Nvidiaトップのカルテックでの講演に見るJensen Huangの魅力
昨年、半導体企業で初めて時価総額1兆ドルを超え、今年は3兆ドルを超えMicrosoftを抜いて世界企業のトップに立ったNvidia。そのCEO(最高経営責任者)であるJensen Huang氏が6月はじめのComputex Taipeiから戻り、カリフォルニア工科大学で卒業生に向けスピーチを行った。その内容がこれまでの経営トップとは違う、Nividiaらしさが出ており、簡単に紹介する。

図1 米カルテックで講演するJensen Huang, Nvidia CEO
半導体企業として、時価総額において一時的だが、世界全企業のトップに立ったNvidia。金融関係を中心に、Nvidiaとは何だ?半導体とは何だ?ファブレスとは何だ?と急に一般にも注目を浴びるようになった。セミコンポータルでも6月24日の週間ニュース分析(参考資料1)で少し紹介したが、米国に戻りカリフォルニア工科大学(通称カルテック)で行った卒業生向けスピーチを見ると、Nvidiaという企業の特徴が浮かび上がってくる。
3月に開催されたNvidia主催のGTC(GPU Technology Conference)での基調講演でムーアの法則が緩くなっていると発言したことを問題視した記事もあったが、その真意についても語っている。Computex Taipeiでは、ムーアの法則ではなくデナードの法則と言い換え、その進展が緩くなってきたものの、コンピューティングパワーを求める需要はますます高まっている、と語り、微細化がもはや限界に近付いていることをしている。にもかかわらずコンピュータの能力をもっと上げよという要求が極めて強くなっているのである。この状態を、Huang氏はコンピューティングパワーのインフレが起きていると表現した。半導体の微細化傾向の飽和気味とコンピューティングパワーとのギャップがますます大きくなってきたという。
コンピューティング能力をもっと上げよという要求は、ディープラーニングを用いたAIや生成AIへの要求の高まりだけではない。デジタルツインのように現実と完全に瓜二つの写実的な絵(グラフィックス)とシミュレーションを可視化するレイトレーシング(Ray Tracing)技術もコンピュータの能力向上を加速している。
GPU(Graphics Processing Unit)はゲームで作成する絵をよりきれいに写実的に表すために必要なICとして誕生した。当初はゲーム機の絵をまるで映画のような写実的に表すことに注力していたが、GPUには積和演算器を多数集積しているため、コンピュータの数値演算を高速にする専用のアクセラレータとしても使ってきた。さらにAI(ディープラーニング)の分野にも使えることをAlexNetから学んだ。
AlexNetは2012年の画像認識アルゴリズムコンテストで、AI研究者のJeff Hinton氏とAlex Krizhevsky氏らがNvidiaのGPUとソフトウエアCUDAを用いたディープラーニングによる画像認識技術を発表、誤認識率がそれまでのアルゴリズムと比べ10%以上も削減し、コンテストで注目された。Huang CEOは、AlexNetがディープラーニング、すなわちAIのビッグバンだった、と表現した。
しかし、その後、GPUを大量に使わなければ、合理的な期間で学習できないことになってきた。特に生成AIが生まれてから、大量のGPUが求められるようになり、Nvidiaが注目されるようになった。Huang氏はカルテックの学生に向かって、「AlexNetの誕生から10年経って生成AIが生まれた。次の10年でディープラーニングは再発明されるだろう」、と若い学生を鼓舞した。
そして夏の暑い日に京都の苔寺を観光し、きれいな苔の庭園で苔の手入れをしている人を見つけ印象的だったことを話した。その人は竹のハサミを使ってダメになった苔を竹のかごに入れていた。彼こそ職人だと感じたという。カルテックの学生に対して、「皆さんが新しい機会を見つけ、(できれば)手に職を見つけるようにしていただきたい。そして自分の人生に優先順位を付け仕事を楽しんでください」と結んだ。
Nvidiaには社長室がない。Huang氏はその必要性を感じないからだという。社員ともフラットな関係であることを常に意識し、ある会議で次のように叫んだ。「この組織にはボス(上司)はいないんだ。このプロジェクト(あるいはミッション)がボスだ」。社員はチームを組んで一つのプロジェクトを任されているため、スピード感が日本企業の2〜3倍違うと日本法人のある社員はいう。ただし、そのプロジェクトが失敗しても個人の責任は問われない。Huang氏自身は創業して以来何度も失敗してきたと自身が語っているように、失敗が次の成功を導く重要な経験になることを知っているからだろう。
参考資料
1. 「ファブレス半導体トップのNvidia、時価総額で世界全企業のトップに立つ」、セミコンポータル、(2024/06/24)