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セミコンポータルで紹介した革新技術ベンチャーが海外企業に次々買収される

このところ、セミコンポータルで紹介したかなり革新的なベンチャーが相次いで買収されている。財務のしっかりした企業が将来性のあるベンチャーを買収することは自社の成長につながる。逆に将来、成長の見込みのない企業は買わない。買収される側にとってもブランド企業に買われることは技術の革新性が認められたことにつながり歓迎する所が多い。

企業買収はライバル企業をつぶすために行うことがかつてはあったが、最近みられる半導体企業買収はほとんどが自社の弱い製品を補完するために行う。買収することで自社の製品ポートフォリオを拡大し、売り上げも利益も増やすことが目的である。セミコンポータルで紹介してきた海外のベンチャー企業は革新的な技術を持つところが多い。

しかし、日本企業は海外企業をなかなか買おうとはしない。以下で紹介する企業はすべてセミコンポータルで紹介したが、ロームによる米Kionix社買収を除きすべて海外企業が買収し、自らの成長を促進している。日本の半導体企業はそろそろベンチャー買収も視野に入れた成長戦略を考えるべきではないだろうか。安い値段で革新技術が手に入るからだ。ノキアのLTE技術をルネサスは買ったが、ノキアにとってLTE技術開発は平行に4〜5プロジェクトを進めていた内の一つにすぎない。最近ではノキア自身にも黄色信号が灯っている。同社はここ2〜3年リストラを継続して推進している。

ごく最近買収された企業は米AWR社で、5月9日に紹介したばかりだった(参考資料1)。高周波回路(RF)専門のEDAメーカーであり、買収したのはソフトウエアと専用のハードウエアでパソコンを測定器に変えてしまう米National Instruments社だ。AWR社は13年連続右肩上がりで成長し続けてきた。買収されてもAWRのブランド名は残り、子会社として機能していく。ブランド名まで奪わないところが米国企業には多い。ブランド力を利用する方が得策だからである。

その前には、タブレット用のアプリケーションプロセッサで台風の目になっている米Nvidia社が、ソフトウエア無線利用のワイヤレス通信用ベースバンドチップを設計している革新的なファブレスの英Icera社を買収する(参考資料2)と発表した。極めて賢い革新的なベースバンドチップを設計しているIcera社はM2Mソリューションの企業の間では高名な企業だった。クアルコム社のチップよりも面積が小さいのにもかかわらずソフトウエアだけで3GにもHSPAにもLTEにも切り替えられるという優れモノを開発してきたからだ(参考資料3)。

ベンチャーではなくむしろ老舗の米ナショナル セミコンダクター社を米テキサス・インスツルメンツ社が買収したことは有名(参考資料4)だが、実はナショセミはもはや百貨店商品を並べた企業ではない。ベンチャーのようにアナログに特化し、今後はエネルギー分野やLEDでのソリューションを考案すると同時にWebenchというウェブベースのアナログ回路設計ツールを提供し、成長できるアナログの世界を独自に着々と築いてきた。しかもパワーマネージメントではトップメーカーである。

昨年は、NFCを推進していた英国のベンチャーInnovision社(参考資料5)を、ここ数年売り上げを2ケタで伸ばしてきている米ブロードコム(Broadcom)社が買収した(参考資料6)。Innovision社は最初(2008年)の英国特集で紹介した企業であり、その年のセミコンポータル主催のSPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー〜グローバル化をどう進めるか」(参考資料7)でCEOのDavid Wollen氏に講演してもらった企業である。創業時からグローバル化を念頭に置き、NFCビジネスを進めてきた将来性のある企業であることをBroadcom社が見抜いた。

2009年に紹介したKionix社(参考資料8)は日本のロームが買った。Kionix社は、MEMSのチップを設計しそのセンサー出力を楽しさに変えるアルゴリズムをも開発し、3軸加速度センサーを利用したスマートフォンやタブレットの新しい入力方法を提案した。今年のMWC(Mobile World Congress)にはKionixの加速度センサーを集積したASICチップを載せたタブレットが続々登場していた。ロームはKionixのブランド名は残している。これからのタブレットやスマートフォンの楽しい入力技術として使えるこのASICチップはこれから大きく成長を遂げるに違いない。

ロームのKionix買収は見事である。ロームという会社は乾いたぞうきんをさらに絞りきるケチな会社という陰口が聞こえてくるほどコストカットに関しては徹底している反面、革新技術を持っている企業の買収や、技術ライセンス購入にはポンと気前よく投資する会社でもある。成長戦略がはっきり見える企業といえる。一方、総合電機や大手通信機メーカーの半導体部門から抜けきれない国内半導体大手は、これからどのようにして成長していくのか、東芝のNANDフラッシュ以外は全く見えて来ない。

セミコンポータルはこれからも有望な海外ベンチャー企業を紹介し続けていく。自社にない技術を今後、手に入れたいと思うのであれば新たに開発するだけではなく、「買収」も選択肢の中に入れるべきであろう。

参考資料
1. ワイヤレス、低消費電力分野への注力で毎年成長してきた中小EDAベンダー (2011/05/09)

2. 日本のメーカーはなぜIceraを買収しなかったのか (2011/05/11)

3. 特集:英国株式会社(3) 4Gまで対応可能なソフトウエア無線専用プロセッサ (2008/03/19)

4. TIがナショセミを65億ドルで買収、アナログの製品ポートフォリオを拡大へ (2011/04/05)

5. 特集:英国株式会社(5) 携帯電話にリーダー/ライターを搭載 (2008/03/25)

6. 高速ワイヤレス・モバイルの高成長分野をまい進するブロードコム、CEO語る (2010/10/12)

7. SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー〜グローバル化をどう進めるか

8. MEMSモーションセンサーを利用、12個のコマンドをプログラムできるASIC (2009/05/07)

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