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SiCパワー半導体、一時的減速から復活へ!〜中国勢は量産、ロームはトヨタ向け採用決定〜

EVブームのトーンダウンにより、パワー半導体は一時的な減速を余儀なくされている。SiCパワー半導体で世界トップシェアを狙うロームは、売上額がかなり後退しているのだ。インテリジェントパワーモジュールで世界トップシェアの三菱電機もそれほど伸びは良くない。ただ、トヨタ向けのパワー半導体を作る富士電機は堅調に伸びてきており、SiCシフトを強めるために青森津軽工場の拡張に走っている。

しかしながら、パワー半導体のアプリケーションを考えれば車載だけではなく、太陽光発電やその他各種情報機器、データセンター、ロボット、産業機械、鉄道、エアコンなどに用途は広がるわけであり、中長期的には確実に伸びるのだ。さらに言えば、EV向けが伸びないという予想はあってもハイブリッド車、燃料電池車などのエコカーにはパワー半導体は必ず積まれるわけであるからして、カーボンニュートラルを標榜する2050年までにはやはり車載向けパワー半導体は伸びていくと予測して良いだろう。

さて、前記のロームは全体的にはSiCパワー半導体がトーンダウンしているが、トヨタ自動車の中国市場向けで一気拡大の動きが出てきた。すなわち、トヨタのEV「bZ5」に採用されることが決まったわけであり、中国市場向けを中心に採用されるのだ。トラクションインバーターにロームのSiC-MOSFETベアチップを搭載したパワーモジュールが採用され、ロームと中国・正海集団の合弁会社から供給されることになった。

一方、中国のパワー半導体においてもSiCの開発および生産能力拡大の動きが出てきた。中国のパワー半導体企業であるYangzhou Yangjie Electronic Technology (Yj) が2027年をメドに次世代トランジスタ構造のSiCパワー半導体量産を決めたのだ。セルサイズの縮小、ウェーハの内製化、大口径化で低価格化を推進するという。量産については、トレンチ構造のSiCパワーを用い、ゲート間距離を2.8µmと前の世代に比べて41%も縮小したためにセルサイズを削減できたのだ。生産能力についても、SiCパワー半導体の現在の生産能力150mmウェーハ5000枚/月を2027年に2万枚/月に引き上げる一方、200mmに大口径化していく。

中国の半導体産業は、最先端の材料、装置は入手できないためにローエンド、ミッドレンジにシフトせざるを得ないという状況がある。これゆえに、中国のSiCパワー半導体企業はここにきて何と50社以上になったという一部情報があり、日本のパワー半導体企業もうかうかとはしていられないのである。

産業タイムズ社 取締役会長 泉谷渉
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