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MEMS特集:デジタルマイクICに徹するAkustica、水晶置き換え狙うSiTime

MEMS市場は比較的中小企業でも参入できるという特長がある。それも応用に特化したメーカーは着実に市場をつかもうとしている。マイクロフォンに特化するアクースティカ(Akustica)社、水晶発振器の置き換えを狙うサイタイム(SiTime)社は、それぞれの応用に向け設計から製造・応用技術、全てを提供する。

Akustica社CEOのStefan Finkbeiner氏

Akustica社CEOのStefan Finkbeiner氏


0.87mm角のMEMSマイクチップ
米アクースティカ社は、もともと自動車部品最大手のロバートボッシュからスピンオフした会社だ。MEMSセンサーではもう1社、Bosch Sensor Techも有名だが、こちらは2005年から民生用に特化してモーションセンサーや圧力センサーなどの製品を出荷している。一方のアクースティカは、Sensor TechがカバーしないMEMSの小型マイクに注力する。しかもファブレスだ。製造はロバートボッシュのラインをファウンドリとして利用する。このため、マイクロフォンの性能を上げ、消費電力を減らし、ノイズを削減し、チップ面積を縮め、使い勝手を上げることに集中できる。

マイクロフォンをMEMS技術で作ると小型になるばかりではなく、「従来のECM(エレクトレットコンデンサマイク)ではできなかった表面実装が使えるというメリットがある」と、同社CEOのStefan Finkbeiner氏(図1)は語る。ECMマイクではリフローはんだを行うと性能が1dB変化したため品質を保証できなかった。信頼性試験は200時間がやっとだという。しかしシリコンのMEMSマイクなら1000時間の信頼性試験にも耐えられる。


図2 MEMSマイクはメッシュを利用、感度を最適化 出典:Akustica

図2 MEMSマイクはメッシュを利用、感度を最適化 出典:Akustica


新製品のAKU230は、MEMSセンサーとプリアンプと変調器を1チップのシリコン(0.7mm2)上に集積したデジタル出力の超小型マイクロフォンである(図2)。パッケージに入れたサイズは3.76×4.72×1.25mmと小さい。マイクとしての周波数特性は3kHzまではほぼフラットだが、周波数がそれ以上高くなると持ち上がっていく。パッケージ内で共振するためだ。22kHz付近に共振周波数を持つ。


図3 微細化せずに設計だけで小型化 出典:Akustica

図3 微細化せずに設計だけで小型化 出典:Akustica


同社が開発してきたMEMSマイクは2006年には1.9mm角、2008年に1.4mm角、2009年は1mm角と毎年小型化してきた。今回は0.84mm角とこれまでの最小にしたが(図3)、デザインルールは0.35μmのトランジスタノードを変えずにレイアウトと設計のコンパクション技術だけで小型にした。配線幅・間隔は共に0.6μm。

狙う市場はまずラップトップパソコン、次にスマートフォンである。ラップトップパソコンを開いた状態でディスプレイの上部にマイクを置きたいというニーズがあり、これに応えた。ディスプレイの上だと、キーボードを打つ時の音を拾わないとしている。また、このチップの出力はビットストリームのデジタルだが、これによってアナログでは拾いがちだったノイズを拾わずに済んだという。MEMSマイクとアンプとの距離が長ければノイズを拾ってしまうが、短くしかもすぐにA-D変換しているため、ノイズの影響を受けずに済んだ。

このチップにおいてCMOSプロセスには外部のファウンドリを使い、MEMSプロセスはボッシュをファウンドリとして使う。MEMS-lastのプロセスではあるが、CMOS回路の配線工程からMEMSファウンドリへ手渡す。最初の顧客が富士通だったこともあり、CMOSファウンドリは日本のセイコーエプソン(酒田工場)を使っている。ボッシュはMEMSファウンドリとして定評があるとして多数の顧客を抱えているという。

新製品は、顧客の要求によってインターフェースをI2CでもPCMでもカスタマイズする。クロック周波数は2~3MHz。2006年以来、基本的な回路ブロックは変わらないが、メンブレン構造は変えているという。顧客によって感度や性能、周波数応答などを最適化し、そのためメンブレンのメッシュやメタル構造を変えた。

小型のMEMSマイクによって、コストダウンできるだけではなく、今後、スマートフォンに2個のマイクを3個に増やすこともヘッドセットレコーダとしての応用もあるとしている。


温度安定性は水晶並みに
一方の米サイタイム社は、水晶を全く使わずに発振器やクロックジェネレータ、共振器を設計製造する。ここでの競争相手は水晶である。水晶ではできない、あるいは水晶よりも性能の高いシリコンMEMS発振器などを作ることで市場を開拓していく。これまで水晶を使ってきた応用を全てシリコンで置き換える。設計から製造、応用まで「ワンストップショッピングを狙っている」と同社マーケティング担当VPのPiyush Sevalia氏(図4)は言う。


図4 SiTime社マーケティング担当VPのPiyush Sevalia氏

図4 SiTime社マーケティング担当VPのPiyush Sevalia氏


サイタイムは、周波数安定度を0.02ppmから100ppmまでコストとの兼ね合いで、製品を揃えている。製品は大きく分けて3種類ある。振動子(水晶相当)、発振器、クロックジェネレータである。発振器はアナログ回路やPLL(位相ロックループ)を使って1個クロックを作り出す回路、クロックジェネレータは複数のPLLで複数のクロックを発生させる回路、と定義している。


図5 SiTimeは発振器、クロックジェネレータをMEMSで広くカバー

図5 SiTimeは発振器、クロックジェネレータをMEMSで広くカバー


2011年2月には発振器のEncore(アンコール)プラットフォームを設計、周波数揺らぎが±0.5ppmと最も少ないOCXO(oven controlled oscillator)、温度補償したTCXO(temperature compensated oscillator)、VCXO(voltage controlled oscillator)製品向けに発表した後、4月にはSSD(solid state disk)向けの発振器3種類と、タブレットPCや電子ブック向けの発振器SiT8003を矢継ぎ早に発表した。同社によると、水晶振動子を利用する発振器よりも30%薄く、衝撃や振動には10倍強いとしている。

Encoreの性能は、周波数の温度安定性が±0.5ppmと小さく、12kHz〜20MHzに渡ってランダムな位相ジッターノイズは0.65psと小さい。このため通信やネットワーク機器、ワイヤレス、ストレージ機器に向くとしている。


参考資料
MEMS特集:半導体の総合力を生かしたソリューションを提供、フリースケール (2011/05/13)
MEMS特集:ファウンドリ、ファブライトに集中して製品群を広げるIMT、VTI (2011/05/17)

(2011/05/19)
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