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高速ワイヤレス・モバイルの高成長分野をまい進するブロードコム、CEO語る

米通信用半導体のファブレスであるブロードコム社が快調に飛ばしている。これまで売り上げのピークだった2008年の46億5800万ドルは軽く超える勢いだ。2010年の上半期に30億6700万ドルと2006年の1年間の売り上げレベルに近づいている。米国のアナリストは今年60〜70億ドルになると見ている。その秘密をCEOのスコット・マクレガー氏がインタビューで語った。

ブロードコムCEOのスコット・マクレガー氏

図1 ブロードコムCEOのスコット・マクレガー氏


ブロードコム社は常に成長分野に的を絞ってきたことがその背景にある。これまで同社は通信ネットワークの世界といっても企業向けネットワーク機器用やブロードバンド通信用の半導体に力を入れてきた。しかし、これからはワイヤレスとモバイルがトレンドとなると見るやすぐに舵を切り替え、ワイヤレス&モバイル分野の比率を2007年の32%から08年33%、09年38%へと高めてきた。モバイル・ワイヤレスのベースバンドチップで、ノキアとサムスンの携帯電話・スマートフォンの認定を受けたため、売り上げ増を今後も期待できる。

この10年第2四半期もブロードバンド、モバイル、ワイヤレスの分野がこれまでの記録を塗り替えたという。もう一つは早く新製品を出してきたことだ。いわば実行力があるということになる。

創立20周年を来年に控え、これまでの10年間で40社を買収してきたとマクレガー氏は語る。さらなる成長に備え、今後も四半期ごとに1〜2社買収するというペースで成長し、自社内の開発という有機的な成長も進める。幸い、現在26億ドルのキャッシュを手元に持ち、借金はなく、毎年10億ドルのキャッシュフローが追加されていくシナリオを考えている。

では、今後の産業成長力をスコット・マクレガー氏はどう見るか。この講演において彼は、携帯電話、スマートフォン、タブレットPCといった携帯機器の今後のトレンドは、タッチスクリーン、ストリーミングとクラウド利用も活発になる、と見ている。

家庭では、DLNA(Digital Living Network Alliance)規格を通して、テレビやブルーレイプレーヤー、パーソナルメディアプレーヤー、ノートパソコン、タブレットPCなどを接続することで、いつでもどこでもテレビのコンテンツが見られるようになる。従来なら夜8時はゴールデンタイムとして視聴者がテレビの前にかじりつかなくてはならなかったが、ストリーミングデータを貯め流せば時間に制約されることはなくなる。


家庭内のAV機器はみんなつながり、ゴールデンタイムはなくなる

図2 家庭内のAV機器はみんなつながり、ゴールデンタイムはなくなる


端末は高解像度でタッチスクリーンなどの使いやすいユーザーインターフェースになると、爆発的な普及につながる。

さらにクラウドも家庭で意識せずに使うようなシーンが来る。例えば音声で文章を読み上げると、その音声データを、クラウドを通してそのままセンターのコンピュータに送り、そのコンピュータが音声認識してテキストに変換すると、その結果のテキストデータを端末に送り戻すと、タブレットPCやスマートフォンの画面にテキストが一瞬のうちに自動的に変換されて読むことができるようになる。データセンターのコンピュータは計算能力が高いため、瞬く間に計算してしまうため、戻ってきたテキストデータはまるで携帯端末で計算されたかのような錯覚になる。クラウドを無意識に使うようになると、携帯端末のプロセッサにはそれほど大きな計算能力は必要とされないため、GHzという高周波で動かす必要がなくなり、電池は長持ちするようになる。

また、デジカメの動画モードやちょっとした簡易型のビデオカメラで数分間撮ると即座にクラウドを通してYouTubeのデータセンターに送られ、動画をタブレットPCやスマートフォンで見ることができるようになる。こういった無意識でクラウドを利用することで膨大な市場が開けてくる。経済産業省の予測では、日本のクラウドコンピューティング市場は2020年までに40兆円の規模になるという。

マクレガー氏は、ワイヤレス通信をヘルスケア応用にも使えるとする。血圧や心拍数などの健康データを取得し、伝送し、保護暗号化することで、携帯電話を使うヘルスケア応用が出てくるし、ピルを飲み体内データをBluetoothによってデータを送ってくることも可能であるし、心電図のデータもワイヤレスでモニターできるようになるとマクレガー氏は見る。

スマートグリッドについても家庭の電気量を測定するスマートメーターをセットトップボックスとしておけば、インターネットともつながっているため、家庭内ゲートウェイとしても使える。またワイヤレス充電、フェリカカードのようなNFC通信にも興味を示している。特にNFCに注力するファブレス半導体メーカーの英Innovision Research and Technology社を買収した(関連資料1)。マクレガーCEOは今後の製品については株式上場の規則に触れるため語らないが、NFC企業を買収したということは、この分野に乗り出してくることは間違いない。

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1) 特集:英国株式会社(5)携帯電話にリーダー/ライターを搭載 (2008/03/25)

(2010/10/12)
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