トランプ政権は半導体や半導体製造装置に高関税賦課をするの?しないの?
米トランプ政権は、各国との相互関税を発表した際に、「半導体」については、「医薬品」とともに相互関税とは別に賦課することとし、相互関税の枠組みに入れずに(つまり当面は関税賦課なし)、国家安全保障の観点から実態調査のうえ、課税範囲や税率を近く発表すると記者団に語った。これに呼応して米商務省は、半導体(デバイスだけではなく原材料のベアウェーハも含む)とその応用製品と半導体製造装置(部材を含む)を対象に、これらを輸入に頼っていることが米国の国家安全保障にどの程度影響するかについてすでに4月1日に調査を開始していることを明らかにした。
商務省産業安全保障局(BIS)は、トランプ政権の指示で、4月14日(米国時間)、半導体、半導体製造装置、および半導体搭載電子機器(スマートフォン、パソコンなど)の米国輸入品への関税賦課計画を前進させるため、4月16日付け米連邦官報に「半導体および半導体製造装置の輸入」が米国の国家安全保障に与える影響を調査する公告を掲載すると発表した(図1参照)。商務省BISは、5月9日まで広く情報提供を求めるとともに関係者からの意見公募を行っている。
図1:「半導体および半導体製造装置に米国への輸入に関する、通商拡大法232条に基づく国家安全保障への影響についてのパブリックコメント募集」についての公告米国連邦官報2025年4月16日付記事のタイトル 出典:連邦官報電子版
米商務省BISがパブリックコメントとして求めている半導体や関連製品情報や意見には、次の14項目が含まれている;
- 半導体製品および半導体製造装置の種類別/技術ノード・サイズ別の米国での現状の需要と予測
- 米国内での生産能力が半導体や製造装置需要をどれだけ賄えるかの情報
- 米国企業の外国ファウンドリやOSAT(組立・テスト・パッケージング)への依存状況
- サプライチェーンが集中することによる供給リスク
- 外国の補助金や不公正貿易慣行の米国企業への影響
- 世界的な生産過剰や国家主導のダンピングよる米国の経済的損失
- 外国政府による輸出規制リスクや技術の軍事利用リスク
- 米国での生産能力拡張の実現可能性(特に半導体製造装置についての可能性)
- 現行の米国政府の政策(関税や数量割当)の効果と追加措置の必要性
- 米国でしか製造できない半導体製造装置
- 米国以外でしか製造されていない半導体製造装置(著者注:例えばリソグラフィ装置など)
- 米国では製造されていない半導体製造装置の部材や付帯設備(著者注:例えば中国のレアアースなど)
- 米国の半導体・製造装置関連の人材の海外とのギャップ
- その他の関連データおよび分析に関する情報
米国製と競業する海外製半導体(ウェーハやデバイス)や半導体製造装置と、米国では競合品が製造されていない外国企業の半導体や装置を明確に分離して課税するのではないかと思わせるような調査項目である。
今月1日に開始された商務省BIS調査は、通商拡大法232条に基づくもので数カ月間続く可能性がある。同法に基づき、商務長官は270日以内に調査結果を提出することが義務付けられているが、トランプ大統領は、可及的速やかに調査を完了することを求めている。しかし、商務長官は、分析に1カ月以上かかると言っている。
トランプ政権は今回の発表に先立ち、4月11日の通達で、ダイオード/トランジスタ、集積回路、半導体製造装置、携帯電話(スマートフォン)、コンピュータ(自動データ処理装置)、不揮発性メモリー、LED, 薄型ディスプレイなどの輸入品20品目に対する相互関税を適用除外とし、4月5日にさかのぼって、課税を取り消した。
半導体製造装置への課税は、海外半導体メーカーの米国半導体工場への設備投資拡大の妨げになりかねない懸念やApple iPhoneの大幅値上がりなどへの米国民の懸念へ配慮する狙いと見られていた。Appleなどの米国企業や日本の半導体製造装置メーカーにとって朗報と受け止められたが、ラトニック米商務長官は、米テレビ局のインタビューで「関税除外措置は一時的なものであって、近いうちに新たな半導体課税の対象になる」との見通しを示した。
トランプ大統領は、半導体デバイスや搭載電子機器や半導体製造装置が最終的に米国内で製造されるように高関税を賦課する方向で検討していることをすでに何度も明らかにしているトランプ氏は、補助金支給なしでTSMCに1000億ドルを米国に追加投資させた事例を自慢げに語っているが、最近になって、トランプ氏は、TSMCに米国に工場を建てて米国で製造しなければ、半導体輸入に100%もの高関税を賦課すると脅していた裏話を一部の米国メディアが伝えている。
一方で、トランプ大統領は、米国に巨額投資を行うことを決めた一部企業(AppleやNVIDIAやTSMCなどを指すものと思われるが具体名には言及していない)に対しては、話し合いに応じて適用除外や延期などの優遇措置を講ずるなど柔軟に対処することもありうると記者団に話しており、半導体関税が最終的にどのようなものになるか予測しがたい状況にある。米国内への巨額投資を決めた企業が米国での工場運営が整備されるまでの期間、関税適用除外する可能性があると見られている。
日本の多くのメディアは、トランプ大統領が4月14日の週に半導体への関税について発表すると伝えていたが、そうはならなかった。4月16日に公告されたパブリックコメントは、5月9日に締め切られるが、商務長官によれば半導体関税の発表は1〜2ヵ月後だという。米国政府の半導体関税が最終的に固まるまでにはもうしばらく時間がかかりそうである。その間に、予測しがたい方針変更が行われないとも限らない。日本含め米国外の半導体メーカーも半導体製造装置メーカーも半導体応用最終製品メーカーもトランプ大統領の日々変わりゆく言動に今後もしばらく翻弄されることになりそうである。
(なお、本稿は2025年4月21日時点の最新情報に基づいているが、事態はきわめて流動的であり、その後大きく変化する可能性がある。)
参考資料
1. “Notice of Request for Public Comments on Section 232 National Security Investigation of Imports of Semiconductors and Semiconductor Manufacturing Equipment”, 米国連邦官報、(2025/04/16)