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半導体産業における「風を読む」III〜半導体製造装置市場動向

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半導体産業における「風を読む」 第三回目は、半導体製造装置市場動向についてである。 第一回目で、半導体市場と粗鋼生産市場との相関関係、第二回目で半導体市場とGDP(国内総生産)との相関関係を紹介したが、今回はGDPと半導体製造装置全体の市場との相関関係、およびこれらのデータを利用した1〜2年先の半導体製造装置市場に対する予測手法、さらに半導体市場と半導体製造装置との数学的相関関係を紹介する。

図1 変換したGDPと半導体製造装置市場/(SPT-Total)との動向比較

図1 変換したGDPと半導体製造装置市場/(SPT-Total)との動向比較


図1は GDPについて、第二回の表1に示した「当年GDP変換値=当年GDP-前年GDP」とGDP数値を変換した後の数値と半導体製造装置市場(前工程と後工程を含む半導体製造装置の全装置を含めた市場)の前年比(成長率)を2003〜2012年の10年間に渡り図示化したものである。半導体市場と同様、GDPを数値変換することによりGDPと半導体製造装置市場の数値が同じ方向の風の中で変化している様子を理解できる。
 
半導体製造装置市場の成長率に対する一年先の予測値ガイドラインは、半導体市場と同じように下記の数式Inoue Formulaで知ることができる。 具体例としてIMFの最新データである2010年10月版を使用し2011年を対象とすると、2011年半導体製造装置市場の成長率ガイドライン(Inoue Formula)は次式のようになる。 

Inoue Formula= α x (–0.6% 〔変換後GDP〕 + β) = 1.0% 

-0.6% 〔変換後GDP〕は第二回の表2を参照し、定数α、βは現状、半導体市場と同様、論理的な算出はできていないが、経験則として「α=15, β=10/15 (≒0.67) %」を採用する。

即ち、半導体市場と同じようにGDP数値を使用することにより、一年先における半導体製造装置市場の変化を半導体市場と同じように目で見える形にすることを可能とし、「風の流れ」の方向と強さを知ることができるのである。


図2 Inoue Formulaにてパラメータ変換したGDPと半導体製造装置市場との動向比較

図2 Inoue Formulaにてパラメータ変換したGDPと半導体製造装置市場との動向比較


図2は、上記計算式をより一層理解してもらうため、前回の半導体市場と同様、GDP変換値に定数βに加えたInoue Formulaにて数値補正し、図示化した手法を半導体製造装置に適用したものである。 図2より、経済指標であるGDPと半導体製造装置市場があるパラメータを介することにより、相関関係を持って連動している様子をより一層鮮明に知ることができる。

ただし、本手法で忘れてならない点として、前回半導体市場とGDPとの相関関係で述べたのと同じように以下の二つがある。一つは、上記算出手法で把握できるのは、ガイドラインであって最終数値ではないということである。求めようとする数値レベルがガイドラインレベルであれば、上記手法により得られる数値で問題はないが、より高い精度を持った予測数値を求める場合には、第一回にて予測手法の比喩として使った、洋菓子の一つミルフィーユを作るように半導体市場、半導体製造装置の種々の要素に対する思考を重ねることにより数値補正を行わねばならない。


図3 半導体製造装置市場における四半期ベースと年ベースとの比較

図3 半導体製造装置市場における四半期ベースと年ベースとの比較


二つ目として、図3に示すように上記ガイドライン数値は、暦年ベースの年間平均値であり、四半期ベースで前年同期比を見た場合にはピークとボトムがあり、その数値に差がある。 この数値の差がそれぞれの四半期において同じ年であっても異なる市場観を生みだし、暦年と年度での年間予測数値に対し、差異を発生する要因にもなる。 具体例として、半導体製造装置市場の2009年の暦年、年間ベースでの前年比は「マイナス成長」であり、四半期ベースで2009年Q1〜Q3も前年同期比は「マイナス成長」であるが 2009年Q4は「プラス成長」と 風の流れる方向が逆になっている。


図4 半導体市場と半導体製造装置市場との動向比較

図4 半導体市場と半導体製造装置市場との動向比較


図4は半導体市場と半導体製造装置の前年比(成長率)を2003〜2012年(暦年)の10年間に渡り図示化したものである。半導体市場と半導体製造装置が1:2の相関関係を持ったような連動性を想像させるものの、 そのデータを利用し、互いの相関関係を理解するのは難しい。

半導体市場と半導体製造装置(全装置)との数式としての連動性は 下記の数式Inoue Formulaで知ることができる。
第二回において、半導体市場の成長率ガイドラインは次式で示されることを紹介している。
半導体市場の成長率ガイドライン = 5 x (変換後GDP + 2 ) ----- 数式A

上記にて半導体製造装置の成長率ガイドラインは次式で示される。
半導体製造装置市場の成長率ガイドライン = 15 x (変換後GDP + 10/15 (≒0.67) ) ---- 数式 B

数式AとB から、変換後GDPを介し半導体市場と半導体製造装置市場の相関関係を数式として求めると 次式になる。
半導体製造装置市場の成長率 = 3 x (半導体市場の成長率 – 20/3 (≒7) ) --- 数式C


図5 Inoue Formula(数式C)にてパラメータ変換した半導体市場と半導体製造装置との年間ベース動向比較

図5 Inoue Formula(数式C)にてパラメータ変換した半導体市場と半導体製造装置との年間ベース動向比較


図5は、上記数式Cをより一層理解してもらうため、半導体市場と半導体製造装置を数式Cのパラメータを介し図示化したものであり、本図より相関関係を持って連動している様子をより一層鮮明に知ることができる。 

なお、上記数式,A, B, Cは一次方程式であるが、それぞれの相関関係にて、より一層の近似性を求めるのであれば、一次方程式ではなく、二次方程式、三次方程式と多次元化することにより数学的には可能である。

一方で現在、半導体の設備投資金額において韓国Samsung、台湾TSMC、米国Intelの3社の和が全体の2/3をも占めており、この3社による半導体製造装置市場への影響力が大きいため、本数式とは別にこれら3社の設備投資金額の動向を確認する必要がある。


図6 Inoue Formula (数式C) にてパラメータ変換した半導体市場と半導体製造装置との四半期ベース動向比較

図6 Inoue Formula (数式C) にてパラメータ変換した半導体市場と半導体製造装置との四半期ベース動向比較


半導体産業における成長率を考察する時、年平均値では2010年のように四半期ベースでのピークとボトムに大きく差がある場合にあまり意味を持たないものとなる。これゆえ、上記数式Cが四半期ベースであっても適用可能かどうかを確認する必要がある。 図6は、図5と同じ内容を数式Cのパラメータを介し、2008〜2010年の3年間、12四半期を図示化したものであり、 本図より数式Cが四半期ベースの動向比較に対してもでも適応可能と考える。

また、2010年Q2〜Q4において半導体製造装置市場は半導体市場「(または数式Cにより算出された半導体製造装置市場)」と比較して、相対的に高い成長率を示している。この半導体製造装置において高い成長率を生んだ大きな要因は、毎年大型設備投資を実施している韓国Samsungと台湾TSMCが2010年には2009年比2倍以上の設備投資を行ったことによる影響が大きい。現状、両社とIntelを併せた3社に対する2011年設備投資金額の正式発表はなく、2011年1月の決算発表を待たねばならないが、2010年と同程度の大型設備投資を期待したい。 

次回第四回は、現在タブレットPCとスマートフォンと多機能携帯端末の新製品が各社より次々と市場投入され話題となっているが、タブレットPCとスマートフォンが急成長する背景を分析する。この分析により、タブレットPCとスマートフォンの次にどのような多機能携帯端末の新製品が今後投入されるのかを模索する足がかりとしたい。

参考資料
1. 国際通貨基金(International Monetary Fund-IMF) ホームページ
2. 世界銀行(World Bank) ホームページ
3. 世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics-WSTS) ホームページ
4. 国際半導体製造装置材料協会(Semiconductor Equipment and Materials International-SEMI) ホームページ
5. 半導体産業における「風を読む」II〜GDPと半導体市場との相関関係から導く
6. 半導体産業における「風を読む」I

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