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韓国でなかなか育たない非メモリビジネス事情―韓国政府の危機感

韓国Samsung Electronicsの李健熙(イ・ゴンヒ)会長は、いまは心筋梗塞の後遺症で長期入院中であり、経営判断を下せる状態に全くないといわれているが、現役時代の社員に向けた経営メッセージは常に先見性に満ちていた。

李健熙氏は、かつて巨額脱税などいくつもの経済犯罪で有罪判決を受けたが、2009年末にオリンピック招致のための大統領恩赦で釈放され、翌年Samsung会長職に復帰し、再び経営の陣頭に立った。その際の社員に向けた第一声は「今後10年以内にSamsungを代表する製品の大部分は中国に奪われてしまう。今が本当の危機だ。改めてスタートしなければならない。ためらっている時間はない」という、危機感に満ちたものだった。李健熙氏は、業績が世界シェアトップの半導体メモリや液晶パネルでも中国の追撃を受けるとの危機感を強める一方、成長の原動力となる新事業発掘・育成に全力を傾けなければならないことを強調した。彼は、数年のブランクののち会長職に復帰してみたら、世の中は激しく変化しているというのに、社員は強い部分をさらに強くしているにすぎず、未来志向ではない旧態依然たる商品構成にいら立っていた。

しかし、Samsungは、その後も半導体メモリやディスプレイなどの主力製品に注力し続けシェアを伸ばしている。現場の責任者にしてみれば、業績評価や人事考課の重要指標である目先の売上額や利益確保に追われ、業績不振による解雇を恐れているから新事業育成などリスクをとって会社の将来など考えてはいられまい。

2016年後半以降のメモリ価格の異常ともいえる高騰で売り上げが伸び、濡れ手に粟のような状態でSamsungはますます半導体メモリビジネスにのめり込む結果となっている。しかし、李健熙氏の予測通り、あれから10年後の2020年までに中国勢はSamsungのメモリはじめ主要製品のシェアを奪うまでに急成長しようとしている。Samsungは、果たして非メモリ新事業育成に全力を傾けてきたのだろうか。

韓国政府が国内半導体メーカー非メモリ事業の強化を要求

そのような中、韓国の白雲揆(ペク・ウンギュ)産業通商資源部長官(日本の経済産業省大臣に相当)は、去る6月に国内大手半導体メーカーの経営者たちを呼び、非メモリ事業の強化を求めた。その背景には、韓国勢が圧倒的なシェアを誇る半導体メモリ分野で、国策で激しく追い上げてくる中国勢との技術格差が縮まり、シェアを奪われてしまうのではないか、中国政府の半導体産業への巨額官製ファンドで韓国の半導体産業が競争力を失ってしまうのではないかという強い危機感が、韓国政府関係者の一部には以前からあった。

半導体だけではなく、スマートフォン、ディスプレイ、テレビなど韓国大手エレクトロニクスメーカーの主力事業に対する中国メーカーの攻勢が一層強まっているので、韓国政府の危機感は強まるばかりだ。韓国政府は、中国当局がSamsungやSK Hynixを長期にわたるメモリ価格高騰に関して独占禁止法違反の疑いで調査している点にも神経をとがらしている。韓国政府は、中国当局が韓国企業に対して今後様々なけん制を仕掛けてくるのではないかと危惧している。もしも適切な対応ができなければ韓国の主力産業は未曾有の危機に直面する可能性が高まっているとの認識である。

産業通商資源部が非メモリビジネス強化を訴えたのは今回が初めてではない。過去にも繰り返し非メモリ強化政策や設計人材育成策を打ち出してきたが、ほとんど成功していない。かつての日本がそうであったように、韓国半導体産業はメモリの成功体験からはなかなか抜け出せるのもではない。かつて、先端メモリ開発一筋のSamsung副社長兼Samsung Fellowが、非メモリ部門(ファウンドリ工場長)へ人事異動となったことを悩み、躁鬱(そううつ)状態となり自殺する事件があった。韓国政府が何と言おうと、主流ではない非メモリがなかなか育たないことがわかるような出来事である。

韓国政府や半導体業界は、中国勢の半導体への“爆投資”だけではなく、韓国の半導体メモリおよび有機ELディスプレイ技術者の高額での引き抜き、それに伴う中国への半導体技術流出に戦々恐々としている。韓国政府は、産業技術の違法海外流出に対する処罰を強化し、韓国企業も海外への営業秘密漏洩や海外転職禁止などの訴訟を起こしているが、韓国から中国への技術や人材の流出は歯止めがかからない。

メモリバブルに酔いしれる韓国に非メモリ旋風は起きていない

韓国の有力紙である東亜日報は、すでに18年前の2000年7月11日付け紙面で「メモリ半導体に続いて、非メモリ半導体分野でも韓国旋風が起こると見られている」という記事を掲載している。しかし、メモリバブルに酔いしれる韓国で、いまだにそんな旋風は起きていない。それどころか、韓国の旧Samsung財閥系の日刊紙中央日報(2018年2月21日付)は「中国が半導体崛起(くっき)、システム半導体では韓国はすでに抜かれている」という警告記事を掲載している。

韓国勢のメモリビジネスの世界シェアは6割を超えているが、システムLSIなど非メモリ部門の世界シェアはわずか数%にとどまっており、シェア拡大は至難の業だ。中国ではファブレスやデザインセンタが雨後の竹の子のように続々誕生して急成長を遂げている。世界半導体ファブレスランキングトップ10に中国企業が2社(参考資料1)、トップ50に10社もはいっており(参考資料2)、今後さらに続々ランクインする勢いだが、メモリ量産大国の韓国は、日本以上にファブレスが育っていない。韓国のトップ・ファブレス企業はLGグループのSilicon Worksだが、2017年売上高は6億ドルにすぎない。韓国の世界ファブレス売上高シェアは、統計上数字に出てこないほど低い(参考資料2)。

非メモリビジネスで問われるのは商品提案力

システムLSIに代表される非メモリ市場は、メモリ市場よりはるかに大きく、自動運転、IoT、データセンター、5Gなど今後大きな需要が期待できる新分野が続々登場してきており、市場が急成長する勢いにある。グローバルなメガトレンドを掴み、その大波に乗って商品競争力あるASSPを世界に売り込める者は大成功するが、顧客の言いなりになって言われるままに買いたたかれていては、成功はおぼつかない。

システムLSIは、今後成長する産業分野の中核エンジンとして、未来を拓く成長産業だ。そこで半導体企業に最も問われるのは、商品企画力である(参考資料3)。ファブレスには、顧客に対して「この半導体を最終製品に搭載すれば、こんな市場価値が出る」と提案する能力が求められる。つまり未来を見据えた卓越した商品提案力が必要だ。また、グローバルな規模のマーケティング力も必須だ(参考資料3)。卓越した企画・設計力を持ってグローバルなマーケットを相手にする者にとっては絶好のチャンス到来だ。一般に、DRAM成功体験企業は、これらが著しく弱いから、ファブレスになっても成功するのは難しい。

ファブレスでは勝ち目がないなら、製造力にモノを言わせてファウンドリビジネスで勝負するしかない。しかし、この世界では、トップの台湾TSMCが市場の過半を握っており、残りのシェアを2位(米GlobalFoundries)以下の多数のライバルが奪い合う激戦状態にある(参考資料4)。果たして、韓国勢は、少品種大量生産DRAMとはビジネスモデルが全く異なるファウンドリビジネスで成功できるのだろうか。次回はこの辺りを具体的に考察する予定である。

参考資料
1. 服部毅:「2017年の半導体ファブレストップ10 - 中国企業が2社ランクイン」, マイナビニュース 2018.1.10
2. 服部毅:「2017年の国別ファブレス半導体メーカーシェア1位は米国 - 中国が猛追」, マイナビニュース  2018.3.27
3. 服部毅:「なぜ負ける日本勢、問われるのは商品提案力」 週刊エコノミスト、2016.10.25 号 pp.31-32.
4. 「2018年上半期の半導体ファウンドリランキング予測」, マイナビニュース 2018.5.29.

Hattori Consulting International代表 服部毅

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