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TI、ブラシレスモーターの騒音を制御技術で抑え込む

Texas Instruments社は、さまざまな電動工具やポータブルな家電機器に使われるブラシレスDCモーターの騒音を減らすための制御技術を盛り込んだモータードライブICを発売した。ノートPCの最も静かなファンよりも6〜7dB低いとしている。終段のパワーMOSFETも集積しているため、チップを搭載した基板面積はディスクリートで組む場合の1/3と小さくなる。

図1 家電機器からの騒音は減らない 出典:Texas Instruments Inc.

図1 家電機器からの騒音は減らない 出典:Texas Instruments Inc.


DCモーターを使う事例は増えつつある。特に家庭用(図1)の電動工具や掃除機、ノートパソコンなどにもDCモーターが使われている。持ち運び器具はバッテリ動作が前提であるため、ここに使われるモーターはDCモーターが欠かせない。これまでも、掃除機から出る騒音をマイクで拾ってノイズ波形の位相を180度ひっくり返して打ち消し合う、といった手法が使われてきたが十分ではなく、しかも消費電力は増加する。

消費電力を減らしながら騒音を減らすためにはモーターそのものの駆動を制御する方式が必要とTIは考えた。モーターのパワーが最大70Wだと家庭内での用途は広い。今回開発したブラシレスDCモーター用の駆動ICは制御方式を工夫して騒音を減らしたもの。

一般にモーターの回転数を変えるためにはPWM(パルス幅変調)制御が使われている。PWM変調は、パルスの幅を広くするとモーターを駆動する電流を増やし、狭くすると減らすことができる。そのパルス波形をコンデンサやインダクタなどで平滑化すると正弦波のように加工することができる。つまり直流から交流電流の大きさを変えることができる。それによってモーターの回転数を連続的に変えることができる。


Phase current waveform and FFT - Discontinuous PWM modulation/ Texas Instruments Inc.

図2 PWM変調が不連続に行われると位相電流を発生し騒音を引き起こす 出典:Texas Instruments


TIもPWM変調で回転数を可変できる点は変わらないが、回転をさらにスムーズにいくように1回転を120度ずつ3相の駆動回路でモーターを駆動する。3相交流モーターはモーターの安定動作上欠かせない技術である。TIは今回の騒音削減技術を技術記事で解説している(参考資料1)。パルスのスイッチング周波数で同時に3つの波形が同じ時刻で変調されると連続的なPWM変調できれいな正弦波ができる。しかし、3つの波形や同時性が崩れるとバラつきができ、不連続なPWM変調となるため、波形がクランプされて位相差を生じる。この位相差による電流が音としてノイズを引き起こす。その波形にFFT(高速フーリエ変換)をかけてみると高調波が何本かくっきりと立ちノイズとして現れる(図2の赤い波形)。TIでは、PWM変調と位相変調を使って連続的にPWM変調を行い、回転速度と騒音を同時に制御しているという。

また、ブラシレスモーターの設計は、モーターのブラシを擦ることがないため、元々騒音は低い。このためエネルギー効率は高い。しかし、交流を創り出すためのゼロ交差点でのスイッチをはじめとしてチューニングさせるための設計が難しかったため、TIは今回、コーディング不要でチューニング用に5本のピンを使って簡単に設計できる回路を集積した。

その一つがデッドタイム補償である。ハーフブリッジ回路では、ハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETがスイッチングする瞬間にデッドタイム期間を予め作っておく。突入電流を避けるためだ。しかし、このデッドタイムによって、設計電圧と実際電圧との差が異なるため、位相電流の向きによってジッターが生じ、騒音につながっていた。そこでTIは、共鳴制御技術を使う独自のデッドタイム補償によって位相電流の高調波成分をゼロにした。この技術の詳細に関しては明らかにしていないが、騒音レベルはだいぶ削減している(図3)。


Audible noise with MCF8316A / Texas Instruments Inc.

図3 新製品MCF8316Aを使った騒音低減 出典:Texas Instruments


TIが提供する低騒音のブラシレスモーター制御ICは2種類。上で紹介した技術の製品が磁界方向制御(FOC: Field Oriented Control)のMCF8316Aであり、もう一つは矩形波形で制御するMCT8216Aである。後者は高速モーターを使った掃除機などの応用に向いているという。

世の中に出回っているブラシレスモーター制御ICは後者の方が多いが、今回の新製品MCT8216Aは、デッドタイムの補償を含めて、矩形波の位相を120〜150度の間で転流モードを変えることで比較的滑らかな正弦波を実現、騒音を削減したという。


双方のデバイスも基板領域を最大70%削減 / Texas Instruments Inc.

図4 騒音を制御する回路を集積、外付け部品点数も削減し実装面積が1/3に 出典: Texas Instruments


いずれの製品も騒音制御回路を集積しており、チューニング設定が簡単なので、ボード設計も簡単である(図4)。ただし、技術的な難しさを克服したFOC方式にいずれシフトしていくだろうと、同社BLDCモータードライバ製品部門 製品ラインマネージャーのPunya Prakash氏は見ている。

参考資料
1. "How to Reduce Motor Noise with Code-Free, Sensorless BLDC Motor Drivers", Texas Instruments Application Note

(2021/09/14)

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