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中国勢恐るべし!清華紫光集団がねらうNAND逆転の秘策

去る8月22日に東京で開催されたセミコンダクタポータル主催「2018年後半からの1年を津田編集長と議論しよう」セミナー(参考資料1)に出席して、いくつかコメントを述べた。1年前にもこの催しに参加したが、その際は多くの参加者が「今後の半導体産業の先行きが読めない」ことに悩み、「半導体産業の先行指標になるようなものはないか?」との質問や意見が相次いだ。それは国民総生産(GDP)だと多くの人が信じ、なかにはTSMCの業績を基に予測しているという人もいた。

その時の私のコメントは、後日、本ブログに再録したが(参考資料23)、一口で言えば、先行指標は、大口顧客のメモリ契約価格(数ヵ月先の取引価格)で、その上昇ぶりで半導体産業の先行きが読めるというものだった。今回は、逆にメモリ価格の下落が先行指標となるだろう。ただし、メモリ価格が下落しても、それによって需要が喚起されれば、スマートフォンにもPC にもデータセンターのサーバにもその他の電子機器にもメモリがもっと搭載されるようになり、半導体利用の底辺が広がるから価格低下は長い目で見れば悪いことばかりではない。この辺の事情は、津田編集長が本欄で繰り返し述べているので、重複を避けて、今回は、セミナーでもう一つの話題となった中国事情について取り上げることにしよう。

中国勢が世界最高速NANDを実現するための技術を発表

韓国政府は「韓国勢が圧倒的なシェアを誇る半導体メモリ分野で、国策で激しく追い上げてくる中国勢との技術格差が縮まり、いずれシェアを奪われてしまうのではないか」と危機感を持っていることを7月に紹介したが(参考資料4)、その危機感をさらにあおるような「事件」が起きた。

中国清華紫光集団傘下の新興NAND型フラッシュメモリメーカーであるYangtze Memory Technologies(略称YMTC、中国での正式名称:長江存儲科技、所在地;湖北省武漢市)は、3D-NANDの高性能化、高密度化を可能とする独自技術「Xtacking」を2019年以降に量産する予定の製品に導入すると今年8月6日に自社のウエブサイト上で発表した(参考資料5)。

また、同社CEOのSimon Yang氏は、同時期に米国シリコンバレーで開催されたフラッシュメモリの国際会議「Flash Memory Summit」に於いて同技術の詳細を発表した。 YMTCの発表は同会議にて賞賛され、「Best Innovative Flash Memory Startup」として表彰を受けた。

同社のYang CEOは「(現在、Samsung Electronicsが開発を進めている)世界最高クラスの3D-NANDのI/O速度は1.4Gbpsが目標となっているが、業界の大多数のNAND I/O は1.0Gbps以下である。Xtacking技術を適用することで、NAND I/Oの速度はDDR4 DRAMと同等以上となる最大3.0Gbpsまで引き上げることが可能となる」と述べ、NAND業界のゲームチェンジャーになることを宣言した。

Xtackingは、データI/Oとメモリセル動作の信号処理をするCMOS周辺回路と3D-NANDメモリセル・アレイを別々のウェーハを用いて作製し、それらを張り合わせるというもの。下層の3D NANDと上層の周辺回路は、ウェーハ全体に形成された数百万個の金属ビアを介して電気的に接続される。周辺回路には、NANDフラッシュメモリのプロセスよりもはるかに微細なロジックプロセスを適用できるため、既存のメモリアレイと周辺回路を一体化させた製造方法よりもデバイス性能を向上することができるとしている。

従来の3D-NANDアーキテクチャは、周辺回路がチップ面積の20〜30%を占めることから、NANDのビット密度を低下させていた。将来的に、3D-NAND技術が128層以上に進展すれば、周辺回路が全チップ面積の50%以上を占める可能性もあるとされているが、Xtacking技術を使用すると、3D NANDメモリセル・アレイと周辺回路を分けて積層できるため、既存の3D-NAND技術と比べてビット密度を高めることが可能になると同社は説明している。

また、同技術を適用すると、NANDメモリセル・アレイと周辺回路を別々のチームで設計作業を行うことができるほか、デザインルールの異なる製造プロセスを適用できるため、製品開発時間が少なくとも従来よりも3ヵ月ほど短縮、製造サイクルタイムも同20%短縮、そして市場へのアクセスタイムの短縮も可能となるため、経営面でも優位に立てるとしている。さらに、顧客の要望で周辺回路のカスタム化も容易に行なえるようになるため、ビジネスの幅も広げられると同社では、市場拡大に期待を寄せている。

同技術は2019年に大量生産を開始する予定の第2世代の3D NAND(32層品)から適用する計画だというが、すでに第3世代に相当する64層品のテープアウトも完了し、試作も進んでいるとのことで、こうした研究成果の一部が、今回のFlash Memory Summitで発表されたわけである。

中国勢の躍進に危機感強める韓国勢

まもなく始まるであろう中国メモリ業界の猛攻に対し、最も強い危機感をもっているのはSamsungとSK Hynixという2大メモリ―企業を有する韓国である(参考資料4)。

今回、周回遅れと見ていたYMTCが独自の技術により韓国勢との差異化を図ろうとしたことに対し、韓国メディアは、YMTCの発表やFlash Memory SummitでのYang CEOの講演を、驚嘆と危機感をもって速報として伝えている。中央日報は、「中国半導体が空爆、サムスンより速い32段NAND量産」(8月9日付け)と題し、中国が驚異的な速度でNANDの開発を進めていることを、危機感をもって伝えた。また、すでにYMTCが、64層3D-NANDの試作品を中国内のIT企業に納品していることなどにも触れ、韓国の半導体業界にも、2019年の下半期には影響が出てくる可能性があることを指摘した。そして、64層3D-NANDも2019年末には量産に移行することもできるとの見方も示した。

ただし、そうした脅威とする向きの一方で、ウェーハを2枚用いるため、ウェーハ2枚分のコストがかかること、ならびに積層工程が新たに追加され、生産時間が余計にかかることなどにも触れており、歩留まりが上がりにくく、量産は難しいとの見方も紹介している。

中央日報は更に8月13日付の社説で「韓国経済の柱である半導体産業に対する警報音も騒がしく鳴り響いている。『半導体崛起』を掲げた中国の追撃もまた本格化する兆しだ。中国企業YMTCは今月初めに米シリコンバレーで技術講演をして「来年からNAND型フラッシュを量産する」と宣言した。『半導体黙示録』が現実化すれば致命傷を受けるのは韓国経済だ」と述べ、韓国政府が危機を克服する政策を早急にとるように危機感をもって訴えている。

なお、台湾の経済日刊紙である經濟日報も、8月7日付で「紫光新記憶體技術震撼業界(中国紫光集団が発表した新メモリ技術が半導体業界に震撼を与えている)」との見出しで今回の取り組みを伝えており、Flash Memory Summitの開催地でもある米国を含め、中国勢の半導体メモリ技術革新への強い意欲を、脅威として受け止めた向きが多いようだ。

中国勢のリスクを負った猛攻に対処できているか

メモリセルアレイと周辺回路を別々に作って張り合わせるというアイデアは、NANDフラッシュメモリメーカーの技術者なら誰もが以前から持っていたもので、けっして驚くようなものではない。ただし、中国勢を除き誰もリスクを負って実現しようとはしなかった。分野は違うが、ソニーのCMOSイメージセンサの裏面照射や周辺回路の3次元積層もアイデアとしては昔からあったが、ソニー以外誰もリスクを負って実現しようとはしなかった。結果として、CCDに固執したためCMOSイメージセンサ最後発だったソニーがあっという間に先頭に躍り出たことは記憶に新しい。

YMTCは、既存NANDフラッシュ量産工場の隣接地に第2、第3のNAND量産工場の建設を計画しており、親会社の清華紫光集団は、天津や成都にも半導体工場(製品カテゴリーは未定)建設を計画している。同集団は今後10年間で1000億ドル(11兆円)の追加投資を計画しているとも伝えられている。また、同集団は、傘下の複数のファブレスで半導体設計能力を著しく強めており、すでに最先端デバイスを設計できるレベルに達している。中国恐るべし!の状況に、韓国勢は、そして日本勢はどのように対処するつもりだろうか?

参考資料
1. SPIマーケットセミナー世界半導体市場、2018年後半からの1年を津田編集長と議論しよう (2018/08/22)
2. 服部毅;「今後の半導体産業の成長を占う先行指標は何か? それはGDPではない!」(2017/08/23)
3. 服部毅:「今後の半導体産業の成長を占う先行指標は何か?それはメモリ価格!」(2017/09/05)
4. 服部毅:「韓国でなかなか育たない非メモリビジネス事情―韓国政府の危機感」(2018/07/24)
5. Yangtze Memory Technologies Introduces New 3D NAND Architecture -- XtackingTM

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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