トランジスタから回路、データセンターまで幅広く信頼性問題を議論したIRPS 2025
IEEE 2025 International Reliability Physics Symposium (IRPS 2025)が3月30日から4月3日に米国カリフォルニア州のモントレーで開催され(図1)、半導体デバイスの信頼性と性能向上に関する多岐にわたる研究が発表された。いくつか目についた講演を拾ってみる。
図1 IEEE 2025 International Reliability Physics Symposiumが開催されたカリフォルニア州モントレー
Keynoteでは、TSMC、Intel、Wolfspeed、Applied Materialsからのプレゼンテーションがあった。口頭発表ではGaNデバイスとMOSFETのGate/MOL絶縁膜についての発表が多く、次いで新規メモリ、BEOL信頼性、トランジスタ、回路、Neuromorphic、信頼性テスト、SiCデバイスなどの発表が多かった。
GaN、Siプロセス、デバイス、回路の信頼性
GaNデバイスのセッションでは、Schottky p-GaN Gate HEMTsにおいて温度とゲートバイアスが欠陥に与える影響を分析した研究などの発表があった。RTN(Random Telegraph Noise)解析により、欠陥の特徴とデバイス劣化のメカニズムを解明し、高温では欠陥が活性化し、低温では新しい欠陥が生成されることを見出している。(論文番号8A2)
新規メモリのセッションでは、データ保持に強誘電体膜を用いた3D NAND型メモリにおけるメモリウィンドウとデータ保持特性の改善に関する発表があった。データ保持用の強誘電体膜中に挿入した誘電体層の位置が特性を決定し、トンネル誘電体層(TDL)を使用したFE(ferroelectric)FETでは安定したデータ保持と広いメモリウィンドウが得られるとの報告があった。(同6B1)
BEOL(Back-End of Line)信頼性のセッションでは、非均一な電場がBEOL誘電体の局所的な欠陥生成に与える影響を解析する新しい3D TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)モデルの発表があった。LEFAM(Local Electric Field-Aware Model)と呼ばれるこの手法では、ラインエッジの粗さやビアの位置ずれなどの幾何学的変動を考慮することで、信頼性の高い予測が提供できる。(同6C3)
トランジスタの信頼性のセッションでは、機械的ストレスがIGZO薄膜トランジスタ(TFT)の性能と信頼性に与える影響を調べた研究結果の発表があった。この研究ではストレスにより、デバイスのしきい値電圧が正にシフトし、電子トラップが増加することが見出されている。3D DRAM技術の将来に向けたIGZO TFTの信頼性向上への応用が期待される。(同6A1)
回路を使った信頼性のセッションでは、28nm CMOS技術を用いた回路の信頼性を低温環境で評価した結果の発表があった。この研究ではリングオシレータを使って極低温でのBTI(Bias Temperature Instability)とHCD(Hot Carrier Degradation)の劣化を評価している。その結果、極低温の動作ではBTIとHCDによる劣化が抑制され回路の動作マージンが改善すると報告している。(同7B2)
回路を使った信頼性に関する研究では、上記の他にも極低温動作での信頼性に関する発表(同7B3)があり、関心の高さを伺うことができた。
データセンターでの信頼性も議論
この他、信頼性テストのセッションでは、データセンターなどでHPC(High Performance Computing)を支えるパワーデバイスの信頼性についての発表があった。ゲート酸化膜中の欠陥や過渡現象における電圧オーバーシュートなどを課題ととらえ、これらに関する信頼性問題をスクリーニングする手法について報告している。(同10A2)
また、システム信頼性のセッションでは、SDE(Silent Data Error: ユーザーが気づかないうちに起きているエラー)を、強化学習を用いて検知する手法についての発表があった。(同8C1) 両者の発表からデータセンターにおける信頼性に対する関心が高まっていることを感じた。
IRPS2025は、発表に対面とオンラインの両方でアクセスすることができるハイブリッドコンファレンスであり、参加登録をすれば、国際会議の終了後もしばらくの期間、発表内容にオンデマンドでアクセスできる。
また、IRPS2026は2026年3月22日から26日の期間に米国アリゾナ州ツーソンで開催される予定である。
参考資料
1. M. Millesimo, et al., ”RTN Analysis of Schottky p-GaN gate HEMTs Under Forward Gate Stress: Impact of Temperature”, 論文番号8A2, IRPS 20205, (April 2025)
2. P. Venkatesan, et al., “Enhanced Memory Performance in Ferroelectric NAND applications: The Role of Tunnel Dielectric position for Robust 10-year Retention”, 同6B1, IRPS 20205, (April 2025)
3. Y. Fang, et al., “Local Electric Field–Aware 3D TDDB model for BEOL reliability predictions”, 同6C3, IRPS 20205, (April 2025)
4. K. Vishwakarma, et al., “Impact of Mechanical Stress on IGZO TFTs: Enhancing PBTI Degradation”, 同6A1, IRPS 20205, (April 2025)
5. J. Diaz-Fortuny, et al., “Investigation of Cryogenic Aging in 28 nm CMOS: Suppression of BTI and HCD in Circuits and SRAM”, 同7B2、IRPS 20205, (April 2025)
6. T. Islam,et al., “Aging Characterization at Cryogenic Temperature with Synthesizable Odometers in 12nm and 28nm”, 同7B3、IRPS 20205, (April 2025)
7. “J.Hao, et al., “Enhancing Reliability of Power IC and Power Devices for AI Hardware: Addressing Gate Oxide Defects, Transient Voltage Overshoot, and BV DSS Instability”, 同10A2, IRPS 20205, (April 2025)
8. M. Shamsa, et al., “Improved Silent Data Error Detection through Test Optimization using Reinforcement Learning”, 同8C1, IRPS 20205, (April 2025)


