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特集:英国株式会社 (5)携帯電話にリーダー/ライターを搭載

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ロンドンとバースを結ぶ三角形の頂点あたりにサエンセスタ(Cirencester)という街がある。ここも、2000年ほど前、ローマ人に支配されており、城壁に囲まれた街だった、とInnovision Research & Technology社のCEO David Wollen氏は言う。同氏はRFID(radio frequency identification)を中心としたNFC(短距離通信)半導体ファブレスおよびIP企業のトップである。RFIDはすでに切符の改札や、フェリカカードなどに使われてきた実績があるが、今第2世代に向かっている。古い技術を元に新しい技術へと移り変わろうとしている。

InnovisionのDavid Wollen CEO

写真8 InnovisionのDavid Wollen CEO


第1世代のRFIDは、パッシブなRFIDタグをカードに埋め込んで、電車の切符やエディカードとして小銭入れ替りに使ったりしていた。時には携帯電話に埋め込んでお財布携帯という呼び名で自動販売機からジュースを購入するというような応用が確立している。


リーダー/ライターを携帯に組み込む
第2世代のRFIDは、消費電力ゼロの単なるパッシブタグではなく、もっとセキュアにし、アクティブなリーダー/ライターとしても使えるようなチップへと機能アップしたものになる。Innovision社が開発している非接触の近距離通信技術NFC(Near Field Communication)を盛り込んだチップやIPは、第2世代のRFIDを狙ったものだ。

従来のRFIDのリーダーやライターが半導体チップの高集積化によりカード程度の大きさになるとすると、さまざまな応用が開けてくる。Innovision社のCEOであるDavid Wollen氏は携帯電話こそがリーダー/ライターのプラットフォームになると言う。携帯電話機にはキーボードも液晶ディスプレイも付いている。しかも電池からの供給電源もある。携帯電話機にパッシブチップを埋め込むのではなく、携帯電話機でタグを読み取るのである。

タグ専用のチップは小さく、データ量も少なくてよい。それを携帯電話で読み取ってより詳しい情報へとつなげていく。しかし、リーダー/ライターを含めたNFCチップはタグそのものも集積する。

同社の考える新しい応用には主に3分野がある。
まず一つは、サービスイニシエーション&スマートポスターと呼ぶ分野である。サービスイニシエーションとは、RFIDタグ側にはごく単純なデータ、例えば電話番号やURL、簡単なテキストなどをストアしておくが、読み取ってから詳しいサービス内容へと移行していく用途での最初の段階を意味する。サービス内容にいきなり行かずにまずは簡単なデータを読みとってからサービスを携帯電話がアクセスする。

たとえば、紙媒体の広告にURLを記録したタグを埋め込み、携帯電話でタッチすると、携帯電話は広告主のホームページへとアクセスする。あるいはすぐに広告の商品スペックをダウンロードできる。スマートポスターでは、ポスターの中にタグチップを埋め込んでおく。新製品や新サービスのその宣伝ポスターに携帯電話でタッチするとURLの情報をみたり、あるはコンサートのチケットを入手したりすることができる。電話番号の書いてあるポスターなりチラシなりを読み取ると、その電話番号が携帯電話に入力され、番号をメモしなくても電話をかけることができる。


ポスターや地図の裏にタグを張っておき、携帯電話で読み取る

写真9 ポスターや地図の裏にタグを張っておき、携帯電話で読み取る


また、タグを埋め込んだステッカーを玄関に飾っておき、子供が帰宅したら携帯電話をタッチすると、「ただいま」というメッセージが両親の携帯電話へ送られる。名刺の中にタグを埋め込み、住所から場所を読み取りGPS機能も入れておけば場所の地図が携帯画面に表示される。

2番目の応用は、ピアツーピア通信である。これは電話機から電話機へと情報を送り情報を共有するもの。データが軽ければNFC通信で、重ければ従来のBluetooth 通信で送るというように使い分ける。たとえば、携帯電話機に記録している写真をプリントアウトする場合、NFC通信でプリンタへ動作することを告げた後、Bluetooth通信で伝送する。デジカメで撮った写真をフォトフレームに転送し、フォトフレームの写真を取り換えるというような応用にも同じようにして使う。インターネットカフェでは、WiFiの設定をNFCに組み入れておけばマニュアルで設定する必要はない。

3番目の応用は、支払いとチケットである。いわば、お財布携帯であるが、携帯電話機側にクレジットカード機能やプリペイド機能、デビットカード機能などにセキュリティをかけて入れておく。プリペイドとしての自動販売機を利用するお財布携帯だけではなく、演劇やコンサートなど各種のチケットをクレジットカードとして支払いできるようにする。

同社のビジネスモデルは、ファブレスのRFID/NFC半導体チーメーカーであり、RFID/NFCシステムをソリューションとしても提供し、さらにシリコンのIPベンダーでもある。創立は1994年と比較的古いが2001年に新興企業向けの株式市場であるAIM(alternative investment market:代替投資市場)市場に上場した。これまでもRFID/NFCに特化した技術志向の企業で、50種類以上のRFIDチップを開発してきた。エンジニアは40名ほどおり、RF回路やミクストシグナルLSIの設計に強い。ただし、アナログ技術は経験が必要とされるため、エンジニアの年齢はそれほど若くないという。

NFCでは、13.56MHzの免許不要の周波数を使い、最大20cmの距離までタグを読み取ることができる。データ転送速度は最大424kbpsである。2007年11月に同社のNFCタグを搭載したノキアの携帯電話6131に搭載し、英国の通信キャリヤのO2社と共同でNFCの実験を始めた。

同社は、当初独自規格のRFIDから入っていったが、0.35μmプロセスでは従来の非接触スマートカード規格のISO14443Aに準拠したRFIDリーダー+タグのLSIを開発した。チップサイズは1.9mm×1.2mmとやや大きいが、0.13μmのリーダー/ライター+タグのLSIは1mm2以下、さらに90nmのSoC向けIPでは0.5mm2以下という大きさに抑えている。SOC向けのIPをGemと呼んでいる。

RFID/NFCチップには、従来のパッシブタグとは違い電界が強い場合でも過剰な電流が回路部分に流れこむことはないように設計できる。従来のタグ技術では強い電界が加わると、過剰電流が流れ、クレジットカードの信頼性が劣化してしまい、使えないという欠点があった、とWollen氏は言う。同社のNFCチップはバッテリ動作を基本としているため、外部からの電界エネルギーに頼る必要がない。

RFID/NFC通信チップでは、RF回路とベースバンド回路、MCUを中心のコントローラとするデジタル回路などミクストシグナル技術が欠かせない。Wollen氏はこの技術の専門家を多数抱えているため、さらに新しい技術にも挑戦できるとしている。たとえば通信距離が20mまでのFFC(far field communication)技術なども開発中だとしている。

ミクストシグナル回路をNFC用IPとして設計し、それを0.5mm2以下の面積で実現するわけであるから、これを組み込んだSoCは携帯電話やデジカメ、デジタルテレビなどあらゆる電子機器に入り込む可能性がある。そうなると、多くの電子機器がNFC通信機能を搭載することができる。すなわち、物理的に接触していないRFID接続ということになる。

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