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Keysight、半導体測定器を拡充、EDA管理ツールやIC内ワイヤーの非破壊検査

半導体の高周波特性やさまざまなパラメータ特性を測定する計測器を設計・製造しているKeysight Technologyが、今年で10回目となるプライベート展示会Keysight Worldを東京・JPタワーホール&カンファレンスで開催した。ここでVLSI 設計データのライフサイクルマネージメントやチップレットの設計ツール、静電容量方式によるボンディングワイヤーの非破壊検査などを紹介している。

LSI設計業務フローの管理ソフト

図1 LSI設計業務フローの管理ソフト 設計者の工数の6割強がデータ探しに費やされてきた


今回のKeysight Worldでは、やはり半導体を中心に、AI技術を埋め込んだ測定器やそれに欠かせないソフトウエアを展示している。半導体関係では、PLM(Product Lifecycle Management)をベースにした設計のライフサイクル管理ソフト(図1)をCliosoft社の買収によって手に入れた。このソフトは設計データを管理する。LSI設計では大勢の人間が関わっているため、半導体設計エンジニアの工数の60%超がデータを探すためだけに使われているという。設計データのバージョン管理とその組み合わせがカギとなる。使える回路や部品を再利用できる形にしてハブに保存管理する。この管理ソフトではSynopsysやCadence、Siemens EDAなどのツールに対応しており、設計者はそのハブから、設計データをすぐ引き出せるため、トータルの設計時間を50%削減できたとしている。

また、最近のチップレット実装に合わせて、ダイ同士の総合接続シミュレーションを提供するEDAツール「Chiplet PHY Designer」も提供している。チップレット同士の端子の接続を規定するUCIe規格に準拠しているかを迅速に検証する。

さらに、ボンディングワイヤーが切れかかっていたり隣同士が隣接しかかっていたりするような、ワイヤーの欠陥を検査する装置も展示した。従来ならモールド封止したICパッケージのワイヤーボンディング状態をX線で透過したり、電気的に接続したりするテスターを使ってきたが、中途半端な切れかかりや接近などの状態を検出することが難しかった。そこで、静電容量を利用してボンディングワイヤーのたわみや近接ショートの危険性、浮遊ワイヤーなど不良になりやすいICを検出する。測定にはパッケージ上部からの独自開発のVTEP(Vectorless Test Enhanced Probe)プローブと、ICを実装した基板との間に高周波をかけて静電容量を測定するとしている。

その他、AI技術を測定器に導入していることも新しい。2020年に買収したEggplantの自動テストプラットフォームを利用して、カバレージを広げた複雑なテストができる。半導体ではないが、医療分野では電子カルテシステムをテストするのに、カバレージを拡大しながらテスト時間を92%も削減したという。ここでのAIは、電子カルテや支払いの画面をAI(ML)で画像認識し、その画面上でさまざまな操作ができるかどうかをテストする(図2)。判断のロジックは予め作っておく必要はあるが、画像認識を学習しておけば後は自動でテストする。また、OCR(Optical Character Reader:文字認識)でみた情報を取り込み、電子カルテ画面上の名前が一致しているかどうかも検査できる。


複雑なデータやそれらの紐づけ管理を画面認識のAIで自動テストする

図2 複雑なデータやそれらの紐づけ管理を画面認識のAIで自動テストする 


Keysightの源流はHewlett-Packardであり、日本における源流は横河ヒューレット・パッカード(YHP)である。半導体のパラメトリック測定器メーカーとしては市場シェアトップだという。製品は米国のHPだけではなく、YHPで開発したものも多く、日本法人は米国の販売会社という位置づけではない。開発部隊でもある。さらに、新技術の展示会であるKeysight Worldは日本が提案し、米国にも開催されている。

この8月1日付けで日本法人、キーサイト・テクノロジーの代表取締役社長に就任した寺澤紳司氏(図3)は、1988年にYHPに入社以来のエンジニアの道を歩んできた。社長就任と同時に、Keysight Technology, Inc.のCore Product Management部門のVPも兼務するようになった。


キーサイト・テクノロジー 寺澤紳司代表取締役社長

図3 キーサイト・テクノロジーの代表取締役社長に就任した寺澤紳司氏


測定器メーカーは本来、現存するデバイスよりも高性能でなくては、デバイスのパラメータを正確に測定できない。このため、測定器メーカーは最先端技術を自分で開発することが多い。余談だが、HPからスピンオフしたAgilent Technologiesから、さらにスピンオフした半導体部門のAvagoは、Broadcomを買収し、今や時価総額で世界企業ランキングの12位に入るほどの企業になった( ちなみにトップ100社の内、唯一の日本企業のトヨタは42位)。Keysight内部にも実はASICやFPGA、化合物半導体を開発する半導体開発部門がある。ここで周波数帯域110GHzの任意波形発生器用チップや、256GS/sの10ビットA-Dコンバータなどを超ハイエンドの半導体を設計・製造している。

(2024/08/07)
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