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パッケージング技術でパワーMOSFETの熱抵抗を大きく改善したInfineon

パワー半導体の巨人Infineon Technologiesが、冬の時代を迎えているパワー半導体への次の手を打ち始めた。シリコンのパワーMOSFETやIGBT、SiC MOSFET、GaN HEMTなどパワー半導体の製品ポートフォリオを広げ、しかもクルマ市場をにらみながら新型コロナ後を狙って着々と準備を進めている。

図1 車載、パワー半導体、セキュリティのチップに強いInfineon 出典:Infineon Technologies

図1 車載、パワー半導体、セキュリティのチップに強いInfineon 出典:Infineon Technologies


Infineonは、パワー半導体では2位以下を倍以上引き離している絶対王者である(図1)。クルマ用半導体においても1位のNXPの市場シェア12.0%に対して11.2%とその差を詰めてきた。同社がシリコンMOSFETの新型パッケージを発表しながら、GaNでもSiCでも生産を始めている。さらに引き離す狙いだ。

現在、新型コロナウイルスの影響により多くのクルマメーカーが北米やドイツの工場での生産を停止している。OEMのクルマメーカーの生産が止まるとティア1、ティア2などのサプライヤも連鎖的に出荷できない。クルマ用の半導体にとってまさに冬の時代である。しかしInfineonは2021年完成の300mmウェーハプロセス工場の稼働に備え、シリコンのパワー半導体で放熱性を20%あるいは30%改善した技術を発表している。

同社がOptiMOSと呼ぶパワーMOSFETでは、ソースダウン実装によってオン抵抗を30%、熱抵抗を20%も下げた技術を開発した。これまでのパワーMOSFETでは、シリコン基板側にドレイン端子があり、表面側にソースとゲートを設けて、そのままドレインをリードフレーム上に実装してきた。この構造をさかさまにして、ソース側にフラットな端子を設け、このソース端子側が下にくるようにパッケージする(図1)。このQFNパッケージをそのままプリント回路基板に実装できる。ドレイン端子もやはりフラットなリードでプリント基板に取り付けられる。


図2 ソースダウンパッケージ(下の図)で効率を20〜30%上げた 出典:Infineon Technologies

図2 ソースダウンパッケージ(下の図)で効率を20〜30%上げた 出典:Infineon Technologies


この構造にすると、チップを少し大きくできるため、オン抵抗を下げることができたという。3mm×3mmのPQFNパッケージにアセンブリした耐圧25Vの製品ではオン抵抗が0.5mΩとなった。

さらにこの構造のメリットは、プリント回路基板に実装するとソース端子が回路基板表面に直結しているため、回路基板のソース電極側に熱を逃がすためのサーマルビアを7〜8カ所も設けることができるため、熱抵抗も下がる。従来の1.8K/Wから1.4K/Wに下がったとしている。オン抵抗、熱抵抗の両面からパワーMOSFETの効率が上がるため、3mm×3mmの小さなパッケージに、25V品から150V品まで、0.65mΩから22mΩまでの製品を全て収めることができた。

もう一つ、常識を覆すパワーMOSFETのパッケージを開発した。表面実装タイプのパワーMOSFETでは基板の裏側に放熱フィンを取り付けなければならなかった。表面積の大きなシリコン基板側のドレイン端子をプリント回路基板に直接取り付けていたためだ。そこで、これも逆転の発想で、やはりフラットなメタルのソース端子をリードフレームに取り付けた後、ガルウイングを真逆に曲げて、ソース金属端子を上側むき出しにするモールド封止を行う(図3)。


図3 ガルウイングの端子を逆に折り曲げ、ソースに放熱フィンを取り付けた 出典:Infineon Technologies

図3 ガルウイングの端子を逆に折り曲げ、ソースに放熱フィンを取り付けた 出典:Infineon Technologies


この構造は3端子をプリント基板に取り付けると、表面のソース金属端子に放熱板を取り付けられるようになる。電気的には放熱板と絶縁するためのTIM(Thermal Interface Material)を介して、パワーMOSFETから熱を逃がす。従来のドレイン基板だとドレイン端子から回路基板を通してチップの熱が放熱板まで到達していたが、新パッケージだとソース側から放熱フィンに直接、熱を逃がすことができる。これによって熱効率が上がり、パワーMOSFETの効率が高くなり、小型にできる。また、プリント回路基板の方面から放熱できるため、裏面側に受動部品を実装できるというメリットもある。

シリコンのパワーMOSFETだけではなく、GaN HEMT(High Electron Mobility Transistor)トランジスタは、サーバー用電源から民生用のパソコンやスマートフォンの電源にまで使われ始めており、Infineonは耐圧400Vと600VのGaNトランジスタは量産体制に入っている。サーバーでは、外部の高電圧(240V/400Vなど)の送電線から内部の48Vまで低下させる、AC-DC/DC-DCコンバータ用のパワー半導体が必要となる。大電力のIGBTやパワーMOSFETはもちろん大量に使われるが、サーバー本体を小型・低消費電力にするためGaNの使用によって周波数を上げ、インダクタやコンデンサのような大きな受動部品を小さくする電源も出てきている。

SiCは、電気自動車(EV)に使われ始めているが、インバータではなくオンボードチャージャーから始まった。ここではディスクリートのSiC MOSFETが高級車に搭載されようとしている。EVではバッテリを直列接続して300V程度まで昇圧するため、600V以上の高耐圧製品が求められる。SiCをインバータに使う場合はディスクリートではなく、SiCショットキーダイオードと1対にして6対組のモジュールで供給する方が使いやすい。3相モータでEVを駆動するためだ。ここでもSiCは高級車から始まるだろうと見られているが、搭載したクルマが販売されるのはこれからになる。

SiCもGaNも高速でスイッチングするため、受動部品を小さくできるというメリットがある。小型・軽量を要求するクルマ向けにはSiCは向くが、問題はコスト。まだIGBTよりも1桁近く高いようだ。

Infineonが米国Cypress Semiconductorに提案していた買収がこのほど完了した。Cypressには旧富士通のエンジニアが多く、Spansion 時代のNORフラッシュをはじめ、マイコンやアナログ部門もあり、クルマ用半導体としては重なる製品は少ない。このため相乗効果は大きく、クルマ用半導体メーカーとしてトップになる日は近い。

(2020/04/22)

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