Samsung、SK hynix、TSMCに対する米国製半導体製造装置輸出優遇措置撤回の影響は?
米国政府は、8月末に韓SamsungとSK hynixとIntel Semiconductor (Dalian)(SK hynixが完全買収の途中のIntel 大連NANDフラッシュメモリ工場)に対して、必要不可欠な半導体製造装置を自由に出荷することを認める措置である「認証エンドユーザー」(VEU)と呼ばれるプログラムにおける特例措置を撤回したと通知したが、9月初めには、台TSMCに対しても同様なVEU特例装置を撤回した(図1、参考資料1、2)。

図1 米国商務省産業安全保障局(ISB)の9月2日付け通達を掲載した米国連邦官報
TSMCは、「中国・南京にある同社の半導体製造拠点 Fab 16(図2)に対して、米国政府が『認証エンドユーザー(VEU)』と呼ばれるプログラムの特例措置を撤回した」との通知を米国政府から通知を受けたと発表した。TSMCに対する特例措置は4カ月後の12月31日で失効するという。TSMCは、「当社は状況を評価し、米政府との連絡を含め適切な措置を講じており、TSMC南京の継続的な運営を確保することに引き続き全力を尽くしている」と述べている。
図2 TSMCの中国南京工場 (TSMC Fab 16) 出典:TSMC
今回の措置により、TSMCへの供給業者は今後、米国の輸出規制の対象となる半導体製造装置や部材をTSMCの南京工場へ出荷する際に米国の許可を個別に得る必要が生じるが、出願から許可が得られるまで長期間を要したり、許可が棚上げされたりする(つまり事実上禁止される)不確実性に曝されることになる。
台湾経済部(日本の経済産業省に相当)は、米国による特例措置の撤回は南京工場の操業予測性に影響することを認める一方、同工場はTSMC全体の生産能力の約3%を占めるに過ぎず、台湾の半導体産業の競争力に影響はないと強調している。
TSMCは、中国に2つのファブを運営しており、上海市松江区にある200mm工場(TSMC Fab 10)はレガシー(0.13µm)プロセスに特化しており、南京には300mm工場(Fab 16)では当初16/12nmチップを生産していたが、米国の輸出規制強化に伴い戦略を転換し、自動車用28nmの生産能力増強に注力している。南京工場では現在、16/12nmで月間約2万枚、28/22nmで月間約4万枚のウェーハを生産しており、主に自動車用など特殊な需要に応えている。
TSMCが南京Fab 16を米国製装置なしで稼働させ続けるための一つの選択肢は、一部の輸入装置を中国製の現地製造装置に置き換えることだが、特にリソグラフィに関しては、これが実現可能かどうかは依然として不透明だと台湾半導体関係者は指摘している。
中国の半導体製造装置サプライヤは、洗浄、成膜、エッチング装置の分野で進歩を遂げているが、16/12nmの商用生産に必要な歩留まりと精度を満たす中国製リソグラフィ装置はまだ存在しないようだ。
TSMCが南京での生産を段階的に縮小すれば、中国のファウンドリが恩恵を受ける可能性があると台湾半導体関係者は見ている。顧客は、14nmと28nmを扱うSMIC、あるいは28nmを提供するHua Hongに注文をシフトし、中国ファウンドリは稼働率と収益を向上させる可能性がある。
韓国勢にとっては大打撃で戦略転換の可能性も
TrendForceによると、SamsungのNAND生産量全体の約30〜35%は2025年に中国・西安工場で生産されると予想されている。一方、TrendForceは、SK hynixのDRAM生産量の約35〜40%が2025年までに中国で生産されると予測している。同社は、生産終了予定だったDDR4 DRAMの価格急騰に対応するため、急遽、無錫工場の古いラインで増産する予定である(参考資料3)。
Intel 大連工場買収途上のSK hynixにとって、中国はNAND生産においてさらに大きな役割を果たしており、2025年にはNAND生産量の40〜45%を占めると予想されている。
米国の今回の措置により、SamsungとSK hynixは、定期メンテナンス用の設備の確保に3〜9 ヵ月の遅延が生じる可能性がある。これは、米国製設備購入にはすべて米国の承認が必要となるためだ。そのため、遅延により中国の生産ラインの調整が迫られると予想され、長期的には両社とも生産の一部を韓国に移転する必要が生じるかもしれない。
今回の米国政府の措置は、米国の装置メーカーApplied Materials, Lam Research, KLAなどの中国向け売上に打撃を与える可能性が極めて高い。各社にとって中国市場は、失いたくない世界最大の市場であり、かつては4割台だった市場シェアが3割台となり、さらには2割台へと低下し、経営を圧迫しそうな雲行きである。
参考資料
1. “US Pulls TSMC’s Waiver for China Shipment of Chip Supplies”, Bloomberg, (2025/09/02)
2. 「台積電:美國政府撤銷南京廠豁免 評估採取因應措施」、台湾中央逓信社報道、(2025/09/02)
3. 服部毅、「SamsungとSK hynixがDDR4 DRAMの生産終了を2026年に延期か?」、マイナビニュース、(2025/09/05)