2025年第2四半期TSMC決算説明会Q&AからTSMCの今後の戦略を探る
去る7月17日に開催されたTSMCの2025年第2四半期決算説明会(中国語の名称は、「積電公司法人説明會」)(参考資料1)において、同社の会長兼最高経営責任者(CEO)のC.C.ウェイ(魏哲家)氏が、TSMCのグローバル製造拠点および最先端技術ノードの最新情報について詳細に説明した(参考資料2)。その後、ウェイ会長は、世界中の著名銀行・証券会社のアナリストの質問に答えたので(図1)、その模様を実況し、同社の戦略を探ることにしよう。

図1 機関投資家からの質問に答えるTSMC会長のC.C.Wei(魏哲家)氏 出典:TSMC決算説明会中継ビデオから筆者がスクリーンショット
Q: 台湾での今後の工場展開は?
A: 台湾政府の支援を受け、今後数年以内に11のウェーハファブ(前工程工場)と4つの先進パッケージング施設(後工程工場)を建設する予定である。顧客からの旺盛な構造的需要に対応するため、(台湾北部の)新竹サイエンスパークと(台湾南部の)高雄サイエンスパークの両拠点において、2nmファブの複数フェーズ(製造棟)の建設準備を進めている。グローバルな拠点を拡大しつつ台湾への投資を継続することで、TSMCは今後も世界のIC業界において信頼される技術と生産能力を提供し続けるとともに、株主に収益性の高い成長をもたらすことができる。
(筆者コメント)台湾政府の強い要請で、今後とも最先端技術は台湾域内に留める。最先端プロセスは台湾域内で開発し、まずは台湾で量産する方針に変わりのないことをTSMCは強調している。その後、米国アリゾナ工場(TSMC Fab 21)に移管し、米国での2nmの生産比率をTSMC全体の2nm生産数量の30%まで引き上げることにしている。しかし、トランプ政権は、米国での先端デバイスの生産計画を前倒しするように要請しているから、台湾での量産から米国での量産までの期間は短縮される見込みである。一部では、早ければ2027年末までにアリゾナ工場第3製造棟(Fab21 Phase3)でも2nmプロセスでの量産を開始するとの見方も出ている。
Q: 米国での投資拡大は、他の地域の投資に影響するのではないか?
A: 米国では先端技術を用いて生産しているが、日本では成熟技術ノードの特殊な技術である。具体的には(ソニー向けの)CMOSセンサと(デンソー向けの)自動車業界向けの車載チップである。日米ではすべて異なる分野の製品を製造している。つまり、米国への投資や台湾での最先端分野への投資は、日本やドイツの投資に影響しない。顧客からの要請に依存している。
(筆者コメント)ドイツや日本の工場稼働は、米国への巨額投資の影響はないとしているものの、ドイツと日本両国内での半導体需要が伸びていないため、稼働開始時期は需要回復次第としており、具体的な時期を決めかねている模様である。
Q: 欧州ファブの稼働はいつから?
A: 欧州委員会、ドイツ連邦、州、市政府からの強いコミットメントを得て、ドイツのドレスデンに特殊技術(specialty technology)工場を建設する計画を順調に進めている。生産開始スケジュールは、今後、顧客のニーズと市場状況を踏まえて決める。
(筆者コメント)欧州自動車メーカーは、EV不振や米国の自動車関税の影響で赤字に陥っており、生産開始時期を決めかねており市場状況を見て判断するとしている。
Q: 延期されている熊本の第2工場の建設はいつ開始するのか?
A: 日本の中央政府、県、地方自治体からの強力な支援のおかげで、熊本の最初の特殊技術工場TSMC(Fab 23 Phase 1)が2024年後半に非常に良好な歩留まりですでに量産を開始している。 2番目の特殊工場(Fab 23 Phase 2)の建設は、現地インフラの整備状況次第で今年後半に開始される予定である。生産開始スケジュールは、顧客のニーズと市場状況に基づいて決定される。
(筆者コメント)熊本第2工場は、25年1〜3月期の着工を予定していたが、ウェイ会長は4月の記者会見時に「地元の交通渋滞問題」が解決するまで遅らせる方針を示していた。今回、2025年内に建設開始するとしているが、稼働開始については口を濁した。TSMC 日本市場での売上高は総額の4%に過ぎず、サプライチェーン関係者の話では、日本市場での需要は伸びていないという。
Q: TSMCでも成熟プロセスの供給過剰が生じるのではないか?
A: 中国で成熟プロセスやレガシープロセスを用いた半導体製品の生産が過剰となり、世界的に供給過剰になることが懸念されているが、TSMCに限っては供給過剰になることはない。なぜなら、当社は、供給過剰が心配されるような汎用技術ではなくて、顧客の要望に応じてRF技術、CMOSイメージセンサ、高電圧技術など特殊技術だけを開発している。もしも過剰生産能力の心配があるなら、日本にもドイツにも成熟技術の工場を建設しなかった。
Q: 製造工場全体にAIを適用することで、どの程度の経済的メリットが見込めるか?
A: 私たちはAIを工場運営や製造管理に活用している。この分野の研究開発も続けている。私たちの規模の会社で生産性を1%向上させることができれば、それは10億ドルに 相当するので、AI活用に注力している。これ以上のことは発言を控える。
超微細プロセスでの量産計画は順調
なお、ウェイ会長は、決算説明会の冒頭に、今後のロジック微細化プロセスの量産時期とデバイスの性能向上について説明したが、それを要約すると以下のようになる。ライバル各社が微細化にてこずっているのをしり目に、TSMCの微細化は順調に進行している模様である。
表1:TSMC台湾拠点での今後の最先端デバイス量産計画と性能向上予測 出典:TSMC2025年第2四半期決算説明会におけるウェイ会長の発言の基づき筆者作製
同社は、3Dパッケージングで単位面積当たりのトランジスタ密度を増加させるとともに、Apple やNVDIAなど有力顧客の要請もあり、並行してMooreの法則に従い2D(平面)の微細化も継続して行うことを強調している。
参考資料
1. 服部毅、「TSMCの2025年第2四半期決算、営業利益/純利益ともに前年同期比60%超を達成」、マイナビニュースTECH+、(2025/07/18)
2. 服部毅、「TSMCの熊本第2工場は年内に着工、台湾での2/1.4nm量産は計画通りに進行 決算説明会でCEOが言及」、マイナビニュースTECH+、(2025/07/22)