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Intelはトランプ大統領と結びついた企業と見られCPUが売れなくなる?

Intelは、トランプ政権が自社株式の1割を取得することによって生じるリスクや現在開発中のIntel 14A (いわゆる1.4nmプロセス)に大口顧客を獲得できない場合に開発・製造を中止する際のリスクを分析し、米国証券取引委員会(SEC)に報告していたので、ここに紹介しよう。

Intel本社

図1 Intel米国本社ロバート・ノイス・ビル正面入口 出典:著者撮影、2025年4月30日


トランプ政権がIntel株を取得した場合のリスクは?

米Intelは、去る8月22日、米証券取引委員会(SEC)にForm 8-Kを提出した(参考資料1)。米政府が自社の株式の10%を取得することに関するリスクについて分析し、投資家、従業員、関係者に「悪影響」が生じる可能性があると警告した。なお、Form8-Kとは、米国の上場企業が株価に影響を与える可能性のある重大な事実を発生後数日以内に米国証券取引委員会(SEC)へ提出・開示することが義務化されている「臨時報告書」である(図2)。


Intel本社

図2 Intel が8月22日にSECに提出した臨時報告書(Form 8-K) 出典:米国証券取引委員会


報告書によると、Intelは米国政府から既存のDirect Funding Agreement (DFA) の前倒し、およびCHIPS and Science法に基づくSecure Enclaveプログラムなどを使い、総額88億6980万ドルの資金提供を受ける。対価として普通株式を最大4億3332万3000株、ワラント(新株予約権証券)2億4051万6150株分などを米国政府に供与する。

インテルは主要なリスクを、米国外からの売り上げが減少するかもしれないことだとしている。同社の米国外顧客にとって、米政府が9.9%の株式を取得することでトランプ大統領と直接結びついた企業とみなされるためである。米国政府が筆頭株主となることにより、インテルは他国の補助金法などの追加規制や制約の対象となる公算も大きく、米国外の事業にも影響が及ぶ可能性についても懸念を示した。

同社は「投資家、従業員、顧客、サプライヤー、その他の事業・商業パートナー、外国政府、または競合他社から、即座に、あるいは時間の経過とともに、悪影響的な反応が生じる可能性がある。また、この取引に関連した訴訟やその他の訴訟、および当社に対する世間や政治的監視の強化もあり得る」と記している。同社によると、前年度の売り上げの76%が米国外からのものだという。

このほか、同書類で、今回のディール(取引)により他の政府機関が既存の助成金を株式投資に転換しようとしたり、今後の助成金への支援に消極的になる動きを引き起こす可能性にも言及。さらに、現在の市場価格を下回る価格で米国政府に株式が発行されることで、既存株主にとって希薄化が生じるとも指摘している。


Intelは顧客確保できなければ14Aの開発中止の可能性も示唆

Intelは、6月28日付で米国証券取引所に提出した2025年第2四半期四半期報告書(参考資料2)の中で、現在開発中の高NA (NA=0.55)EUVリソグラフィを採用して開発中のIntel 14A(14Åプロセス)(参考資料3)について「外部顧客を確保できない場合、次世代プロセス技術の追求を一時停止または中止する可能性があり、これによりさまざまな重大なリスクが生じる可能性がある」として、リスク分析している。

Intel 18Aについても有力な外部顧客を確保できておらず、Intel 14Aに関しても有力顧客の確保見通しは不透明であるとしている。今後、先端プロセスで顧客を確保できずに、設計、開発、製造を一時停止または中止した場合、さまざまなリスクが生じるとの懸念を示している。

最大の懸念は、Intel 18A以降の製品開発を進めるにあたり、TSMCへの依存が強まるが、現状、同社との長期契約は結んでおらず、有利な価格条件で生産能力を確保・維持できない可能性がある点。競合他社はTSMCやそのほかのファウンドリと長期的に関係を構築しているため、競争上不利な立場に置かれる可能性があり、競合が生産能力確保をIntel以上に進めれば、Intelの製品ロードマップ、市場での地位、顧客関係に重大な悪影響を与えるとする。

また、ファウンドリ資産に関する重大な減損が発生する可能性があるともするほか、米国商務省と締結した79億ドルの政府インセンティブをはじめとする各種インセンティブを得る資格を喪失する可能性があり、契約に基づく受領済みの資金の返還を求められる可能性や、共同出資パートナーへの支払いが発生する可能性があるともしている。

さらに、そうした先端プロセスに関わってきたエンジニアや科学者といった人材を雇用・維持することに支障をきたす恐れがあるともするほか、ファウンドリ事業の維持そのものの不確実性が増す可能性も指摘。自社でハンドリングできない重大なリスクの発生なども含め、Intelが先端プロセスの開発の一時停止または中止を行えば、Intelにとって取り返しのつかない事態になる可能性があると結論づけている。

Intelがこんな最悪のケースを想定してリスク分析しつつ、ビジネス展開していることは興味深い。同社は、米国政府を筆頭株主に迎えて、今後、着実に再建への道を歩めるのだろうか。

参考資料
1. Intelが2025年8月22日にSECに提出して開示されている臨時報告書(Form 8-K)
Inline Viewer: INTEL CORPORATION 8-K 2025-08-22
2. Intelが6月28日にSECに提出した第2四半期報告書(Form 10-Q)
3. 服部毅、「Intel 18Aは2025年末までに量産を開始、Intel 14Aは2027年にリスク生産を計画」、マイナビニュースTECH+,(2025/05/12)

国際技術ジャーナリスト 服部 毅
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