世界経済懸念の増す中、先端半導体開拓は不可欠の意気込み
半導体市場の各社業績、半導体および製造装置の売上げ予測について当面および先行きの下方修正の発表が大方を占めており、欧州はじめ世界経済の懸念がその主因となっている。鈍化、低迷の気分が増すなか、米国から最先端半導体技術の研究開発に向けた大規模な取り組みが発表され、向こう2世代および450-mmウェーハ向けのプロセス技術開発に重点が置かれるとのことである。先端技術の開拓は永遠、このような市場環境でこそ前向きな取り組みをという絶妙な打ち上げタイミングを感じている。
≪最先端を牽引する取り組み方≫
米国では国を挙げての科学技術に重点を置いた教育の必要性はもとより緊急性が、米国学術研究会議より次のように答申されている。
◇NRC report urges education in science and tech (9月26日付け EE Times)
→米国学術研究会議(NRC:National Research Council)が最近リリースしたレポート"Successful K-12 STEM(science, technology, engineering and mathematics) Education"発。今後の経済成長および雇用創出を主として引っ張るのは、大方は科学技術の進展からくるイノベーションである旨。
普段募る思いを新たにする内容であるが、直後に米国New York州知事、Cuomo氏から今回の最先端半導体技術への取り組みが、次の通り発表されている。上記の学術研究会議の答申にすぐさま呼応する風情を感じざるを得ないところである。
◇Intel, IBM to lead $4.4B chip R&D hub in NY (9月27日付け EE Times)
→New York州知事、Andrew M. Cuomo氏、火曜27日発。Intel社およびIBM社が率いる半導体メーカーグループが、5年にわたって$4.4B出資、次世代半導体技術を開発するためにNew Yorkに半導体R&D hubを作り出す旨。
該投資は次の2つのプロジェクトが中核となる旨。
・IBMとそのパートナーが率い、半導体の次の2世代構築に重点化
・Intelが率いるGlobal 450 Consortium、すなわち450-mmウェーハ向けプロセス技術開発に重点化
この44億ドルのうちIBMが投じる金額は36億ドルで、14-nmおよび22-nm製造技術に注力するとのこと(Wall Street Journal発)、New York州を次世代半導体技術の中心地にもっていこうというCuomo知事そしてIBMの意気込みのほどが伝わってくる。米Intel、米IBM、米GLOBALFOUNDRIES、台湾TSMC、韓国Samsungが今後5年間で44億ドルを出資するということで、一斉に次の取り上げ方、反応となっている。
◇Intel, GlobalFoundries, IBM, TSMC, Samsung create 450mm initiative (9月27日付け ElectroIQ)
◇Sematech 450 Program to Roll Into New Consortium (9月28日付け Semiconductor Manufacturing & Design)
→Sematech officials発。大きなシフト展開、Sematech ISMI 450プログラムが、昨日New York州知事、Andrew Cuomo氏が発表したGlobal 450 Consortiumの一部となる旨。
・450-mmウェーハ関係、2006年から現在までの推移:
⇒http://semimd.com/wp-content/uploads/2011/09/ISMItimeline470.jpg
◇Firms to Spend $4.4 Billion On New Chips in New York (9月28日付け THE WALL STREET JOURNAL)
◇Intel, 4 others launch $4.4B chip push in NY (9月28日付け Silicon Valley/San Jose Business Journal)
◇The first 450mm clubhouse (9月28日付け ElectroIQ)
最先端の科学技術の研究開発による雇用創出を、産官学の取り組みで引っ張る図式と理解しているが、開発センターがNew York州のAlbany、Canandaigua、Utica、East FishkillおよびYorktown Heightsに置かれる予定とのことである。我が国の取り組みとの連携が求められると感じるとともに、世界経済の先行き不安が取り沙汰されるなかだけに余計に"グローバルな協調"の重みをますます知らされるところがある。
≪市場実態PickUp≫
Embedded Systems Conference(ESC) Boston(9月26-29日:Hynes Convention Center)から、医療健康への一層の注目の色合いを感じる以下の内容である。
【Embedded Systems Conference(ESC) Boston】
◇ESC keynoter wants to revolutionize medical devices (9月28日付け EE Times)
→Massachusetts Institute of Technology(MIT)電気工学LeBel Professor、Charles G. Sodini氏の基調講演。1980年代のトランジスタそして2010年代のスマートフォンと同様な技術ロードマップに対するインパクトを、2020年までに医療デバイスが生じている旨。
◇Freescale increases pulse of healthcare apps(9月28日付け EE Times)
→Freescale Semiconductorが、消費者健康市場に向けたreference設計およびサポートツールofferingsを拡大の旨。
世界経済の鈍化基調を受けて、来年の半導体設備投資意欲への影響が次のように予測されている。
【半導体設備投資予測】
◇Gartner: IC capex to decline 19% in 2012 (9月30日付け EE Times)
→Gartner社(Stamford, Conn.)発。2012年の世界半導体capital equipment spendingが約$35.2B、2011年見通しの総計$43.5Bから19.2%減少すると見る旨。マクロ経済鈍化から過剰在庫およびspending需要低迷を予想している旨。
・世界半導体capital equipment spendingの推移&予測:2009-2015年
⇒http://eetimes.com/ContentEETimes/Images/Dylan/110930_gartner_cap_spend.jpg
書籍販売など引っ張るアマゾンから、随分安価な多機能携帯端末が発表されている。本体よりもコンテンツサービス利用による収益を見込む戦略、当面は米国のみの販売ということで、ますます入り組んでくる現在最もホットな市場の様相である。
【AmazonのKindle Fire】
◇米アマゾンが多機能新端末、199ドル、アップルに対抗−カラー液晶「キンドル・ファイア」 (9月29日付け 日経 電子版)
→インターネット小売り最大手の米アマゾン・ドット・コムが28日、「タブレット」などと呼ばれる多機能携帯端末に参入すると発表、7型カラー液晶画面の「キンドル・ファイア」、価格は199ドル(約1万5000円)とアップルの「iPad2」より6割以上安い水準設定の旨。本体価格を手ごろにする一方、電子書籍や音楽、映画などコンテンツの販売でも利益を確保する方針の旨。11月15日に米国で出荷開始、米国以外での販売計画は明らかにしていない旨。
◇Kindle Fire profitable at estimated $150 BoM (9月28日付け EE Times)
→UBM TechInsightsの評価。Amazonの新タブレット、Kindle Fireのbill of materials(BoM)は$150の見定め、ハードウェア販売の利益はApple iPadおよびRIM Playbookの1/3から1/4になりそうな旨。
◇Many may get burned by Kindle Fire (9月28日付け EE Times)
→AmazonのKindle Fireは、Appleが席巻するタブレット市場およびcellularキャリアがリードするサービス市場に好ましい競合をもたらす旨。新モバイル市場に食い込もうとする台湾の多くのシステムbuildersにはopportunitiesが弱められる可能性もある旨。
タブレット、スマートフォン市場とultrabookはじめ控えるPC市場が今後どう伸びていくか、当面の市場の最大の注目となろうが、PC最大の御大、HP社からは揺れるスタンスが伝わってきている。
【揺れるHPのスタンス】
◇HP's PC Spinoff Plan Still Up in the Air (9月27日付け Taiwan Economic News)
→PCサプライヤ世界最大手、Hewlett-Packard Co.(HP)が、PCユニットをスピンオフするという計画を8月中旬発表、世界を驚かせ、ハードウェアパートナーおよびディストリビュータを業界の今後および自分たちの位置づけについて不安に陥れている旨。しかしながら最近、HPのchairman、Ray Lane氏が該スピンオフ計画はまだ最終決定されていないことを確認の旨。
≪グローバル雑学王−169≫
長年にわたる論議を経て米国の特許改革法案がやっとの成立に向かっているが、世界を大きく変革させた発明と特許を巡る実態、経緯のドラマを、
『世界を変えた発明と特許』 (石井 正 著:ちくま新書)
…2011年 4月10日 第一刷 発行
より辿っていく。まずは、ワットの蒸気機関についてであるが、基本特許、派生特許、類似特許、対抗特許と、小生も主として1970年、1980年代に半導体の世界の渦中にあった一人として、以下の激しく生々しい攻防はぐっと迫るものを感じるところがある。
≪まえがき≫
・近代特許制度は、1474年、ヴェネツィアで成文特許法が制定されたのがスタート
→19世紀後半にはヨーロッパ全体にまで拡大
・特許制度の弊害も
→実際、オランダは19世紀末に特許制度を廃止
・世界を変えるような大発明、すなわちパイオニア発明
→どのように特許で守られるべきかが問題に
・特許権は逆に技術進歩を停滞させるほどの強さも
→ライト兄弟の飛行機基本特許の例
→全米航空諮問委員会が中心に、飛行機関連特許を集めて一括管理
…特許権一括管理方式 −パテント・プール
・技術と法の世界が交差するフィールドにおけるドラマを以下見ていく
第1章 ワットの功罪−−−強すぎた蒸気機関特許
□特許権侵害訴訟に疲れ果てたワット
・蒸気機関の発明者、James Watt(1736〜1819)
→ワット型蒸気機関の製造を一手に、膨大な収益を手に
・ワットの生涯、蒸気機関の発明から製造まで、苦労の連続
→大半は成功につながる経験
→ただ一つ、嫌な思い出 ⇒特許権侵害訴訟
・ソウホウの蒸気機関製造業者たちが議会に特許制度廃止を請願する運動の事態
□ワットにも問題はあった
・発明の内容を文章にした書類一式を関係当局に提出する前に、弁護士に確認
→普通の職人や技術者ではまず理解することは困難なように腐心、発明をごく簡単に説明
→これが裏目、なぜこんな理解困難な文書を提出してしまったのか、ワットはひどく悔いることに
□明細書を読めば、その発明を実施できるか
・裁判所の判事は、最終的にはワットの特許を有効であると判断
→明細書をしっかり記述しないことは制度の趣旨に反すると、判事は明確に宣言
・新しい原理的解決を思いついた発明者
→普通の発明以上の保護が与えられるべきではないかという信念がワットに
□ニューコメンによる蒸気機関発明が基本にあった
・ワットの蒸気機関の発明のおよそ60年前に、蒸気機関の基本型
→Thomas Newcomen(1664〜1729)による発明
→ワットの発明はこのニューコメン蒸気機関を改良したもの
→ニューコメン蒸気機関は熱効率が良くなく、それを大きく改良
□しかし特許では失敗したニューコメン
・ニューコメン蒸気機関は、特許権侵害であるという非難にさらされる
・まず、Thomas Savery(1650頃〜1715)が自分の特許権を侵害と非難
・Saveryの蒸気機関
→タンクの中に蒸気を導いて、真空にして水を引き込む
→制限があり、池の噴水に利用するのがせいぜい
□権利範囲が広すぎたセイヴァリの蒸気機関特許
・Savery特許 …1698年に特許化
→あらゆる蒸気を利用した揚水機が特許の対象に
→問題となったSaveryの発明の特許権の範囲
→18世紀の末の頃、明細書に示された内容が基準というルールが確立へ
□ニューコメン機関の欠陥を見出したワット
・ニューコメン蒸気機関の分析の過程で、ワットの思いつき
→1769年、ワットは特許出願、同年特許を得る
→1775年、製造に成功
→節約された石炭の3分の1を特許権使用料としてワットは徴収
□成功の鍵となった「ジョイント・ベンチャー」
・ワットの発明のポイント
→シリンダーは冷却しないことで全体の熱効率を高める
→ニューコメン蒸気機関の欠点を詳細に分析、目的を熱効率の改善に絞る
・ワットは自分自身でやれること、やれないことをしっかりと考え、できないことは能力のある人を探して、協力
→ジョイント・ベンチャーというやり方がワットの成功に
□英国の蒸気機関の技術進歩を止めたワットの特許権
・ワットの分離型蒸気凝縮器発明を使用した蒸気機関
→ボールトン・ワット商会のみの製作にこだわる
→ワット特許権を他の誰にも使用許可せず
・ワットの特許権が存在した31年間、英国の蒸気機関の技術進歩は停止したとの批判
→特許権の期間には一定の制限が必要という認識が広がる
□発明をどこまで開示するのか
・1611年、英国の製鉄業者、スタートバンが最初の明細書を提出
・1711年から1734年までの24年間における特許
→およそ20%が明細書を提出
・現代における条件
→発明の内容は詳細に明細書に記述
→他人がその明細書を読んで、その発明を実施できる程度にきちんと説明