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2008年がFPDの大分岐点となる−その2:新しい局面に突入するLCDとPDP−

2007年秋から年末にかけてFPD(注1)を取り巻く状況が急速に動き始め、一つの大きな潮流が見え始めた。この機会に筆者なりの見方を二回に分けてまとめてみた。今回がその二回目である。

PDP(プラズマディスプレイパネル)に関しては松下電器産業が世界最大のシェアを確保しており、この構図は今後も変わりそうもない。しかし、松下電器産業にとっての最大のライバルはPDPの同業他社ではなくLCD(液晶ディスプレイ)メーカーである。これまでは大型FPDはPDPであることは誰しもが認めていたが、大型FPD分野にもLCDがどんどん進出を始めた。

2007年10月に開催された国内の展示会で松下電器産業は世界最大の103型PDPテレビを展示していたが、参考出品ながらシャープの108型LCDテレビの前には色あせて見えた。さらにフルHDテレビ対応では42型がPDPでの一番小さいサイズであるが、LCDでは22型まで商品化されており、小型化や微細化ではLCDに軍配が上がる。これに危機感をいだいた松下電器産業は世界最大の4K2K(注2)対応150型PDPパネルを開発し、2008年1月に米国ラスベガスで開催された国際家電展示会CES(注3)で公開した。2008年度中に商品化するという。

日立製作所の100%子会社で中小型LCDを製造する日立ディスプレイズにキヤノンと松下電器産業が出資し、日立製作所に代わってキヤノンが傘下に収める方向で動き出した。さらに日立ディスプレイズが50%、松下電器産業が30%、東芝が15%を出資している大型LCD製造会社IPSアルファテクノロジに対しては松下電器産業が傘下に収め、東芝はシャープとの提携に伴いこのIPSグループから離脱する方向で話が進められている。結果として日立製作所はLCDパネルの製造からは事実上手を引く格好になる。

IPSアルファテクノロジの経営権を握ることになる松下電器産業は、総投資額3000億円規模の第7〜8世代LCD工場を兵庫県姫路市に建設し2009年度中に稼働を目指すという。松下電器産業は2007年11月に2800億円をかけて尼崎にPDP第5工場の建設に着手したばかりである。つまり、松下電器産業は40型以上の大型パネルをPDP、それ以下はLCDにするというPDPとLCDの二本立てで走る決意を固めたと思われる。

こう見てくるとLCDはPDPとの戦いを有利に進めているように見えるが、LCDの未来は本当にバラ色か?LCDの抱えていた大きな問題は視野角が狭いことと、応答速度の遅いことであったが、現在では視野角も広がり、応答速度も120Hzの倍速や180Hzの3倍速も実現された。一方、2007年秋の展示会で紹介された新しい技術展示としては、タッチパネル機能内蔵のLCDパネルや有機ELを意識した液晶パネルの超薄型化ぐらいであった。どちらの技術も必要ではあるがLCDにとって本質的な中心技術ではなく、革新的なブレークスルーとは思えない。LCD技術もそろそろ頭打ちになってきた感じを受ける。そうなれば先行者に対して追従者のキャッチアップがますます容易になってくる。

LCDにもクリステンセンが言う「イノベーションのジレンマ」(注4)に陥る危険性が迫っていると思われる。つまり技術進歩のペースが市場需要のペースを上回ると、市場や顧客が必要としている以上の技術をメーカーが提供していることになり、少々技術的に劣っていても顧客のニーズに合った安価な製品が市場に受け入れられ、先頭を行く技術的に優れた企業は大きな打撃を受けることになる。

以上のことから、2008年に見えてくるFPDを取り巻く状況をまとめてみると次のようになる。
(1)有機ELが第三のディスプレイとして存在感を示し始める。
(2)PDPとLCDの競争では、LCDの有利な状況が一層ハッキリしてくる。
(3)一方で、LCDの技術優位性が市場のニーズを上回り、技術的に優位でなくても安価な製品が市場に受け入れやすくなる。すなわち、「イノベーションのジレンマ」が顕著に表面化する。
(4)従来の横並びからそれぞれの企業に適した戦略的な事業再構築が急速に進み、同時にFPD製造プレーヤーが絞られてくる。


注1 FPD(Flat Panel Display):薄型平面ディスプレイの総称

注2 4K2K: フルHD(1,920×1,080画素)よりも画素数が多い、4,096×2,160画素

注3 CES(Consumer Electronics Show):全米家電協会CEA(Consumer Electronics Association)が開催する世界最大級の国際家電展示会

注4 クレイトン・クリステンセン著、玉田俊平太監修、伊豆原弓訳「イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」翔泳社、2001.


光和技術研究所
代表取締役社長
禿 節史(かむろ せつふみ)

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