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生体埋め込み用厚さ0.6mmの全固体薄膜リチウムイオン電池

薄膜技術による全固体リチウムイオン電池は、半導体プロセス技術で製造するウェーハベースのバッテリ製造技術であるが、医療用に人体に埋め込む用途では10年以上使えるメドが立った。英国のファブレス企業Ilika(イリカと発音)社は、新型電池Stereax M50を開発、生体埋め込み可能な応用としてその製造方法をライセンス開始した。

Stereax M50

図1 半導体チップと同様な製造法でありチップ化した全固体リチウムイオン電池 出典:Ilika


全固体薄膜リチウムイオン電池は、カソードにリチウムを含む3〜4元系化合物で成り立ち、その組成構成を調整することが極めて難しかった(参考資料1)。これまでも全固体薄膜リチウムイオン電池に挑戦した企業はCymbet社をはじめとして数社あったが(参考資料2)、いずれもビジネス化で失敗した。Ilikaは、3〜4元系化合物の組成を連続的に変えて最適な組成を求める技術である独自のコンビナトリアル技術を持っており、この技術を使って、全固体薄膜リチウムイオン電池の最適な組成を生み出した。もちろん、その組成は秘中の秘だ。

今回開発したStereax M50は、電力容量が50µAh、出力電圧3.4V、サイズは10.75mm×3.75mm×0.6mm(厚さ)となっている(図1)。人体に埋め込む用途で10年間持たせるような設計が可能な応用ができつつある。2年前に開発したStereax P180に次ぐ商品となる。

この技術を待望している、肺動脈圧モニタリング技術のベンチャー企業がすでに現れている。体内埋め込み機器のEndotronix社だ。同社CTOのMike Nagy氏は、「無線のデータ伝送を可能にする小型で長寿命の電源の必要性が高まっている」、とコメントしている。

従来のペースメーカーは電池駆動だが、電池の取り換えのため数年ごとに体内から取り出し、再度埋め込むという手術が必要になる。この作業を手術せずに無線で充電し、埋め込まれた機器を取り出さなくて済むようにしたい、という訳だ。Stanford大学のAda Poon准教授(当時)は、ミッドフィールド充電技術を開発、皮膚から5cm程度の深さなら機器を充電できるワイヤレス充電技術を開発している(参考資料3)。

かつて、Ilika社の全固体薄膜リチウムイオン電池の開発にトヨタ自動車工業も出資していたが、自動車用としてはまだ十分な電力容量に達していない。2年前にStereax P180を商品化したが、これは使用温度範囲が-40〜150°Cと広い工業用のIoT向けの製品。今回の医療向けはこれに続く商品となる。もちろん、IlikaはEV用の電力の大きな全固体薄膜リチウムイオン電池を継続して開発中だ。

ただし、Ilikaは試作ラインを持っているが、量産はライセンスによって提供する。いわばIPベンダーと同様なビジネスモデルとなる。同社は、日本の量産パートナーを探している。日本の代表は、かつて東芝のトップ半導体設計エンジニアだった、古山透氏。ただし、国内の量産可能なメーカーがぐずぐずしていると、アジアの電機メーカーに先行されてしまうリスクもある。

参考資料
1. 完全固体薄膜電池のパートナーを求める英Ilika社 (2017/07/04)
2. 厚さ150µmのLiイオンバッテリ、半導体プロセスで作製、商品化1号 (2013/11/20)
3. 「ミクロの決死圏」を半導体技術で再現−Stanford大の試み (2014/06/25)

(2019/04/18)
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