セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

PoE・急速充電・デジタル化・POLと多様化するPMIC〜EuroAsia2013から(3)

|

パワーマネジメントIC(PMIC)は、AC-DCやDC-DCコンバータを含む電源ICを指す言葉である。電源は今やあまりにも複雑になり、かつての5V単一、3/3.3V単一というシステムはもはや存在しない。電子システムの消費電力を下げるために回路ごとに電源電圧を最適化することによる。パワーオンEthernet(PoE)、スマート急速充電IC、デジタル電源、ノイズを抑えるPOL(point of load)、LEDドライバなど、PMICは多様な広がりを見せている。

ここでは、PMICの雄Linear Technology、Qualcommと共同で急速充電器を開発しているPower Integration、プログラマブル電源のExar、AlteraのSoC/FPGA向け電源、さらにLED用電源ともいうべきLEDドライバのDialog Semiconductor社の各製品を紹介する。

Linearはエネルギーハーベスティングからバッテリマネジメント、同期整流、PoEなど、さまざまな電源ICを製品化し続けている。それもモノリシックICだけではなく、受動部品までICパッケージに実装・封止したµモジュールなど、チップ製造の前工程からパッケージ後工程まで垂直統合で行う。前工程とはいえ微細なプロセスは全く使わないため、高価な設備投資はそれほど必要としない。

サーバーシステム用の電源は、最先端のプロセッサを使うため、1.0V前後と低電圧ながら消費電流が10Aを超えることもある。特にマイクロプロセッサやFPGAなどの微細化デバイスは、定格電流が大きいため、デバイスの近くに電源を置きノイズの発生を抑え、正常動作を確保する。同社のµモジュール製品は、デジタル的に制御するためのI2CやPMBusとのインタフェースや、設定条件をダイナミックに変えるためのEEPROMメモリなどを集積したICと、数十Aを出力するためのパワーMOSFETを1パッケージに集積している。LinearのLTM4676は、最大13Aの電流出力を二つ持ち、この2チャンネルを1チャンネルに束ねると26Aを出力する。さらに、LTM4676を4個接続して、最大出力100Aというデジタル電源を作ることができる。各ICチップの熱バランスを考慮した設計をしているためにこういった並列動作が可能になる。

Linearは、Ethernet上に電力を乗せて電源としても使えるPoE技術にも力を入れている。今回、Ethernetケーブルに乗せて送られてきた交流電力を整流するためのブリッジ回路において、従来のダイオードに代わり、パワーMOSFETを用いた。このことでダイオードの順方向電圧ロスはなくなり電力損失は小さくなる。MOSFETを使った同期整流コントローラLT4321は、ダイオードを使うブリッジでは1.1A流して1.72W消費したが、それよりも1ケタ近く小さく、0.15W程度の電力で済むことがわかった(図1)。


図1 パワーMOSFETを利用した同期整流はダイオード整流より消費電力が少ない 出典:Linear Technology

図1 パワーMOSFETを利用した同期整流はダイオード整流より消費電力が少ない 出典:Linear Technology


Power IntegrationはAC-DC用の電源で定評のある会社だが、このほどQualcommと共同で、従来の急速充電よりもさらに短時間でLiイオン電池を充電できるQualcomm Quick Charge 2.0仕様の電源用ICを開発した。電池容量3300mAHのスマートフォン用充電器で30分経過すると、従来の充電器だと10%、Quick Charge 1.0では30%、今回の2.0では60%充電されている。この技術は、既存のUSB充電器に比べ充電時間の短縮だけではなく、USB充電規格を利用でき、しかもQualcommのチップセットがサポートしている。充電用アクセサリはQualcommのエコシステムを通じて入手可能である。

開発した充電用IC、ChiPhyファミリーは、同社のAC-DCスイッチングレギュレータと一緒に充電器アダプタに実装する。一方、スマホ側には、Qualcommのチップセット(コプロセッサ)にプロトコル(図2のQuick Charge 2.0 Protocol)を内蔵しておく。図2のD+とD-のUSBデータラインを利用して、このコプロセッサがタイミングと電圧情報のプロトコルをアダプタ(図2の左)側に送出し、アダプタ内のChiPhyがそのデータに従って、昇圧した電圧を供給する。その調整した電圧をスマホに送る。このようにして、充電で送るべき電圧とそのタイミングが決まり、スマホは最適な充電電圧、時間で充電される。


図2 スマホの急速充電用のチップセット 出典:Power Integration

図2 スマホの急速充電用のチップセット 出典:Power Integration


アナログおよびミクストシグナル半導体メーカーのExarは、デジタル制御のパワーマネジメントIC、特に電源電圧やスイッチング周波数を変えられるプログラマブル電源の開発に力を入れている。デジタル制御が可能であるため、設定パラメータをEEPROMなどの不揮発性メモリにストアするだけで済む。このため、外部の受動部品の点数がアナログ方式よりも少ない。出力4チャンネルのPWM制御でアナログとデジタルを比較するとアナログ制御では148個必要だったが、デジタル制御ICのXRP7724では33個で済んだという(図3)。


図3 デジタルPWMの方がアナログPWMより回路部品を少なくできる 出典:Exar

図3 デジタルPWMの方がアナログPWMより回路部品を少なくできる 出典:Exar


Exarはユーザーが簡単にプログラムできるようにするため、設計しやすいLook-and-feel画面を持つツールPower Architect 5.0を用意している。量産中のXRP6670(可変周波数300kHz〜2.5MHz、3A)PWMステップダウンレギュレータに加え、25AのPOL電源として使えるステップダウンコンバータXRP6141を開発中だ。XRP6141は、0.6Vまで出力電圧を制御でき、2A/3Aのゲートドライバを内蔵している。COT(Constant On-Time)制御のOn-timeを150ns〜2µAの範囲でプログラム可能だとしている。さらに4出力のプログラマブル電源XRP7720も開発している。これはデジタルPWM(パルス幅変調)、デジタルPFM制御のバックコンバータで、106kHz〜1.2MHzでスイッチング周波数を変えられる。

PMICは、28nmといった微細で高性能なSoCやFPGA用には、デバイスの近くに配置させなければ、低電圧・大電流のスイッチング動作によって、ボード上の他の回路に供給される電流や電圧が大きく変化する恐れがある。半導体デバイスの周りにPMICをどのように配置して、デバイスの性能を最大限に引き出すか、この設計を容易にするためAlteraはリファレンスデザインをリリースした。これを使うと、SoCやFPGAとPMIC電源による低ノイズの電源を設計できるだけではなく、回路面積を最大50%、電力損失は最大35%減らすことができる。


図4 Alteraが提供する電源を含めたSoC/FPGAリファレンスボード

図4 Alteraが提供する電源を含めたSoC/FPGAリファレンスボード


AlteraはCyclone V SoCに加え、Stratix V GXおよびArria V GT、Cyclone V GXの各FPGA用のリファレンスボードも2013年中に提供する。

一口にLEDドライバと言っても様々な製品がある。Dialog Semiconductorは、低コストで調光なしの製品、調光機能を充実させた製品、寿命の短いAl電解コンデンサを排除した製品など、さまざまなLEDドライバを扱っている。

このほど、同社は、無線でデジタル調光できる製品iW6401とそのシリーズの基本となるプラットフォームsmarteXiteを発表した。このプラットフォームでは、無線通信と光センサーで明るさを制御できる。さらにデジタル調光のためのプロトコルLedotronや複数の調光インタフェースを基本として備えている。

今回の新製品iW6401には標準のI2Cインタフェースに加え、Bluetooth Smart、Wi-Fi、ZigBeeなどのワイヤレスモジュールのフロントエンドを集積している。iPhoneのアプリからBluetoothを使ってランプの明るさを調整することもできる。東京で開かれた記者会見では、リファレンスデザインのデモンストレーションを行った(図5)。このチップにも加熱防止用の保護回路は含んでいる。


図5 Dialogによる iW6401のデモ

図5 Dialogによる iW6401のデモ


照明用LED電球は、低コスト品であろうとも高温発熱による火災は禁物である。このため、定格の温度を超えないような制御回路を備えたチップを開発している。特に天井にはめ込むタイプのLED照明は、放熱が悪いため、接合温度Tjが許容値を超える恐れがある。そのような場合には、ディレーティングによって出力電流を落とすようにする。ディレーティングではなく、サーマルシャットダウンにすると照明が突然暗くなってしまう。LEDドライバがどのような設置場所に使われてもよいようにするため、このディレーティング手法を使うことになる。コストとの兼ね合いが今後の課題となりそうだ。

参考資料
1. 製品化相次ぐハードウエアのプログラマブルIC〜EuroAsia2013から(1) (2013/10/29)
2. 組み込みシステムになびくAMD/IPextreme/Mentor〜EuroAsia2013から(2) (2013/11/06)

(2013/12/17)

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.