今後の半導体産業の成長を占う先行指標は何か?それはメモリ価格!
前回(8月23日の筆者のブログ)、2010年以降、半導体産業の成長は世界のGDP成長に密接に連動してきたように見えるが、少なくとも今年に限っては全く連動していないと述べた。今回はその理由を考察しよう。
今年のGDPや電子機器の販売額の成長率が2%台であるのに、半導体の成長率予測は、年初からたびたび修正され続け、7月末時点で16% (IC Insights)〜17% (Gartner)と高く、さらに上方修正の可能性がある。おまけに、世界半導体市場統計(WSTS)までが6月に発表した春季予測の11.5%を、次回予測発表(12月)まで待たずに、わずか2ヵ月後の8月18日に17%へと上方修正している(参考資料1)。
電子機器の成長率は2%なのになぜ半導体の成長率は異常に高いのか?
本来なら、半導体を搭載する電子機器の伸びと半導体の伸びは、時間差はあるものの、連動するはずである。IC Insightsは7月に、今年の世界の電子機器市場は前年比で2%増の1兆4930億ドル規模に成長するが、世界の半導体市場は同15%増の4193億ドルに達するとの予測を発表した(参考資料2)。さらに、7月末には、半導体市場の成長率を16%増へと上方修正した(参考資料3)。今年年初には、半導体メモリ需給のひっ迫はすぐに解消すると読んでいた。価格上昇率(前四半期比)はピークアウトしたものの、上昇は年間を通して続くと判断し直したようだ(参考資料4)。
電子システムへの半導体搭載率(電子システムの原価に占める搭載半導体の合計価格の割合)も過去5年間23〜25%だったのが、今年はダントツの史上最高の28.1%になる見込みである(参考資料2)。さらに上昇する可能性もある。
2017年の携帯電話、自動車、PCの世界出荷台数はそれぞれ前年比で0%、2%、-2%と低調な伸びが予測されているにもかかわらず、電子システム市場と比較して、半導体市場の成長率のほうがはるかに高いのは電子システムで使用されるメモリの価格がいまだに(2017年第3四半期時点)高騰を続けている上に(参考資料4、5、6)、性能向上のためメモリ容量が増加しているためである。
データセンターのサーバは、HDDからフラッシュストレージへの置き換えが進み、フラッシュメモリの需要が急増しているだけではなく、DRAMも高密度32GB RDIMM(Registered Dual In-Line Memory Module)や64GB LRDIMM (Load Reduced Dual In-Line Memory Module)が採用され、サーバシステムに搭載された平均メモリ容量が大幅に増加している。PCでも、HDDからSSDへの置き換えが進み、DRAMも法人向け中心に4GBから8GBへ、ゲーム用PCは16GB以上へメモリ容量が増え、スマートフォンのDRAM/NANDメモリ搭載容量もPC並みに増える一方だ。
メモリ価格の高騰が半導体産業の売上額を伸ばす
今年、半導体市場が大きく伸びたのは、メモリ価格の高騰によるものである(参考資料4、5、6)。メモリバブルといわれるゆえんである。DRAMは20nmを切った微細化、NANDは3次元化への移行で、昨年来、歩留まりがなかなか向上せず、出荷量も増えなかった。半導体全体では2桁成長するが、非メモリ分野の伸びは5〜6%にとどまると見られる。
メモリ価格高騰に無縁なTSMCのさえない業績
メモリメーカーは歴史的な最高業績を続けている一方で、TSMCはじめファウンドリの業績はさえない(参考資料7)。なぜならメモリはIDMで製造されているからで、ファウンドリはメモリ価格高騰とは無縁の残念な状態だからである。
先日の「半導体市場、2017年後半を津田編集長と考える」セミナー会場では、TSMCの業績予測を半導体市場の先行指標にしているという人もいたが、今年前半のTSMCの業績は、半導体市場の拡大傾向とは真逆の動きを示しており、少なくともメモリバブル下の今年に関しては、先行指標としては最も不適当である。2017年の第1四半期の売上高は2620億台湾元 で2016年第4四半期比-10.8%、第2四半期は、さらに悪化し、2140億台湾元で前期比-8.6%と低下し続けている(参考資料8)。中国スマートフォン業界の在庫調整の影響をもろに受けた格好だ(編集室注)。台湾MediaTekの業績も急降下で、今年第1四半期以降、半導体売上トップ10から消えてしまった。
TSMCはファウンドリ市場全体の成長率については、年初に予想した7%から5%に下方修正している(参考資料7)。自社の成長率に関しては、5〜10%との予想を変えなかった。TSMCは、まもなく発表されるAppleのiPhone10周年記念モデルが予想以上の人気を博し、Samsungを振り払って独占したA11プロセッサの増産につながるように期待をかけている。
結論から言うと、メモリバブル下に限れば、半導体産業の先行きを予測するには、半導体メモリ価格の変化をウォッチして需給バランスを掴む必要があろう。特に、メモリ大口需要家はすでに数ヵ月先の価格を半導体メーカーと交渉しているから、そのような大口契約価格が先行指標になろう(参考資料5、6)。 年末に向け、例年通り需要が上向く季節を迎えており、大口契約価格も上昇している。成長率はすでにピークアウトしているが、価格自体はピークアウトしておらず、少なくとも年内にはメモリ価格は上昇するという見方が有力である。しかし、メモリバブルは、供給過剰でいずれはじける。メモリ価格ウォッチは、メモリバブル崩壊の前兆を掴むのにも役立つだろう。メモリ応用製品のメモリ搭載容量の変化や売れ行きにも留意する必要があろう。
iPhoneプレミアムモデルの売れ行きにも注目
9月12日(米国米国時間)にApple 本社に新設されたSteve Jobs TheaterでiPhoneの新しいモデルの発表会が開催されることになった。新製品のうち、ベゼルレスOLEDパネルとPC並みの容量の半導体メモリと新たな機能の新型半導体チップセットを搭載したプレミアム(最上位)モデルの人気と売れ行きが半導体およびディスプレイ産業の先行きを占ううえで、注目される。
参考資料
1. 津田建二「世界半導体市場は2017年17%成長、とWSTSが上方修正」、セミコンポータル (2017/08/24)
2. 服部毅「2017年の世界半導体市場は4100億ドルを突破か? - IC Insights予測」、マイナビニュース (2017/07/24)
3. 服部毅「2017年上半期の半導体売上高トップはIntelではなくSamsung - IC Insights」、マイナビニュース(2017/08/03)
4. 服部毅「史上最高値となる可能性が出てきた2017年の半導体メモリ市場 - IC Insights」、マイナビニュース (2017/07/20)
5. 服部毅「サーバ向けDRAMモジュールの契約価格は第3四半期も3〜8%上昇 – TrendForce」、マイナビニュース (2017/06/28)
6. 服部毅「2017年Q2のNAND市場は前四半期比8%増、価格の高騰は継続 – DRAMeXchange」、マイナビニュース (2017/08/24)
7. 服部毅「台湾TSMC、2017年のファウンドリ市場の成長見通しを下方修正」、マイナビニュース (2017/04/21)
8. TSMC 公式業績発表資料日本語版
編集室注)最新の中国のスマホ市場は復活しており、在庫調整は終わっている。MediaTekやTSMC、Qualcommが直面している問題は、SpreadtrumやHiSiliconなど中国製のアプリケーションプロセッサメーカーの台頭だ。またTSMCはQualcommの最新プロセッサSnapdragon 835の製造(10nm FinFETプロセス)をSamsungに取られたという苦い経験があり、服部氏の言うように業績はパッとしない。