セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

半導体産業における「風を読む」VI〜2011年MPU、DRAM、NAND メモリの数量動向

|

第六回目の「風を読む」は、「MPU 、DRAM、 NAND フラッシュメモリの数量」動向についてである。 半導体市場動向を分析する場合、一般的には金額ベースで議論されるが、半導体市場金額はΣ半導体各製品別数量x半導体各製品別単価で表される。数量、単価のそれぞれの動向について分析することにより、市場動向に対する変化の要因をより一層深く理解することができる。例えば半導体市場金額が上昇した場合、その要因は数量が増加したためなのか、単価が上昇したためなのかを把握できる。

図1 MPU数量動向

図1 MPU数量動向
WSTS会員外に半導体の製品別に関する具体的な数量などのデータをWSTSは開示していないためY軸の単位を任意とした。また、上記数式Aにおけるα、βの具体的数値を掲載していない。WSTS会員の方はWSTSデータを参照願います。


MPU数量動向を示す指標として前年比(成長率)が考えられるが、前年比(成長率)は分母、分子が毎年互いに変化するため、MPU数量が持つ数値的特性を見過ごす恐れがある。図1はMPUの数量を絶対値ベースで2004〜2012年の9年間に渡り図示化したものである。

図1からMPU数量は毎年ほぼ一定の数量が増加していることを理解でき、MPU数量のガイドラインは下記Inoue Formulaのように一次方程式として示される。

Inoue Formula   MPU数量 = α x ( 該当年 – 2004年) + β  (数式A)

αとしては 2004年と2005年とのMPU数量実績値の差、β=2004年のMPU数量実績値を採用する。この数式Aにおけるαの値を2004年と2005年とのMPU数量実績値の差としたのは、計算を容易にするためであり、より一層の近似性を示すαの値を数学的に求めることは可能である。


図2 DRAMとMPUとの相関関係

図2 DRAMとMPUとの相関関係


図2は、当該年のMPU数量に対する当該年のDRAM数量の比DRAM/MPU ratioを2004〜2012年の9年間に渡り、図示化したものである。この図から、2007年1月に市場投入されたWindows VISTAと2009年10月に市場投入されたWindows 7とで DRAM数量の市場動向に差異のあったことを理解できる。Windows VISTAが市場投入された際DRAM/MPU ratioは一気に増加するが、Windows 7が市場投入された際には特に変化が現れていない。このような差異がなぜ生まれたのかを下記に考察する。

表1にパソコンのOSとして主に搭載されているWindows OSにおける2000年以降のバージョン, システム要件としての推奨DRAM容量、推奨プロセッサの動作周波数を示したものである。従来、パソコンのOSが世代交代するたびにOSに対する推奨DRAM容量が増加し、これに伴いDRAM市場は成長を遂げてきた。


表1 パソコンのWindows OS と 動作環境

表1 パソコンのWindows OS と 動作環境


DRAM 1個当たりの容量は、微細化と共に表2に示すように、128Mビット ⇒ 256Mビット ⇒ 512Mビット ⇒ 1Gビット ⇒ 2Gビット と増大しており、各年において主流となるDRAMを中心にして多品種のDRAMが市場投入されている。


表2 各年において主流となっていたDRAM容量(○印にて示す)

表2 各年において主流となっていたDRAM容量(○印にて示す)


表1に示されるように、一般的にはWindows OSの世代交代ごとに推奨DRAM容量が2倍ずつ増加し、またこのOSの世代交代時期に合わせ、微細化によりDRAM 1個当たりの容量が2倍になればDRAM/MPU ratioは一定となる。 2006年から2007年DRAM/MPU ratioが上昇した要因はWindows VISTA導入時にWindows XPと比較すると推奨DRAM容量が一気に4〜8倍にも上昇したためである。即ち、Windows OSの推奨DRAM容量がDRAM数量の需要に大きく影響を与えており、Windows OSのシステム要件をより早く、正確に知ることが DRAM数量を予測する上で重要であることが理解できる。

従来 DRAMの需要先として パソコンとサーバ向けなどが中心であり、最近携帯情報端末機器としてのスマートフォン、タブレットPC向けの新しいDRAM市場が新しく創造されたのにも関わらず、図2においてDRAM/MPU ratioを2011年以降もほぼ2010年と同等としているのは、搭載されるDRAM容量はパソコンに比較すると小さいからである。表3に示すようにスマートフォン、タブレットPCは製品を小さく、薄くしなければならず、DRAM容量が小さい。また少しでも消費電力を削らなければならないため、一般的なPCに搭載されているDDR3ではなく消費電力の少ないMobile RAMが搭載されているが、DRAMのダイサイズは、PC用DDR3 < Mobile DDR1 < Mobile DDR2 となっており、携帯機器ではDRAM容量を小さくせざるをえない。

加えて、韓国Samsungが2011年3月より携帯情報端末機器向け30nmクラスの4GビットMobile DRAM (DDR2) の量産を開始し、搭載容量が1GBであれば2個で済むことなどもあり、数量的な市場の底上げ効果は小さいと理解している。


表3 スマートフォンとタブレット PCの搭載メモリ容量

表3 スマートフォンとタブレット PCの搭載メモリ容量


2011年のDRAM数量はDRAM/MPU ratioが2010年と同等レベルであると想定すると2011年のDRAM数量のガイドラインは下記Inoue Formulaのようになる。

Inoue Formula 
2011年DRAM数量 = 2010年DRAM/MPU ratio x 2011年のMPU数量      (数式B)
(2011年のMPU数量については 数式Aを参照)


図3 NAND フラッシュメモリとMPUとの相関関係

図3 NAND フラッシュメモリとMPUとの相関関係


図3は、分子に当該年のNAND フラッシュメモリ数量をとり、分母に当該年のMPU数量として算出した数値NAND フラッシュメモリ/MPU ratio と、分子に当該年のDRAM数量、分母に当該年のNAND フラッシュメモリ数量として算出した数値 DRAM/NAND フラッシュメモリ ratioを2004〜2012年の9年間に渡り図示化したものである。 

NAND フラッシュメモリ数量をMPU数量で割った NAND フラッシュメモリ/MPU ratioは MPU数量と同様 下記Inoue Formula数式Cで示した一次方程式で示される。
 
Inoue Formula 
NAND フラッシュメモリ/MPU ratio = α x (該当年 – 2004年) + β            (数式C)

定数α、βに対する論理的な算出は現状できていないが、経験則として「α= 1.35、β= 2.21」を採用する。 

NAND フラッシュメモリ数量がMPU数量と相関関係を持つのは、MPUを中核デバイスとして使うパソコンと密接な関係があるからだ。NAND フラッシュメモリの需要先であるUSB フラッシュメモリDrive, Solid State Drive(SSD)などはパソコンのデータ処理作業完了後、データ保存として使用され、デジタルカメラやビデオカメラに使用されているSDカード(含むSDHC、SDXCなど) も画像の閲覧や編集、さらにはMP3プレイヤーの音楽、画像の編集、保存にパソコン(MPU)が使用されている。

2011年のNAND フラッシュメモリ数量のガイドラインは、下記Inoue Formulaで知ることができる。

Inoue Formula
2011年NANDフラッシュメモリ数量 = 2011年NANDフラッシュメモリ/MPU ratio x 2011年MPU数量   (数式D)

2011年NAND フラッシュメモリ/MPU ratioについては 数式C, 2011年のMPU数量については数式Aを参照のこと。

図3に示すDRAM/NAND フラッシュメモリratioにて減少傾向の要因は、DRAMとNANDフラッシュメモリが 同じメモリでありながら、その目的が大きく異なるからである。DRAMはデータ処理過程における一時的な作業データの保存を目的とし、データ処理作業完了後はそのデータを消去するため、継続的あるいは累積的なデータ保存の必要性が生まれず、DRAM需要は限定的である。

一方、NAND フラッシュメモリは、データ処理作業完了後のデータを保存するため累積的にデータ保存の必要性があり、継続的にNANDフラッシュメモリ需要が生まれる。また、DRAMは、ほとんどがパソコンやスマートフォンなど最終製品に組み込まれ、市場に流通されるが、NAND フラッシュメモリは最終製品に組み込まれたものとは別にUSBフラッシュメモリやSDカードのように最終製品に組み込まれずに、NANDフラッシュメモリ単体でも製品として市場に流通していることも数量需要を成長させる要因となっている。

しかしながらスマートフォンでは、現在アプリケーションプロセッサとしてインテルを中心としたMPUではなく、ARM系CPUコアを含むSOCが採用されている。スマートフォンがより一層市場に浸透するのに伴い、NAND フラッシュメモリ/MPU ratioは今後、上記一次方程式(数式C)から乖離することが想定される。この点については今後、実績数値の比較、分析しながら必要によりパラメータを補正する予定である。

今回、DRAMとNAND フラッシュメモリの全体数量に対する数学的特性、相関関係の紹介であり、「1Gビット 以上の容量を持つDRAM、および32Gビット以上の容量を持つNAND フラッシュメモリなど先端メモリ製品に対する数量動向については?」、あるいは「DRAMおよびNAND フラッシュメモリに対するビット出荷動向については?」という関心を当然持たれていると思うが、これらの点についても今後述べてゆく予定である。

井上 文雄 アナリスト

参考資料
1. 世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics-WSTS) ホームページ
2. 半導体産業における「風を読む」V〜2011年半導体ファブの生産能力
3. 半導体産業における「風を読む」IV〜2011年のシリコンウェーハ出荷面積の動向
4. 半導体産業における「風を読む」III〜半導体製造装置市場動向
5. 半導体産業における「風を読む」II〜GDPと半導体市場との相関関係から導く
6. 半導体産業における「風を読む」I

月別アーカイブ