2ファミリの拡張としてN2Pも導入する。N2PはN2に加え、さらなるパフォーマンスとパワーのメリットを備えており、2026年後半に量産開始を予定している。また、スーパーパワーレール(SPR、裏面電源供給のTSMC独自の呼称)を搭載したA16も発表した。A16は、複雑な信号経路と高密度な電力供給ネットワークを備えた特定のHPC製品に最適である。量産は2026年後半に予定している。N2、N2P、A16、そしてその派生製品により、長寿命なノードをさらに推進していくと確信している。」
筆者解説:N2プロセスは、Samsung(「SF2」)やIntel(「Intel18A」)も手掛けてはいるが、利益のあがる歩留まりが確保できているのはTSMCだけとの噂である。N2の後継のA16はいわばN2の改良版(裏面電源供給回路搭載版)である。その次のA14の開発も順調に進んでおり、2028年に量産開始する予定だという。
参考資料
1. 服部毅「TSMCの2025年第3四半期売上高は四半期別で過去最高を更新」、マイナビニュースTECH+、(2025/10/17)
2. 「TSMC、熊本第2工場建設着手、今四半期に2nm量産開始、売上・利益共過去最高」、セミコンポータル、(2025/10/20)
3. TSMC財務報告2025Q3、(2025/10/16)


