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厚さ150µmのLiイオンバッテリ、半導体プロセスで作製、商品化1号

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厚さ0.15mm(150µm)とA4用紙のように薄い薄膜のLiイオンバッテリが商品化された。Siウェーハ上に薄膜を形成する製法を使うため、Si LSI回路も集積できるというメリットもある。現実には、PoP(Package on package)や3D ICを動かすための電源としても使う。発売したのは米ベンチャーのCymbet社。

図1 名刺に張り付けたICパッケージに封止したLiイオン電池

図1 名刺に張り付けたICパッケージに封止したLiイオン電池


この「チップ電池」は、固体電解質の薄膜をアノードとカソードの間に形成したもの(図2)。固体電解質の中をLiイオンがカソードからアノードへ行くことで放電する。充電はその逆。薄膜形成基板はSiウェーハ(図3)。出力電圧は3.7V、と従来のLiイオン電池と同じ。ただし、電流容量がまだ小さく、用途としてはエネルギーハーベスティング用のバックアップ電源、さまざまなワイヤレスセンサ、IoT(Internet of Things)、ウェアラブルデバイスなどが想定されている。


図2 薄膜電池の断面 出典:Cymbet

図2 薄膜電池の断面 出典:Cymbet


図3 6インチSiウェーハに形成したLiイオン電池

図3 6インチSiウェーハに形成したLiイオン電池


Cymbet社は、2001年に米国ミネソタ州ミネアポリス市の郊外イルクリバーに設立された。ここに本社と研究開発機能を持つ。開発した製品は、ミクストシグナル半導体専門のファウンドリであるX-Fab社(テキサス州リューボック)が量産する。薄膜Liイオン電池の製造装置はCymbetが自社で開発、X-Fabの工場に提供した。

これまで、薄膜Liイオン電池の開発例はあったが、商品化までこぎつけたところはなかった。セミコンポータルでも、2008年12月にアルバックとアルバックマテリアルの薄膜製造装置を紹介したが(参考資料1)、商品化できなかった。アルバックはパートナーを求めたが、その直後にリーマンショックの影響を被り、とん挫したようだ。今回の薄膜Liイオン電池の構造は、アルバックの技術と似ているが、Cymbet社はアルバックの装置については全く何も知らなかったという。構造は似ているが、おそらく基本構造は知られていたに違いない。カソード膜、電解質膜の安定性を確保する技術を開発したのではないだろうか。この質問には「そこが最も苦労したところだ」と同社のCEO、Bill Priesmeyer氏(図4)は製造技術については多くを語らない。

ただし、同社のウェブビデオを見ると、Si基板上にコバルト酸リチウム(LiCoO2)をカソードとして形成し、固体電解質としてLiPONを使っている。その上にアノード材料(電流収集電極とも呼ぶ)としてLiフリーの材料を用いているとする。


図4 Cymbet社CEOのBill Priesmeyer氏

図4 Cymbet社CEOのBill Priesmeyer氏


薄膜電池としての使い方は、ベアダイ、スタックなど一つのパッケージ内に複数の半導体チップと一緒に集積して実装する。電源電圧を調整するためのDC-DCコンバータなどのパワーマネジメントICも一緒にパッケージしてもよい。あるいはマイコンやソーラーセルなどをスタックして透明パッケージで封止すると超低消費電力のシステムになる(図5)。Bill Priesmeyer氏はサンプルとして、名刺に張り付けた薄膜電池(図1)を持ち歩く。


図5 半導体チップやソーラーチップともスタック集積 出典:Cymbet

図5 半導体チップやソーラーチップともスタック集積 出典:Cymbet


図6 すでにリファレンスボードを数種類作製している

図6 すでにリファレンスボードを数種類作製している


Cymbetのチップ電池の電流容量は、外形の大きさによるが、5µAhから50µAhなどがある。それらに合わせて、開発ツールも数種類揃えており(図6)、バッテリの完成度はかなり高い。これを2014年には、同じ面積で3〜4倍の電流容量に増やすとしている。組み込み電源やエネルギーハーベスティングが2015年あたりから立ち上がると見て、このトレンドに合わせて製品ポートフォリオを増やしていく。電池の容量はフォトリソグラフィで作るため、もっと小さなバッテリを作る場合でも問題がないとしている。

参考資料
1. 厚さ50µmのリチウムイオン電池を作成できる技術、装置をアルバックが開発 (2008/12/03)

(2013/11/20)

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